ビタミンDが健康と筋肥大に与える影響

はじめに

この記事ではビタミンDについて解説する。ビタミンDは健康と筋肥大に置いて重要な栄養素である。なぜならそれらは骨や骨格筋に作用するからだ。ビタミンDは組織のカルシウム吸収を促進させることで、骨組織の維持やトレーニング中の筋力発揮を向上させることが期待される。

この記事では、ビタミンDの作用の内、健康及び筋肥大に大きく関連するものを解説し、それらの効果を享受する摂取量について解説する。

概要

合成経路

ビタミンDは日光を介して合成することができる。なぜなら、ヒトの皮膚にはプレビタミンDの前駆体である7-デヒドロコレステロールが存在するからだ。そのためヒトは、紫外線をトリガーにビタミンDを生成することができる。

https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3D参照。

筆者はビタミンDを皮膚から摂取するという考えには反対である。なぜなら環境に依存し再現性が低いから、合成するビタミンDに対して払う時間と酸化ストレスが多いからである。

まず日光を介してビタミンDを合成することはできるが、それは日照時間や天気に依存する。これらはヒトでは操作することができない要素である。そのため日によってビタミンD摂取量に差が生まれる。

一日のビタミンD推奨摂取量とされる5.5mcgを紫外線経由で生成する場合、那覇で8分、つくばで22分、札幌で76分の日光浴が必要あると報告された。実験日は12月の正午で、被験者は両手と顔を露出していた。

https://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130830/20130830.html参照。

こちらの研究から、紫外線経由のビタミンD合成は地域や季節、天気に依存することが分かる。

またこの研究では、5.5mcg(220IU)のビタミンDを摂取するのに、8~76分の日光浴が必要であることが分かる。これくらいの日光浴を行う割に得られるビタミンDの量は少ないといわざるを得ない。以下に示すビタミンDの作用を享受するためには、少なくとも50mcg(2000IU)以上摂取する必要がある。

仮に50mcgのビタミンDを日光浴で摂取する場合必要な時間は72分~690分である。日光への長時間の暴露は、皮膚の炎症である日焼けを発生させ、身体に多くの酸化ストレスを与える。

以上のことから、筆者はビタミンDを皮膚を介して摂取するという考えには反対する。

食材から摂取されるビタミンDには、構造の異なるD2とD3が存在する。前者は植物由来で、後者は動物性由来である。両者は構造の一部が異なるがまとめてビタミンDと扱う。食材から摂取されたD2とD3は肝臓でシトクロムP450酵素を構成する酵素によって肝臓で水酸化される。水酸化されたビタミンDは腎臓にて活性型のビタミンDに変換される。

作用機序

ビタミンDは脂溶性のビタミンで、ビタミンD受容体(VDR)に結合することで作用を発揮する。この点で、ビタミンDはホルモンのように働く。VDRは各組織の核内に存在し、例えば骨組織の受容体に結合すると、カルシウム沈着を促進し骨の再構築作用を発揮する。

ビタミンD受容体は骨格筋と精巣にも存在しており、それらとビタミンDが結合することで、筋肥大に有効な作用を発揮すると考えられる。

作用

骨の強度維持

ビタミンDの摂取と転倒リスクには相関関係がある。そのためビタミンDが不足すると骨の強度が低くなるといわれている。

血清25-ヒドロキシビタミンD濃度と転倒リスクの関係を調査した研究では、転倒者は非転倒者と比較して血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が低いことが報告された。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24697944/参照。

ビタミンD欠乏が転倒リスクを増加させた要因は、ビタミンDが骨組織と結合し骨の再構築がなされなかったからだろう。骨の強度が低くなると、高強度の運動が困難になり、これが筋力低下につながると考えられる。実際にビタミンD欠乏の女性に一日1000IUのビタミンDを摂取させることで上肢と下肢の筋力が増加したという報告もある。

ビタミンDは骨組織の受容体に結合しカルシウムの沈着を促進する。骨の強度が高くなることは高強度トレーニングの継続を補助するので、ビタミンDは高強度トレーニングを間接的に補助する。

精巣への作用

ビタミンDはテストステロン合成に寄与すると示唆されている。なぜならVDRが精巣に存在するからだ。

しかし2020年までのビタミンDと男性機能に関する研究をまとめたレビューでは、ビタミンDとテストステロンの間にはこれといった関係が見られないことが報告されている。

ビタミンDと性ホルモン生成との関係を見つけることはできていない。ビタミンD欠乏がテストステロンの血中濃度の与える影響に統一性はない。ビタミンDが精子の運動性の改善に肯定的な効果を示す。

