はじめに
この記事では腹筋群(腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)の解剖学と機能、鍛え方を解説する。
腹直筋は体幹の屈曲と骨盤の後傾に関与し、腱画による分割構造から部位別の鍛え分けが可能である。外腹斜筋は体幹の回旋や体幹の安定に寄与し身体のアウトライン形成に寄与する。内腹斜筋は外腹斜筋と交差するように走行し同側回旋を担う。腹横筋は脊椎の安定性を高め、腰痛予防やウエストの引き締めに貢献する。
鍛え方として、腹筋群は他の筋群と連動しやすいためコントラクト重視、重すぎる負荷を避けるべきである。腹横筋にはドローインが有効であり、腹直筋は部位別に支点を意識することで細かく鍛え分けが可能である。外腹斜筋にはサイドクランチやサイドレッグレイズが有効であり、前鋸筋との連動も重要視される。
この記事を読むことで、美しい見た目と機能的な体幹を両立させるための解剖学的知識と実践的なトレーニングアプローチが理解できる。
起始停止と機能
https://www.intrainingsports.com/fitness-blog/anatomy-abs.htmlより引用。
腹直筋
腹直筋は腰部の動きに関与し、骨盤の傾きをコントロールする役割を持つ。腹直筋下部が収縮することで、恥骨が引っ張られ骨盤が後傾する。これにより骨盤が立ちまっすぐになる。骨盤がまっすぐになることで脊柱起立筋や腸腰筋が効果的に機能を発揮する。
腹筋が4〜8パック(ヒトによっては10パック?)と表現される理由は、腹直筋が筋線維と腱から構築されるからだ。腹直筋は腱画という部位で横に分けられ、白線で縦に分かれる。
腹直筋が腱によって分かれているということは、腹直筋は全体が連動して動きはするが、各部位を優先的に動かすことができることを意味する。これはリアデルトと菱形筋が筋膜で繋がっているが、やり方によって同じ種目でも鍛え分けられることと同じである。もし腹直筋が腱で分かれていなければ、上腕筋のように純粋な機能しか持っていないはずだ。
外腹斜筋
外腹斜筋は腰部の屈曲に関しては左右が同時に収縮して腹直筋を補助する。右肘を左膝に近づけたり、腰を右に回旋させるように動かすと右の外腹斜筋が良く動く。逆も然り。
腹直筋はディティールを構成する骨格筋であるが、外腹斜筋はアウトラインを構成する骨格筋である。外腹斜筋の広背筋寄りの部分が発達すると広背筋に続くVシェイプが大きくなる。外腹斜筋の腰部分が発達すると中殿筋と広背筋の間に段差ができさらなるくびれができる。このくびれはサイドから見た時のアウトラインをきれいにする。
外腹斜筋の発達は、ヒトによってはウエストが大きく見えてしまうので注意が必要である。
https://www.reddit.com/r/bodybuilding/comments/dlvye0/hadis_obliques_are_just_amazing_he_hits_quarter/及びhttps://www.greatestphysiques.com/male-physiques/ryan-terry/より引用。
外腹斜筋は見た目だけでなく機能的にも重要な役割を果たす。外腹斜筋は肋骨と骨盤を安定させる役割があり、トレーニング中に胸郭を安定させることに貢献する。
胸郭、肋骨、骨盤が安定させることが体幹を安定させることであり、肋骨と骨盤の安定を司る骨格筋が外腹斜筋である。
体幹を安定させることは肩関節を使うトレーニングで対象筋を狙ううえで重要だ。例えばプルアップ中に外腹斜筋の力が抜けてしまうと肋骨と骨盤が自由に動いてしまい、反動や腕で動作ができてしまう。サイドレイズで体幹が安定していないと胸郭と肩甲骨を開いて動作ができてしまい僧帽筋で動作ができてしまう。
外腹斜筋は、「フー」と息を吐くのではなく、「ハッ」と息を吐くことで収縮する。外腹斜筋の役割を補助する意味でトレーニングベルトを巻くのは良い。トレーニングベルトはあくまで体幹安定の補助として使うので、きつく巻きすぎるのは良くない。なぜならかえって腹圧を弱めるからだ。
内腹斜筋
内腹斜筋は外腹斜筋の深層にあり、外腹斜筋と反対方向に筋繊維が走行している。そのため内腹斜筋は腰部を右に回旋すると右側が、左に回旋すると左側の筋線維が収縮する。
腹横筋
腹横筋は咳をしたり運動時の呼気の時に働く骨格筋である。腹横筋の役割は、腹筋群が外に出ないように引っ込めておく役割がある。そのため身体のコルセットと呼ばれることがある。
腹横筋の重要性は、それがコルセットと似た機能を持つといえば理解できる。腹横筋は四肢の動きに先立って活性化し脊椎の合成を高める役割を持つ。これは肩関節におけるローテーターカフと同じ役割で、高強度運動の際の脊椎周りのケガを防止する。
実際に腰痛の原因の一つに腹横筋の収縮遅れがあげられる。腰痛のある人では超音波で測定された腹横筋の活動が低下しており、筋活動の開始が遅れる傾向にある。
