はじめに
この記事ではカフェインの歴史、作用機序、健康・運動パフォーマンスへの影響、ならびに適切な摂取法について解説する。
カフェインはかつて禁止薬物とされていたが2004年にWADAのリストから除外され、現在はモニタリング対象となっている。カフェインはアデノシン受容体を遮断することでドーパミン分泌を促進し、代謝亢進、血管拡張、NO産生促進といった生理作用を持つ。また、利尿作用や胃酸分泌促進作用もある。
運動面では有酸素系エネルギー供給を助け、トレーニングパフォーマンスやパンプの促進に寄与する。一方で、摂取タイミングを誤ると睡眠の質を著しく低下させる可能性がある。一般的には体重1kgあたり3〜6mg、運動の90分前の摂取が推奨されるが、個人差があるため適量は自ら検証する必要がある。
イントロダクション
カフェインは作用の強さからかつてドーピング物質とみなされていた過去がある。カフェインは国際オリンピック委員会(IOC)や世界アンチドーピング機関(WADA)によって1984年から2004年まで禁止薬物とされていた。1987年には尿中のカフェイン濃度が12mcg/mlを超えると陽性とする基準も設定された。
WADAは2004年1月1日よりカフェインを禁止薬物リストから除外することを決定し、WADAはカフェインをモニタリングプログラムに含めた。これは、禁止リストには含まれていないが、スポーツにおいて有害となる可能性のある物質の乱用パターンを監視及び検出するために設けられたものである。
2004年以降WADAはアスリートの尿サンプル中のカフェイン濃度が6mcg/mLを超える割合をモニターし、高用量使用がアスリートにとって有害となる可能性を監視しているが、データは一般公開されていない。さらにドーピング検査に用いられた尿サンプル中のカフェイン濃度は、カフェインが禁止物質リストに含まれていた1993〜2002年とリストから除外された2004〜2008年の間でほぼ同程度の水準にとどまっていた。
カフェインは運動前90分に3〜6mg/kg摂取することで作用を享受できる。歴史と研究を踏まえると、カフェインは効果あるかどうかを議論するフェーズにいない。例えるならば現在テストステロンについて「効果があるかないか」ではなく「外部投与による副作用をどう少なくするか」「自然療法でいかに最大化させるか」などが議論されているようなものである。
そのため以下ではカフェイン作用機序をまとめ、健康と運動パフォーマンスを高めるためにどうやって使うかについて解説する。
カフェインの作用
カフェインの作用機序
カフェインの諸作用は、アデノシンが受容体に結合することの抑制によって起こる。
https://www.frontiersin.org/journals/neuroscience/articles/10.3389/fnins.2022.978336/fullより引用。
アデノシンは受容体に結合すると、ドーパミンの分泌を抑制する。カフェインはアデノシンと構造が似ており、アデノシン受容体のリガンドとして機能することができる。カフェインを摂取するとアデノシンの代わりにカフェインが受容体に結合するので、ドーパミンが抑制されなくなる。
カフェインの持つ作用はアデノシン受容体への結合である。これによって様々な作用が発揮される。その中でも筋トレに関連する要素を示す。
代謝亢進作用
https://www.degruyterbrill.com/document/doi/10.1515/jbcpp-2016-0090/htmlより引用。
アデノシンによるドーパミン分泌が抑制され交感神経系優位になると、カテコールアミンの分泌が促進される。脂肪燃焼のメカニズムを解説した記事で、カテコールアミンの分泌が脂肪燃焼のトリガーであることを解説した。カフェインはカテコールアミンの分泌を促進する点で代謝亢進作用がある。またカフェインはホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害しcAMPを活性化させる。こうしてリパーゼが活性化する。
血管拡張作用
カフェインは血管拡張作用を持つ。なぜならカフェイン摂取によりカテコールアミンであるアドレナリンの分泌が促進されるからだ。アドレナリンβ受容体に結合することで気管支が弛緩し血管が弛緩する。
NO(一酸化窒素)増加作用
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1155/2010/834060より引用。
カフェインはNOの産生を高める。カフェインは、内皮細胞に作用して細胞質内カルシウム濃度(Ca²⁺)を上昇させる。これによりカルシウム–カルモジュリン複合体が形成され、この複合体が内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)を活性化させる。その結果NOの産生が促進される。
その他作用
カフェインには利尿作用がある。なぜならアデノシン受容体の一つは腎臓に存在するからだ。化フェンが作用すると尿細管の再吸収(原尿のうち身体に必要なものを再吸収し必要ないものを排泄する作用)を阻害してしまう。
カフェインは迷走神経を刺激することで胃酸の分泌を促進する。胃酸の分泌という観点から消化を亢進させるが、居に固形物がない場合は胃酸が過剰に分泌されるので痛みが発生する。
