エストロゲンの筋トレへの応用

概要

女性での生合成経路

エストロゲンとは、女性の生殖機能と二次性徴に関与するホルモンである。

https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/30_kounenki/より引用。

女性の場合下垂体で分泌されたFSHとLHは卵巣に放出され、エストロゲンが合成される。

エストロゲンには以下の種類が存在する。

エストラジオール(E2):活性が高く、男性の体内で主要なエストロゲン。

エストロン(E1):エストラジオールよりも活性化は低い。体内でエストラジオールに変換される。

エストリオール(E3):妊娠中に増加する。男性には存在しない。

男性での生合成経路

エストロゲンは女性だけでなく男性の体内にも存在する。男性の体内でのエストロゲン生成経路は、アロマターゼを介したものが主である。研究では下垂体や前立腺での局所的エストロゲン合成が示唆されているが、これらは無視して良いレベルである。

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89より筆者編集。

男性の体内では、CYP19A1(アロマターゼ酵素をつくる遺伝子)を介してテストステロンがエストラジオールに、アンドロステンジオンがエストロンに変換される。

エストロゲン受容体αとβ

エストロゲンにはα受容体β受容体が存在し、どちらにエストロゲンが結合するかで発揮される作用が異なる。

α受容体は転写活性化因子として作用し、遺伝子発現を促進する。一方でβ受容体は転写抑制因子として作用し、遺伝子発現を抑制する。

例えば乳腺の発達については、α受容体は促進し、β受容体は抑制するといわれている。

エストロゲンα受容体は乳腺発達や骨代謝などの作用を持ち、β受容体は神経保護作用、抗炎症作用等を持つ。

エストロゲンは悪?

テストステロンについて調べたことのある人ならば、エストロゲンの存在は知っているはずだ。そして多くの人がエストロゲンは抑制するべしと思っているはずだ。

多くの人が抑制すべしと思っているエストロゲンの作用は、α受容体と結合した際に起こる作用である。

β受容体についてはむしろ結合することで以下のようなメリットが考えられる。まずは回復の促進である。神経保護作用はトレーニングによる疲労を軽減してくれる。次にエストロゲンと結合することによる体温の上昇。これは代謝を亢進させるし、睡眠前なら深い睡眠を誘発してくれる。

最後にβ受容体の作用が発揮されていると、血中エストロゲン濃度が低すぎる状態にならないので、負のフィードバックによるアロマターゼが阻害される。そして血中エストロゲンがほとんどα受容体に結合しない状態が形成され、血中テストステロンの受容体への結合を促進する。

エストロゲンを筋トレに応用する戦略を要約すると、「血中エストロゲン濃度をテストステロン最大化戦略で低くし、少ないそれの濃度を維持しつつ活性化させたβ受容体にリガンドを結合させ、回復促進とアロマターゼ阻害を狙う。」このようになる。

この戦略のために、エストロゲンβ受容体に選択的に結合するエストロゲン様リガンドを採用することが検討される。そしてこれがイソブラボンである。

イソブラボン

概要

イソブラボンはフォトエストロゲンと呼ばれる物質である。1イソブラボンに含まれるゲニステインとダイゼインがエストロゲン様リガンドとして機能し、ゲニステインの方がダイゼインよりもエストロゲンβへの結合活性は強い。

エストロゲン様リガンドはイソブラボン以外にも存在するが、イソブラボンを特に解説する理由は、エストロゲンβ受容体に選択的に結合するからだ。

イソブラボンがERβを優先的に活性化させる特性は、それがしばしば選択的エストロゲン受容体調整因子(SERM)に分類される理由でもある。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0890623820302926?via%3Dihub参照。

大豆イソフラボンは、α受容体に対してはエストラジオールの1/1000~1/10000、β受容体においては 1/10~1/100の強さで結合するといわれている。

作用

イソブラボンはエストロゲンβ受容体の作用を発揮させるが、それとは別の作用が期待できる。

最初に、イソブラボン摂取がアロマターゼ活性を抑制する。男性がエストロゲンを合成する経路はアロマターゼで、アロマターゼが活性化するトリガーの一つに血中エストロゲン濃度低下があげられる。これはホルモンのフィードバック機構によるものである。

https://www.qlife.jp/dictionary/exam/item/i_14800/より引用。

テストステロンを最適化する戦略では血中エストロゲン濃度は低く保つのだが、低すぎるとそれ自身がアロマターゼを活性化させてしまう。そのため、血中エストロゲン濃度は低いのだが一定の量をキープする必要がある。

