セット数オーバーロードを解説。

はじめに

筋肥大には、漸進的オーバーロードが必然である。そのためには、セット数、レップ数、重量のどれかを前回よりも増やす必要がある。

この記事ではセット数オーバーロードについて解説する。この記事の目的は、「筋肥大のためのセット数の最適化」である。筋肥大を目的とした際に、何セット行えばよいかが分かる。

この記事では、トレーニングボリュームは1セッション当たりと、1週間当たりの二つの期間で区切る。

1セッション当たりのトレーニングボリューム

トレーニングボリュームには閾値がある。

一定のボリュームに達した場合、それ以上のボリュームによる筋肥大効果が少なくなることを示した研究が複数存在する。

GVTの筋肥大効果を調査した研究では、10セットと5セットのグループに分け、筋肥大や筋力の差を調査した。結果として5セット群も10セット群も筋肥大効果に有意差がなかった。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27941492/参照。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27941492/参照。

※German Volume Training(GVT)とは、20RMの負荷で10レップ10セット、休憩60秒~90秒程度で行うトレーニング法である。

上腕二頭筋に関しては5セット群の方が肥大している。一方で大腿四頭筋と上腕三頭筋に関しては有意差としては出ていないが10セット群の方が少し筋肥大効果は大きいように見える。これは羽状筋が紡錘状筋と比較してスタミナが大きく、高ボリュームとの反応が良いからかもしれない。

この研究の興味深いところは、10セット群の方がボリュームが大きかったにもかかわらず上記の結果が報告されたところにある。漸進的オーバーロードに基づくと、総ボリュームが伸びているので、有意差が生じそうである。このことから、1セッション当たりのボリュームには閾値が存在することが分かる。

この研究では、49人の男性被検者を、9セット群(17人)、18セット群(15人)、27セット群(17人)に分け、6週間の間での筋肥大の差を調査した。食餌管理ありで、対象筋は上腕二頭筋、9セット群は週1回、18セットと27セット群では週2回の頻度で行った。

結果として、すべての群で筋肥大効果はあった。9セット群と18セット群、27セット群では筋肥大に有意差はなかった。被験者はトレーニング経験者であった。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30160627/参照。

この研究は9セット群は週1、18セット群は9セット週2回、27セット群はおそらく13~14セット週2回のトレーニングを行った。これで有意差がなかったことは先の研究結果を補強することになる。また、この研究は週当たりのボリュームにも閾値があることを示唆している。週1回9セットと、週2回27セットで有意差がなかったのだ。

ただこの研究には、参加者は研究外でトレーニングを行うことが許可されていたこと、逆手のラットプルダウンとベントオーバーローイングも上腕二頭筋の種目としてカウントしていたという制限要員が存在する。そのためこの研究がそのまま筋肥大トレーニングに応用できるとは言えない。

1セッション当たりのセット数の考察

ここでは複数の研究を参照して、1セッションでのセット数の閾値を考察する。

運動経験のない被検者18人を、1セッション当たり1セット行う群、3セット行う群、5セット行う群に分け、週3回のトレーニングを6か月行った研究がある。この研究の結果は、筋肥大について1セット群よりも3セット群、3セット群よりも5セット群の方が筋肥大効果は高かったことと、特に1セット群に関してはトレーニング前とほとんど変化がなかったことを報告した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25546444/参照。

この研究から、1セッション当たりのセット数と筋肥大には、5セットまでは相関関係があると思われる。また各セッション1セットでは筋肥大効果はほとんどないと思われる。これはボリュームがあまりにも少なすぎるからだろう。

筆者はメイン1セットで本当に限界まで行うプログラムを3か月ほど行ったことがある。この1セットはレストポーズやドロップといったテクニック無しの純粋な1セットである。

結果として努力の割に筋肥大しなかったが、一方でフォームを遵守したうえでの使用重量は向上した。1セッション当たり1セットでは神経系の発達は十分にできるが、筋肥大を達成するにはボリュームが足りないと考える。

