このような悩みを持っていないだろうか。
・パーシャルとフルレンジのどちらが筋肥大に効果的なのか知りたい。
・筋トレメニューや種目における具体的な使い分けや組み合わせ方を知りたい。
この記事ではこれらの悩みを解決している。
この記事の内容は以下のとおりである。
1.フルレンジとパーシャルレンジの定義を解説。
2.パーシャルレンジの効果を解説。
3.パーシャルレンジの取り入れ方を解説。
結論としてフルレンジもパーシャルレンジも共に効果はある。しかしそれらの詳細を理解していない場合採用基準があいまいになり、トレーニングの再現性が低くなり漸進的オーバーロードを阻害する要因となる。
そのため以下では筋肥大の観点からフルレンジとパーシャルレンジを比較する。両者の定義と効果を解説する。フルレンジの有効性は自明なのでパーシャルレンジの取り入れ方を主に解説する。
この記事を書いている筆者は筋トレを5年間行っており、ボディビルダーを目指し研究と実践を繰り返している筋トレオタクである。またフィットネスクラブでの勤務経験があり初心者のシェイプアップに成功した経験もある。このような筆者が解説しよう。
フルレンジとパーシャルレンジの定義
定義

これはフリーウエイトと負荷のかかる範囲の関係を示した図である。骨格筋への負荷は45度から135度の範囲が最も高くなり、0度から45度、135度から180度の範囲では負荷が少なくなる。
フルレンジとは「対象筋に負荷がのる全可動域」と定義できる。例えばフリーウエイトのプリーチャーカールの場合、重力と前腕が拮抗する場所(180度)までが対象筋に負荷がのる範囲で、それ以上範囲を広くしたとしても可動域が増えたとはいえない。
一方でパーシャルレンジとは、「制限かけられた可動域」と定義できる。例えばフリーウエイトのプリーチャーカールで、45度から135度の範囲のみで動作をするのはパーシャルレンジといえる。
パーシャルレンジの良し悪し
パーシャルレンジの良し悪しは、最も大きいモーメントアームが発生する場所を通過しているかどうかで決まる。なぜならそこが最も骨格筋に負荷の乗る場所だからだ。

例えばサイドレイズの場合同じ5㎏でも、腕をまっすぐにして行う方が前腕を屈曲して行うよりもきつい。またスクワットの場合大腿骨と床が平行になる場所が最もきつい。これらはモーメントアームによって支点と作用点の距離が遠くなったことが理由だ。
以上のことから、筋肥大にとって良いパーシャルレンジは最もモーメントアームが大きくなる場所を通る必要がある。
特にフリーウエイトの場合負荷の方向が一定なので、ウエイトの位置で対象筋への負荷のかかりが弱い部分と強い部分がある。筋肉への負荷が強くなる45度から135度の範囲内にレンジを絞って行うパーシャルレップは、負荷の少ない場所をあえて省略してトレーニングするので効果的だ。
また限界までフルレンジで運動した後に取り入れるパーシャルレンジも効果的である。なぜならフルレンジでは出し切れなかった余力を利用して、骨格筋へ刺激を与えることができるからだ
フルレンジができなくなる基準は、モーメントアームが最も大きい場所を通過できなくなるかどうかで決まる。ここまで力を出し切ったとしても0から89度の範囲の収縮は可能である。パーシャルレンジを利用してこの範囲でいいから余力を出し切ることで、フルレンジで終わる以上の刺激を与えることができる。
以上のことから、フルレンジ後のパーシャルレンジも良いパーシャルレンジといえる。
高重量だが負荷のかからない範囲でのみ行うパーシャルレンジは、対象筋にとっては高負荷ではないので悪いパーシャルレンジといえる。
パーシャルレンジの効果
パーシャルレンジは筋力(≒筋原線維肥大)を向上させる?