ボディビルやパワーリフティングや筋トレで扱う重量が高くなっていくほどケガの可能性が高くなっていく。腹横筋は脊椎の剛性を高めることで腰痛を防ぐため高強度とレーニングを補助する。
腹横筋は脊椎のケガ予防だけでなく、ウエストを細く見せるために貢献をしてくれる。なぜなら腹横筋は体幹に対して横に筋線維が走行しているからだ。ここが収縮するとウエストが細く見えるのは、トレーニングベルトやコルセットをきつく巻くとウエストが一時的に細く見えるのと原理は同じである。腹横筋はその役割から離れた腹筋を一時的にくっつけることにも貢献する。
腹直筋は腹筋のディテールを、外腹斜筋はアウトラインをつくり、腹横筋はくびれを強調する。このように腹横筋は重要な役割を持つ。しかし筋繊維の走行を理由に負荷をかけにくい部位でもある。なぜなら筋トレの基本は筋繊維の走行に合わせて収縮伸展させることだから。
鍛え方
共通項
腹筋群を鍛える際の共通項として、コントラクト重視で重い重量を扱わないことがあげられる。なぜなら腹筋群は他の部位と繋がっているからだ。
腹直筋は大腿直筋と腸腰筋、大胸筋などと、外腹斜筋は広背筋などと繋がっているため、身体を丸めるという動作はやろうと思えば脚や胸、背中を使って行うことができる。クランチが分かりやすいが、身体を起き上がらせることに集中するあまり股関節屈曲で動作している人を良く見る。これはクランチではなく上体起こしである。
以上のことから、腹筋群を鍛える際はコントラクト重視でおもいい重量を扱わない方が良い。
腹横筋
腹横筋を鍛えるエクササイズは以下のようになる。
①腹横筋をアイソメトリック収縮する。息を吐き切る。
②吐き切ったところでへそを背骨に引き寄せる。背臥位の場合床に、立位の場合壁にへそを押し付けるイメージ。吐き切ったところを10秒保持。
③最後に息を最大限に吸う。胸郭が膨らむくらいまで息を吸う。
この3ステップが1レップである。10回3セットを目安に行う。
この腹横筋のトレーニング、簡単に言うとドローインである。腹横筋を鍛える種目としてドローインは効果が立証されており、リハビリの分野で採用されている。
https://amiyogapilates.com/2023/07/26/drawing-and-bracing/より引用。
ドローインとは腹横筋、腹斜筋を収縮させて下腹部をへこませる呼吸法である。ドローイングをすることで骨盤が後傾するとともに肩甲骨が上方回旋する。そのためドローインは肩回りの筋肉を鍛えたいときに有効である。
筆者は普通の人より骨盤が前傾しているため、骨盤をまっすぐにするためにドローインをしている。筆者とは逆に骨盤が過度に後傾しているヒトがドローインをすると骨盤が後傾しすぎることもあるので注意だ。
一方でブレージングとは、横隔膜や腹横筋を緩めておなかを膨らませる呼吸法である。ブレーシングをすることで肋骨が閉まるとともに肩甲骨がやや下方回旋するので、広背筋や大胸筋などのように肩甲骨と肩関節を同時に動かす必要がある骨格筋を狙う際に際に有効だ。筆者は広背筋を狙うときにドローイングで骨盤をまっすぐにしたうえで軽くブリージングをしている。
腹直筋
腹直筋を狙う種目はいくつかある。全体を狙う際のコツは、身体を起こすのではなく丸めることを意識することだ。この理由は先に示した。
腹直筋が腱画で分かれているので、各ブロックの動作への貢献具合を調整できる。そのためには狙いたい部位が支点になるように脊椎を丸めると良い。具体的には上部を狙い際は肩甲骨の下くらいを支点に、中部の場合は肋骨の下あたりを、下部江尾狙う場合は腰椎を支点に丸まる。こうすると腹直筋の中でもここというように鍛え分けができる。
下部を狙いやすい種目としてレッグレイズ系があるが、その際腰を折るように上げない。こちらの方が重量を扱えるが、それは腸腰筋及び大腿直筋を使っているからである。先にも挙げたように、腰椎から上体を丸め込むように動作する。
レッグレイズでは膝を曲げる(膝関節屈曲)させると良い。何故なら二関節筋である大腿直筋及びハムストリングスが弛緩し、骨盤を過度に引っ張らなくなるからだ。これにより腰痛を軽減できる。膝を曲げた方が負荷は下がるが、それは脚にダンベルをまくかなりして対策できる。
外腹斜筋
外腹斜筋を狙う種目にはサイドクランチとサイドレッグレイズがある。前者は上から下に刺激を入れるので外腹斜筋の上側、後者は下側を狙いやすい。
外腹斜筋を狙う上で重要なことは前鋸筋である。何故なら前鋸筋と外腹斜筋はつながっているからだ。サイド暗い位置の際に脇を膝につけるイメージで行うと外腹斜筋を使いやすい。
まとめ
本記事では、腹筋群の解剖学と機能、鍛え方を解説した。
最後に内容をまとめる。
- 腹直筋は体幹屈曲と骨盤後傾を担う。
- 外腹斜筋は回旋とアウトライン形成に関与。
- 内腹斜筋は同側回旋を担う深層筋。
- 腹横筋は腰痛予防とくびれ形成に有効。
- 腹筋群はコントラクト重視で鍛える。
- 腹横筋はドローインで活性化する。
この記事の内容を理解することで、美しく機能的な体幹を構築することができる。
コメントを残す