この研究から「1セット」でトレーニングを終わらすヘビーデューティ法やSSTが効果がないように思われるが、あれらは実質多セット法で、時短でトレーニングボリュームを稼ぐ方法である。例えばヘビーデューティトレーニングは8~12RMを1セット限界までやって終わりではなく、そこからレストポーズを何発も入れて、さらに補助者のネガティブを入れるというトレーニングである。レストポーズで3セット分くらい、ネガティブオンリーで2セットくらいの刺激が対象筋に入る。SSTも同様である。

この研究では、1セット、2~3セット、4~6セットでの筋肥大効果が調査された。研究結果は、1セットよりも多セットの方が筋肥大効果が40%高かったこと、2~3セットよりも4~6セットの方が筋肥大効果が高かったことが報告された。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20300012/参照。

この研究からも、1セッション当たり5~6セットくらいまではセット数と筋肥大に相関関係があることが分かる。そして筋肥大を達成するための1セッション当たりのミニマムは2セットであると考えられる。

この研究では、1セットと2~3セットとを比較した際の筋肥大の差よりも、2~3セットと4~6セットとを比較した際の筋肥大の差が小さかったことが報告されている。このことから、6セット付近までは筋肥大効果は高くなるが、効果の伸び幅が小さくなることが分かる。

複数の研究を勘案すると、1セッションでの筋肥大効果とセット数の相関関係は2セットから5~6セットの間までは強いが、それ以降は弱くなり、トレーニング歴に関係なく10セット辺りで閾値を迎えると考えられる。

1セッション当たり各部位5~6セットが多くの人にとって効果的なセットになる。

週当たりのトレーニングボリューム

オーバートレーニングの弊害

トレーニング量を増やしまくることで刺激の割に合わない量の酸化ストレスを組織に与え筋肥大効率が低下すると考えられる。

持久系トレーニングを週4回行う5名の男性を被験者に、以前よりも2倍の量のトレーニング(強度は同じ)を2週間実施させ、トレーニング全、中、後、3か月後に血液サンプルを採集した。被験者の年齢は24.8±1.3歳。

結果としてテストステロンレベルは8.68 ± 93 ng/mLから5.37 ± 67 ng/mL に低下した。コルチゾールレベルは145.7 +/- 27 ng/mLから215.3 +/- 31 ng/mLに増加した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8405526/参照。

この研究から、オーバートレーニングが生殖機能を低下させることが分かる。オーバートレーニングは活性酸素を増加させ、それが酸化ストレスとして生殖器を含めた身体の各組織の機能を低下させる。これはテストステロン合成だけでなく回復の側面でも筋肥大を抑制することが分かる。

またオーバートレーニングの要因は強度よりもボリュームによることもわかる。

週当たりのトレーニングボリューム

週当たりのトレーニングボリュームについて調べたメタアナリシスを考察し、最適化を図る。

中ボリュームと高ボリュームが筋肥大に与える影響を比較したメタアナリシスでは、低ボリューム(週12セット未満)、中ボリューム(週12~20セット)、高ボリューム(週20セット以上)の3つのグループに分けられ、大腿四頭筋と上腕二頭筋では中ボリュームと高ボリュームの間に有意差が見られなかった、上腕三頭筋では高ボリュームの方が筋肥大を優位に高めることが報告された。

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8884877/参照。

この研究から、週当たりのセット数は、多くの場合12~20セットで閾値を迎えることが分かる。これ以上のセット数を行ったとしても、酸化ストレスに対しての筋肥大効率が低くなるといえる。

この研究と1セッション当たりのセット数をつなげてみると、週当たりの頻度は1~2回、多くて3回が良いだろう。例えば腕を6セット週2回とか、疲労が回復できるなら4セット週3回のようにプログラムを構成すると良い。

まとめ

1セッション当たり純粋な1セットでは、神経系の発達は見込めるがボリュームが少ないため筋肥大効率はとても悪い。

1セッション当たりのセット数と筋肥大の関係は、2セットから6セットくらいまでは相関関係がみられるが、6セットから10セットの間では相関関係は弱くなりプラトーを迎える。そのため1セッション当たりのセット数5~6セットくらいが最も良いと考えられる。

週当たり12~20セットが多くのヒトにとって筋肥大効果を最大化できるボリュームである。1セッション当たりのセット数とつなげると、1セッション当たり5~6セットのトレーニングを週2回行うことが、セット数の最適化につながる。

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