パーシャルレンジは筋力向上に効果的といわれる。なぜなら筋力と筋肥大には相関関係があり、フルレンジと比較して絶対的重量を扱うことができるからだ。
例えばフルスクワット100㎏3回できる人ならばパラレルスクワットを120㎏5回程度できるだろう。また使用重量と筋断面積には強い相関関係がある。筋肥大には筋原線維肥大と筋形質肥大があり前者は筋力向上に付随して発生する。
ベンチプレス1RMと大胸筋の筋断面積には強い相関関係がみられる。
以上のことから、パーシャルレンジが筋力向上及び筋原線維肥大に効果的といわれる。しかしパーシャルレンジは全体的な筋力向上には寄与しない。なぜならパーシャルレンジで扱わなかった部位の筋力は向上しないからだ。
パーシャルレンジのスクワットとフルスクワットでの1RMの重量と筋肥大について調査したところ、フルレンジスクワットを行った群の方が、筋断面積と1RMの使用重量が向上した。パーシャルレンジであるクウォータースクワットにおいても、フルレンジスクワット群の挙上重量が増加した。
全体の筋肥大を狙う場合にはフルレンジが基本になる。なぜなら対象筋の全部位を使って動作を行うからだ。一方で対象筋の中でも特定の部位を狙いたい場合には、意図的なパーシャルレンジが検討される。なぜならパーシャルレンジは部分的筋肥大を起こすからだ。
上は2013年のフィルヒースのスクワット。一般的には悪いスクワットと思われるが、大腿四頭筋の中でも腰寄りの部位を狙っていると推測される。
パーシャルレンジの採用は中上級者向けである。なぜなら再現性高く筋肥大を実現することが困難だからだ。パーシャルレンジは特定の部位をフォーカスする必要がある場合には効果的だが、最も負荷の大きくなる位置を通過しなくなるので、対象筋に最大の張力及び負荷を発生させるという筋肥大の基本原則からは外れる。
以上のことから、「良いパーシャルレンジ」に分類されないパーシャルレンジは中上級者向けのテクニックである。
可動域の閾値
一見フルレンジに見えない場合でも、対象筋にとってはフルレンジである場合もある。なぜなら対象筋と種目の相性によっては可動域に閾値が存在するからだ。
パーシャルレップとフルレンジの効果を調査した体系的レビューでは、下半身を対象とする場合フルレンジが有効である可能性が高いが、上半身に関してはわからないとする結論が出された。
またレビュー内では、「対象筋が活動する可動域の閾値に達すると、それ以上可動域を増やしても対象筋への効果は高まらないのでは」という仮説が立てられた。
例えばフルスクワットとパラレルスクワットを比較した際に、大腿四頭筋の筋肥大効果は両方で有意差がない。スクワット動作での大腿四頭筋の可動域はトップからパラレルで閾値を迎え、それ以上しゃがんでも大腿四頭筋への刺激はほとんど増えない。なぜならパラレルからボトムは大殿筋及び内転筋群が動員されるからだ。
パラレルスクワットのように、一見パーシャルレンジに見えるが大腿四頭筋にとってはフルレンジという場合もある。
パーシャルレンジの分類と使い方
ロングレンジパーシャル(LLP)VSショートレンジパーシャル(SLP)
パーシャルレンジの中の筋繊維が引き伸ばされる局面はLLP、筋繊維が短くなる局面はSLPと分類される。

LLPの筋肥大効果
LLPは筋肥大効果が高いといわれる。なぜならメカニカルテンションが筋肥大のトリガーになるからだ。
筋肥大はメカニカルテンションを増やすと達成されやすく、それは特に筋繊維が引き伸ばされる局面で強く発生する。LLPはまさしく引き伸ばされる局面で、メカニカルテンションが大きくかかる部分に限定して動作をしている。
またLLPは筋収縮に要するエネルギーを削減するので、従来のパーシャルレンジより多くのストレッチを筋繊維に与えることができる。
以上のことから、LLPは筋肥大効果が高い。
ロングレンジパーシャルとフルレンジの筋肥大効果を比較した研究を以下に示す。
パーシャルレンジとフルレンジでの腓腹筋筋肥大の比較を行った研究では、14歳の若年女性をFULLROM群(かかとの角度-25度から25度)、INITIALROM群(-25度から0度)、FINALROM群(0度から25度)に分けて、8週間調査した。トレーニング種目はウエイトスタック式のレッグプレスで3セット15から20レップ、週3回行われた。
腓腹筋内側頭はINITIAL群がFULLROM及びFINALROM群と比較して優位に肥大した。腓腹筋外側頭はINITIALROM群がFINALROM群よりも優位に肥大したが、FULLROM群と有意差はなかった。