カフェインの作用ではないが、主なカフェイン供給源のコーヒーにはポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が豊富に含まれており、抗酸化作用を持つ。インスタントコーヒー粉2gあたり300㎎のポリフェノールが含まれている。
実践
睡眠との関係
カフェイン摂取のデメリットは睡眠の質が低下することである。
カフェインの摂取タイミングと睡眠の関係を調べた研究がある。この研究では、12人の被験者が就寝0時間前、就寝3時間前、就寝6時間前にカフェインを摂取する群、何の関与もしないコントロール群に分けられ、各群の睡眠の質が比較された。結果として、就寝0時間前、3時間前にカフェインを摂取する群は就寝6時間前にカフェインを摂取する群と比較して著しく睡眠の質が低下していた。この研究で被験者が就寝前に摂取したカフェインの量は400㎎である。
就寝前にカフェインを摂取した群はコントロール群と比較して1時間程度の睡眠時間減少、寝付くまでの時間の増加等が見られ、睡眠の質が低下していることが分かる。就寝6時間前にカフェインを摂取した群とコントロール群を比較しても睡眠の質に差があることから、いかにカフェインの作用が持続するかが理解できる。
カフェインは胃から血液に流れ込むことで体内に吸収される。カフェイン摂取後30分後に効果が最大になり、半減期は6時間である。そして摂取後10時間程度で摂取したカフェインのすべてが代謝される。
就寝6時間前のカフェイン摂取でも睡眠の質に多少の悪影響を与えたこと、カフェインの代謝に10時間要することを考えると、睡眠10時間前以降のカフェイン摂取は推奨できない。最低でも就寝6時間前のカフェイン摂取は避ける。
トレーニングでのメリット
カフェイン摂取は有酸素系のエネルギー供給を助けることでトレーニングパフォーマンスを高める。これによりいつもより多いボリュームを稼いだり、強い力を発揮できる。
カフェインを摂取した群と摂取しない群での1500m走のタイムを比較した研究では、カフェインを摂取した群の方が摂取しない群と比較して約4秒タイムが早くなったという結果が得られた。カフェインの血管拡張作用により、酸素を利用してエネルギーを産出する有酸素系のエネルギー供給が促進されたと考えられる。
この世に純粋な無酸素運動と有酸素運動は存在しない。例えば200m走のような瞬発系種目であっても、エネルギーのうち3割は有酸素系から供給されることを報告する研究が存在する。
筋トレは無酸素運動有意であるが、インターバル中の回復は有酸素系でのATP産出により達成される。また筋力トレーニングが後半になるにつれて、筋力トレーニング中に使用するエネルギーに占める有酸素系の割合が高くなる。
以上のことからカフェインは有酸素系のエネルギー供給を促進されることでトレーニングパフォーマンスを高める。
またカフェインの持つ血管拡張作用やNO産出はパンプを促進する要素であり、筋形質肥大を最大化するためにも利用できる。その際はカフェインの利尿作用を補うためにいつもより多く水分を摂取する。
摂取量とタイミング
一般的に一日400㎎程度のカフェイン摂取なら身体に悪影響はないとされている。カフェイン400㎎はインスタントコーヒー3〜4杯、モンスターエナジー355mlなら3本である。
しかしカフェインの影響には個人差がある。体格やカフェインへの感受性の違いで、200㎎の摂取でも吐き気や動悸が発生する人もいれば、600㎎の摂取でも効果の出ない人もいる。これは、前述したアデノシン受容体の数に個人差があるからだ。
そのため先に示した摂取量は目安で、万人に適用できる摂取量を示すことは難しい。一度自分の身体が効果を得るために必要な摂取量を探してみると良い。200㎎くらいから除ジィに摂取量を増やして、どれくらいの量で副作用が出てくるかを調査する。
効果が出た摂取量が分かれば追加の効果を得るために量を増やさないようにする。なぜなら栄養素や化学物質の摂取には閾値があるからだ。例えばカフェイン200㎎の摂取で効果が出た場合に摂取量を400㎎にしても、作用はほとんど増加せず反作用がより増加してしまう。作用が変わらずに副作用のみが増えることは意味が無い。
運動パフォーマンス向上目的でないなら、400㎎程度のカフェインを睡眠6〜10時間前の間に1〜3回ほど摂取すると良い。運動パフォーマンスを高めたいなら、メインセットが始まる90分前に3〜6㎎/kgのカフェインを摂取すると良い。体重70㎏の場合摂取量は210〜420㎎となる。
まとめ
本記事ではカフェインの歴史、作用機序、健康・運動パフォーマンスへの影響、適切な摂取法について解説した。
最後に内容をまとめる。
- カフェインはかつて禁止薬物とみなされた効果の保証された物質である。
- カフェインはアデノシン受容体への結合により作用を発揮する。
- 血管拡張やNO産出作用などがある。
- トレーニングパフォーマンス向上に寄与する。
- 睡眠の質に悪影響を与える。
- 摂取量とタイミングを目的に合わせて調整する。
この記事の内容を理解することで、カフェインを効果的に活用し健康維持や運動パフォーマンス向上を実現することができる。
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