テストステロン合成における亜鉛の役割

概要

筋肥大において亜鉛は非常に重要なミネラルである。亜鉛はSODの活性をサポートする補因子として機能する。SODとは体内で発生する活性酸素を水と酸素に変換する酵素で抗酸化作用を持つ。また亜鉛はインスリン感受性を高めることに寄与し、インスリンの観点からも筋肥大に貢献する。

この記事では亜鉛がテストステロン合成を促進することについて解説する。まず亜鉛がテストステロンに与える影響を解説する。次に亜鉛がテストステロン合成にどのように寄与するのか、メカニズムを解説する。最後に複数の文献や研究を参照し、亜鉛の持つテストステロン合成促進作用を享受するために、どれくらい摂取すればよいかを解説する。

亜鉛がテストステロン合成に与える影響

亜鉛摂取制限の影響

こちらの研究では、亜鉛摂取制限(一日2.7㎎~5.0㎎)が男性の精子形成に与える影響が調査された。結果として被験者5名中4名に精子減少症が報告された。期間は24~40週、平均年齢は57歳であった。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6772723/参照

この研究から、亜鉛欠乏によって精子形成に悪影響が発生することが分かる。被験者には亜鉛制限後に適正量の亜鉛が投与され、被験者の精子形成は改善された。このことから亜鉛欠乏による影響は可逆的であるとわかる。

精子形成とテストステロン合成は、それぞれ異なる経路を持つので、この研究だけでは亜鉛制限がテストステロン合成に悪影響を及ぼすとは言えない。

この研究では、亜鉛摂取の制限と、細胞内亜鉛濃度及び血清テストステロン濃度の関係が調査された。被験者は20~80歳の男性40名で、男性4名(平均年齢27.5歳)に食餌中の亜鉛摂取制限、男性9名(平均年齢64歳)に3~6回月の期間459molの亜鉛(グルコン酸亜鉛)を系統投与した。

結果として、亜鉛摂取制限と血清テストステロン濃度には相関関係が見られた。高齢男性の被験者への亜鉛補充後に血清テストステロン濃度が有意に増加した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8875519/参照。

この研究から、亜鉛摂取の制限が、精子形成だけでなく、血清テストステロン濃度に関しても影響を及ぼすことと、それが可逆的であることが分かった。

亜鉛摂取はテストステロン合成に関与することは分かったが、そうやって関与するかが分からない。以下では亜鉛がテストステロン合成に関与するメカニズムを解説する。

テストステロン合成に対する亜鉛のメカニズム

https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89&printable=yesより引用。

上の図は、コレステロールがテストステロン及びエストロゲンへと変換される経路を示した画像である。コレステロールからテストステロンへの生合成は、精巣内のライディッヒ細胞で酵素を介して行われる。

亜鉛は、ライディッヒ細胞内の局所的代謝を促進することで、テストステロン合成に関与するといわれている。黄体形成ホルモン(LH)の分泌には直接関与しないと考えられている。

ラット実験であるが、亜鉛不足はHPG軸(視床下部-下垂体-性腺)に影響を及ぼすことなくテストステロンレベルを低下させたことが報告されている。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25624578/参照。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2517451/参照。

https://www.tandfonline.com/doi/10.1080/13685538.2019.1573220?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed#d1e214より引用。

上の図は、ライディッヒ細胞内での亜鉛の作用とテストステロン合成促進について示した図である。

ライディッヒ細胞へ亜鉛が吸収されると、Zinc-Protein A20のようなタンパク質を介して、核内外の酸化と炎症を中和する。

核内では、P450c17の発現で亜鉛濃度が上昇し、A20mRNAをアップレギュレーションさせる。亜鉛はステロイド生成因子1(SF1)の転写因子として機能し、これがスタータンパク質(StAR)合成の前駆物質となる。

ミトコンドリア内では、亜鉛はP450sccと共にプレグネノロンの合成を助ける。

小胞体でも、亜鉛はP450c17の活性化を通して、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)のテストステロン変換を助ける。

まとめると、亜鉛はライディッヒ細胞内で、抗酸化作用と酵素活性の観点でテストステロン合成を促進させるといえる。

亜鉛の摂取量

ここまでで亜鉛のテストステロン合成メカニズムが理解でき、亜鉛が内因性テストステロン最適化に重要であることが分かった。では実際どれくらいの亜鉛を摂取するべきだろうか。

RDAとUL

RDA(Recommended dietary allowance)とUL(Upper intake level)に基づくと、亜鉛の一日推奨摂取量は男性11㎎、女性8㎎で、上限は一日40㎎である。

この二つの基準は、一般的なヒトで健康被害が出ない量の目安である。亜鉛によるテストステロン合成促進、及び骨格筋肥大効果を狙うなら、もう少し摂取してもよさそうだ。

摂取量上限の考察

性腺機能低下症(低テストステロン症)患者への治療としての亜鉛の推奨摂取量は、一日2回50㎎とされている。ただこれは亜鉛元素として50㎎である。また亜鉛元素100㎎摂取で前立腺がんリスクが増加したという研究も報告されている。

複数の文献を参照すると、サプリメントとして亜鉛元素として30~50㎎程度摂取することが、多くの人にとってテストステロン合成を亜鉛で促進するためには良さそうだ。亜鉛元素100㎎が、メリットがデメリットを上回る閾値かもしれない。

サプリメントの加工

亜鉛を効率的に摂取するにはサプリメントの利用が効率的である。サプリメントとして販売されている亜鉛は亜鉛化合物である。そして各化合物に含まれる亜鉛元素の割合は化学式によって算出できる。

例えばクエン酸亜鉛は約34%が亜鉛元素、グルコン酸亜鉛は約15.4%が亜鉛元素、モノメチオニン亜鉛は30.5%が亜鉛元素、アスパラギン酸亜鉛は、約19.83%が亜鉛元素、酸化亜鉛は約80.3が亜鉛元素である。

サプリメントによっては、含有量が亜鉛元素としての量なのか、亜鉛の量なのかがわからない場合もあるので注意したい。

まとめ

今回はテストステロン合成における亜鉛の役割と、摂取量について解説した。テストステロン合成に亜鉛が効果的なのは知ってたが、そのメカニズムまで理解できたはずだ。この記事では摂取量について言及したが、腸での吸収率や、運動習慣等で亜鉛の吸収率も変わってくるので、上記の摂取量を参考にして個人で摂取量は調整してほしい。

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