この研究から、ロングレンジパーシャルがフルレンジと同等の効果を持つとは断言できないが、ロングレンジパーシャルはフルレンジと比較しても大差ない筋肥大効果があると示唆される。また筋肥大という観点からはショートレンジパーシャルよりもロングレンジパーシャルの方が効果的である。
この研究では角度0度を、足と脛骨が垂直になるところと定義している。カーフレイズで最大負荷がかかる場所はこの定義では-10度付近であり、ロングレンジパーシャルの方がピークトルクに近い場所で可動域を制限したためフルレンジよりも筋肥大効果が高かった可能性もある。
ロングレンジパーシャルとフルレンジに関するメタアナリシスを示す。
可動域が筋肥大、筋力、パフォーマンス、パワー、体脂肪に与える影響を調査したメタアナリシスでは、フルレンジとパーシャルレンジでの各項目に与える結果に違いは見られるが、それは小さい範囲に収まると結論付けられた。
https://journal.iusca.org/index.php/Journal/article/view/182参照。
パーシャルレンジとフルレンジでの結果の差はわずかであったが、全体的にフルレンジに有利な傾向があるため、トレーニングの基本がフルレンジであることは変わらない。
ショートレンジパーシャルとロングレンジパーシャルと比較すると、後者の方が筋肥大効果が高いという主張には一貫性がある。外側広筋やその他高筋群、ハムストリングス、上腕三頭筋等を対象とした研究で同様の結果が報告されている。
ロングレンジパーシャルがフルレンジよりも筋肥大効果が高くなるのは、前者が後者よりも筋肉のストレッチが長い場合と考えられる。例えばスクワットやカーフレイズなどは、トップからボトムにかけて筋肉への負荷が高くなるため、ロングレンジパーシャルが有効になる可能性が高い。一方でサイドレイズやプルアップなどはボトムからトップにかけて筋肉への負荷が高くなるので、ロングレンジパーシャルよりもフルレンジの方が有効になる可能性が高い。
パーシャルレンジの使い方
以下でパーシャルレンジとフルレンジの使い方を示す。
基本的にはフルレンジで動作を行う。なぜなら筋肥大には漸進的オーバーロードが必要だからだ。フルレンジとパーシャルレンジの筋肥大効果はわずかながらフルレンジの方が高い。また筋原線維肥大には全体的な筋力向上が重要で、部分的な筋力向上では最終的にオーバーロードが困難になる。さらに骨格筋への神経伝達は筋収縮で起こり、収縮局面にはマッスルマインドコネクションを高めるという特徴がある
以上のことから基本的にはフルレンジで動作を行う。
対象筋の中でも特定の部位を狙うといった意図がある場合には、「悪いパーシャルレンジ」が候補に挙がる。
なぜなら、パーシャルレンジは部分的筋肥大に寄与するからだ。複数の研究やボディビルダーの経験から、ストレッチ局面での刺激は骨格筋の遠位部、収縮局面での刺激は骨格筋の近位部の肥大に効果的であると示唆される。例えばケーブルリアレイズは三角筋後部の遠位部、リアシュラッグは三角筋後部の近位といった具合や、レッグエクステンションのロングレンジパーシャルでは高筋群の膝寄り、ショートレンジパーシャルでは腰寄りといった具合である。
以上のことから、対象筋の中でも特定の部位を狙う必要がある場合には「悪いパーシャルレンジ」の採用を検討する。
筆者はカム式のマシンならばフルレンジを基本として、フリーウエイトの場合は45度から135度の範囲で動作を行っている。そして限界を迎えた時にLLPを取り入れる。こうすることで最初に負荷の大きい範囲で刺激を与え、余力をLLPで出し切れる。
最後に
この記事ではパーシャルレンジとフルレンジの効果と取り入れ方を解説した。
基本はフルレンジを用いて全体的な筋力と筋肥大を図りつつ、目的や種目、可動域の特性に応じてロングレンジパーシャルを戦略的に取り入れる。中上級者であれば意図的に可動域を制限し、筋の部位別刺激や限界突破にLLPを活用することで、より質の高いトレーニングが可能になる。
重要なのは「なぜその可動域で行うのか」を論理的に説明でき実践することである。再現性のある筋肥大を目指すなら、生理学的根拠に基づいた選択を積み重ねていこう。
この記事が読者の悩みを解決したならうれしい。
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