イソブラボンを一定量摂取することで、イソブラボンがエストロゲン受容体と結合することで、血中エストロゲンの濃度が一定に保たれるのだ。さらにイソブラボンはエストロゲンβ受容体に結合するため、筋肥大に貢献する回復の作用を享受しつつ、α受容体へのエストロゲンの結合を少なくできる。

まとめると、イソブラボンを摂取することで血中エストロゲン濃度が一定に保たれ、ネガティブフィードバックによるアロマターゼが阻害される。

摂取量

イソブラボン摂取量と血中性ホルモンの関係について言及している研究を参照して、イソブラボン摂取量について考察する。

平均年齢35.6歳の男性被検者20名に、6週間一日3個の小麦及び大豆でつくられたスコーンを摂取させた。スコーンに含まれるイソブラボンの総量は120㎎で、血液検査で血中性ホルモン濃度っを調査した。

結果として、総テストステロン値が19.3 nmol/l から 18.2 nmol/lに低下し、そのほかの性ホルモンの濃度に有意差は見られなかった。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0890623820302926?via%3Dihub#bib0220参照。

PSA(前立腺特異抗原)が上昇している20人の患者に、1日3回、12か月、イソブラボン47㎎を含む豆乳を摂取させ、血清PSA、テストステロン等が調査された。被験者の平均年齢は71.95歳。

結果として、遊離テストステロン濃度が約5%低下した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18471323/参照。

前立腺異常患者が被検者なのは、2イソブラボンは5αリラクターゼの活性を抑制させ、テストステロンのジヒドロテストステロンへの変換を抑制する作用を持つからである。

これらの研究から、一日100㎎以上の摂取から、イソブラボンのテストステロンへの反効果が発揮されると考察できる。

前立腺がん患者11名を対象に、1日あたり112~224mgのイソフラボンを摂取させた結果、遊離テストステロンが低下したことを報告している。

https://www.spandidos-publications.com/or/16/6/1221#参照。

112mgのイソブラボンを摂取した被験者4人では、調査後遊離テストステロンが低下した個体が3名で、12%増加した個体がいる。また低下の程度の個体だが激しい。この傾向は168mg摂取した群でも同じである。一方224㎎摂取した群では3名すべて低下している。

この研究はコントロール群が存在しないことと、被験者が前立腺患者であること、また被検者が少ないことを考慮するべきである。

イソブラボンは、負のフィードバックによるエストロゲン増加(アロマターゼ)お起こしにくいので、上記の研究にみられる言遊離テストステロン濃度の低下は、SHBGとの結合が増加したからと考察できる。そのためイソブラボンを高容量摂取する場合は、ボロンやトンカットアリと併用することを推奨する。

このような追加施策を行う場合は高容量の摂取による反作用を最小化できると考えられるが、そのような施策をせずに、男性でのイソブラボン摂取によるメリットを享受しつつ、遊離テストステロン濃度を低下を防ぐためには、一日100㎎以下のイソブラボン摂取が進められる。

例えば納豆1パック(45g)には35.5㎎のイソブラボンが含有している。豆乳200gには41㎎含有している。

まとめ

エストロゲンは女性が女性であるための性ホルモンであるが、男性の体内でも青マターゼを介して合成される。エストロゲンβ受容体と結合することで発揮される作用は回復の側面で筋非肥大に寄与する。エストロゲン様リガンドをβ受容体に結合させることで、アロマターゼを抑制しつつβ受容体の作用を享受し、α受容体へのエストロゲンの結合を抑制する。

男性の場合一日100㎎以上のイソブラボン摂取は遊離テストステロン低下を引き起こす可能性が高い。高容量摂取する場合はSHBG抑制作用を持つ成分との併用を勧める。

参考文献

  1. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9751507/ ↩︎
  2. https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2017/fo/c7fo00205j ↩︎

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