はじめに
この記事では、フィチン酸について解説する。フィチン酸を解説する理由は、それにミネラル吸収阻害作用があるからだ。
フィチン酸はミネラルと結合することで、小腸でのミネラル吸収を阻害する。この記事ではこの事実を基に、フィチン酸は悪であると二元的に捉えるのではなく、フィチン酸をどのように利用すればよいかについて解説する。
フィチン酸の概要、考察
作用
フィチン酸とは、主に全粒穀物や豆類、種子などに含まれる化合物である。化学式はC6H18O24P6。ミオイノシトールに6個のリン酸基が結合してできた化合物で、全粒穀物や豆類に1~3%含まれている。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907045927020908より引用。
フィチン酸はミネラル吸収を阻害する。なぜならフィチン酸と金属イオンが結合することでフィチン酸塩が形成されるからだ。
フィチン酸はキレート作用によってミネラルと結合する。キレート作用とは、ある物質(主に有機化合物)が金属イオンと複数の点で結合し、安定した環状構造をつくる作用のことである。キレート作用によってつくられた化合物は、複数の点で結合しているため他の化合物と比較して分解されるまでに時間がかかる。
https://www.shokubai.co.jp/ja/lp/water-treatment/chelating-agent.htmlより引用。「Chele」とはギリシャ語で「はさみ」という意味。ミネラルと結合する場所がカニのはさみのように見えたのが名前の由来だそう。
フィチン酸はキレート作用を有しており、摂取したミネラルに結合することで化合物をつくる。この化合物が小腸で吸収されるまでに分解されずに排泄されてしまう。
以上のことから、フィチン酸はミネラル吸収を阻害する。
ちなみにこのキレート作用も持つ元素として分解されるまで時間がかかるという性質は、せっけんや洗剤などで応用されている。
フィチン酸考察
フィチン酸が吸収を阻害するミネラルは全体の5~10%といわれている。
フィチン酸を除去した大豆たんぱく質と、通常の大豆たんぱく質をラットに10日間与え、カルシウム、マグネシウム、亜鉛の出納を測定した。ラットはフィチン酸除大豆たんぱく質群(PES)、大豆たんぱく質群(SPI)、Caseinを含む半精製食群に分けられた。
ミネラルの吸収率はフィチン酸を除去した群の方が5~10%吸収率が多かった。食餌中のフィチン酸含有量は0.3%程度。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs1983/50/4/50_4_273/_pdf/-char/ja参照。
フィチン酸を摂取することで摂取したミネラルが全て吸収されないようなことは起きない。
またフィチン酸は全粒穀物に含有しているが、それらは全てミネラルと結合した形で存在している。この事実と、キレート作用の特徴に基づくと、全粒穀物に含まれるフィチン酸が分解され、全粒穀物以外から摂取された食材のミネラルと結合して吸収を阻害することは考えられないだろう。
フィチン酸を含む食材とフィチン酸を含まない食材で後者の方がミネラル吸収率が多いのは、単に前者のフィチン酸に結合しているミネラルが排泄されたからである。決してフィチン酸がキレート作用を摂取後発揮したからではない。つまり、フィチン酸と結合しているミネラルは吸収されないが、フィチン酸を含む食材を摂取することが、それ以外の食材のミネラルの吸収を阻害するとは言えない。
以上のことから、筆者はフィチン酸は過大評価されており、フィチン酸の含有はフィチン酸を含む食材摂取を制限する理由にはならないと結論付ける。
フィチン酸を含む食材を、ミネラルを多く摂取するという目的で摂取することはできないが、例えば血糖値の上昇を緩やかにする目的で摂取することはできる。なぜなら大抵フィチン酸を含む食材は不溶性食物繊維を含みGI値が低い傾向にあるからだ。またフィチン酸には抗酸化作用なども期待されている。
まとめ
今回はフィチン酸を考察した。
フィチン酸は全粒穀物や豆類に含まれる成分で、キレート作用によりミネラルと結合し、小腸での吸収を阻害する。
フィチン酸の持つミネラル吸収阻害の影響は大きくはなく、他の食材のミネラル吸収まで妨げるわけではない。フィチン酸を含む食材には血糖値上昇抑制や抗酸化といった有益な面もあるので、フィチン酸含有を理由にそれらの摂取を制限することはできない。
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