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7076312/参照。

ビタミンDが不足すると、テストステロン量が減少することを報告する研究は複数存在するが、ビタミンD不足は結果に対しての間接的要因である可能性が高い。なぜなら研究デザインに異質性があるからだ。

血中ビタミンD濃度の低下と、総テストステロンには相関関係があることが報告されている。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30896763/参照。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21154195/参照。

ビタミンDの欠乏が総テストステロンに影響を与え、ビタミンD摂取で正常化することを報告する研究は複数存在するが、被験者が高齢だったり、被験者が肥満だったりと、健康な状態ではないヒトの場合が多い。そもそも不健康なヒトに対して欠乏しているものを与えて効果が発生するのは当たり前である。

例えば上に挙げた研究の被験者は肥満男性で、ビタミンDではなく減量によってテストステロン濃度が増加した可能性が高い。

以上のことから、VDRは精巣に存在するが、ビタミンDがテストステロン合成に直接的に作用するとは言い切れない。

一方でビタミンD摂取は精子形成に作用する可能性がある。なぜならVDRは精巣だけでなく精子にも存在するから、複数の研究で血中ビタミンD濃度と精子の運動性、精子数に肯定的な関係があることが報告されているからだ。

ビタミンDはテストステロン合成よりかは精子形成の観点から作用を発揮する可能性が高い。

骨格筋

ビタミンD摂取はトレーニング中の筋力発揮に寄与する。なぜならビタミンDが骨格筋のカルシウム吸収を促進するからだ。

ビタミンDサプリメント摂取群とプラセボ群で、筋力の変化を比較した研究では、ベンチプレス、ハンドグリップ、垂直飛びでは筋力の増加に有意差が見られなかったが、大腿四頭筋では筋力の差に有意差が見られた。

また、血中ビタミンD濃度を正常にするためには、4~12週の期間2000IU以上のビタミンDを摂取することが推奨される。

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11163122/参照。

この研究では、ビタミンDが骨格筋の筋力増加に寄与する可能性が示唆されている。ビタミンDは骨格筋に受容体を持つ。ビタミンDが骨格筋の受容体に結合したとき、骨格筋でのカルシウム吸収が促進され、筋収縮が普段よりも強く発揮できると考えられる。

以上のことから、ビタミンDは骨格筋に必要なカルシウムの吸収を促進し、トレーニング強度を高めることで筋肥大に貢献する。

骨格筋内の脂肪蓄積抑制

ビタミンDが、骨格筋内の脂肪蓄積を抑制することが報告されいている。

骨格筋内の間葉系前駆細胞にビタミンD受容体が発現することを発見し、ビタミンDが前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制する可能性を示唆。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38533539/参照。

間葉系前駆細胞とは、骨や軟骨、脂肪や筋肉などの特定の組織に分化する能力を持つ未分化な細胞である。間葉系前駆細胞は筋繊維間の隙間(間質)に存在しており、脂肪細胞へ分化する可能性を持つ。

先の研究ではビタミンDは転写因子を制御することで、間葉系前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制すると報告し、高齢者のサルコペニア予防に寄与するといっている。

筆者はこの研究がボディビルにおけるカット戦略に応用できるのではないかと考察する。ビタミンDを摂取することで、増量中に間質に蓄積される脂肪組織を少なくすることができるのではないだろうか。

https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-4-2.html?utm_source=chatgpt.comより引用。

摂取量

ビタミンDの推奨摂取量は一日340IUで、上限量は4000IUとされている。

筆者は2000IU以上のビタミンD摂取は、健康に気を使う人であれば摂取することを推奨する。先に挙げた効果を多く享受したい人であれば、5000IU程度摂取しても良いと思う。

ビタミンDを多く摂取するうえでは、カルシウムや、ビタミンK、マグネシウムなどの追加摂取が必要である。なぜならこれらはビタミンDと共に作用を発揮するからだ。ビタミンDを過剰摂取して副作用を得る場合は、ビタミンDを利用する栄養素が整備できていない場合が考えられる。

VDRは骨や精巣だけでなく骨格筋に存在する。そのためVDRは骨格筋量と相関関係にある。

まとめ

今回はビタミンDが健康と筋肥大に与える影響について解説した。

ビタミンDは皮膚中の7-デヒドロコレステロールが紫外線により変換されて合成されるが、日照時間や天候に左右されるため、日光浴による摂取を非効率かつ再現性が低い。ビタミンDは骨、筋肉、精巣などの組織にある受容体(VDR)に結合してホルモン様に作用し、骨強度維持や筋肥大、精子形成を助ける。

推奨摂取量は1日340IU、上限は4000IUで、2000IU程度の摂取が多くの人にとって適切である。筋肥大や大きな作用を享受したい場合は、関連する栄養素を整備したうえで5000IU以上んお摂取が検討される。

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