はじめに
本記事では僧帽筋と菱形筋の解剖学と鍛え方を解説する。
僧帽筋は脳神経(副神経)に、菱形筋は脊髄神経(肩甲背神経)に支配されており、神経支配の違いがトレーニング中の筋賦活条件に影響を与える。例えば、頭部を動かしたり首回りに緊張を与えることで僧帽筋が活性化しやすくなる一方、上体の固定や口を開ける動作などにより菱形筋の賦活が促される。
審美的観点からは、僧帽筋上部の肥大は男性にとって利点がある一方で、女性にとっては外見上のデメリットとなりうる。菱形筋は僧帽筋を下から押し上げる役割を持ち、上背部の立体感を強調できるため、限られた筋肥大の中で優先すべき筋とみなせる。
トレーニングでは目的に応じたローイング軌道の選定が重要であり、筋繊維の走行に垂直な軌道を取ることが最大の効果を引き出す。チェストパッドの有無によってポステリアチェインの活用やチーティングの可否も変わる。再現性の高いフォーム設計と狙筋に応じた刺激の最適化が上背発達の鍵となる。
解剖学
起始停止、機能、神経支配
https://teachmeanatomy.info/encyclopaedia/r/rhomboid-major/より引用。
僧帽筋と菱形筋の鍛え分け
僧帽筋と菱形筋は神経支配の観点から鍛え分けが可能である。菱形筋は脊髄神経に分類される神経に支配されている。一方で僧帽筋を支配する副神経は脳神経に分類される。
筋肥大を目指す人が鍛える骨格筋は僧帽筋を除いてほとんど脊髄神経に支配されている。脳神経は首から顔にかけての骨格筋を支配している。
脳神経は複数の神経に分類されるが、その中でも僧帽筋を支配する副神経は頭を回したり肩をすくめる動作をすると賦活する。
ローイングやシュラッグを、首を下に向けたり頭を振りながら行うといつもより重い重量を挙げることができたり、限界から1~2回多く引くことができるはずだ。これは菱形筋よりも僧帽筋を使いやすい条件だからだ。
菱形筋を狙う場合には口を開けたり上体を固定させたりすると良い。限界近くで歯を食いしばるように引くと僧帽筋が、叫んだり息を吐くように引くと菱形筋や脊柱を使いやすくなる。これは前者が首回り(脳神経支配の筋肉)を使いやすく、後者は脳神経への神経支配を低下させるからだ。どちらが良いとか悪いとかではなく、目的に応じて使い分けると良い。
僧帽筋発達のメリットとデメリット
僧帽筋は上背のディテールを構成する部位である。特に僧帽筋上部はディテールに加えてアウトラインも形成する部位である。ボディビルに限定するが僧帽筋上部は全てのポーズでアウトラインに寄与する部位である。
僧帽筋下部はプル動作でも多少刺激が入るが、ローイングでも負荷がのる。僧帽筋下部の発達はディテールの形成だけでなくプル動作の安定や筋力向上にも貢献する。
男性の場合は僧帽筋の発達は見た目上のメリットがあるが、女性の場合はかえって発達がデメリットになる。特に僧帽筋上部の発達は女性らしさを欠くので鍛えるメリットはない。僧帽筋中部や下部はディテール形成という点で審美性を追求するヒトなら発達の意味はあるが、下背やリアデルト、ハムケツと比較して優先位は低い。
菱形筋発達のでメリット
筆者は上背の見た目を良くするときに優先して鍛える部位は僧帽筋よりも菱形筋であると考えている。これは筋肥大の費用対効果が高いからだ。
菱形筋は腕における上腕筋と同じ役割を持つ。つまり下から僧帽筋を押し上げる役割を持つ。大菱形筋は僧帽筋の中部から下部の上あたりを、小菱形筋は僧帽筋の上部を押し上げる。10㎡と30㎡の土地があり、両方に同じ量の木材で家を建てた場合は前者の方が高くなる。限りある筋肥大を振り分ける場合には、菱形筋の重要性が上がる。
小菱形筋が僧帽筋上部を押し上げるイメージ。
鍛え方
ローイング
基本的に上背はローイングで鍛えることになる。僧帽筋上部はシュラッグで、ビハインドネックプルダウンは下方回旋の動作で僧帽筋下部と菱形筋を刺激することができるが例外である。
世の中には数えきれない種目が存在する。ここでは具体的な種目は解説しない。なぜな再現性が低いからだ。ここでは数多くのローイングを目的に応じて選択できることを目標にする。
「狙いたい筋繊維に対して垂直な軌道(最も仕事をする)をつくる」ことがゴールである。以下ではゴール達成に貢献する情報を提供する。そのうえで僧帽筋と菱形筋どちらを狙うかは先の情報を参照してほしい。
肘の向き
真上からローイングを観察すると、赤線が僧帽筋や菱形筋、青線がリアデルトがはたらきやすい軌道になる。体幹に向かって引くと僧帽筋や菱形筋を、身体の外に肘を持っていくとリアデルトが働きやすい。これは筋繊維の走行と軌道が合致するからだ。
真横からローイングを観察すると、赤線の範囲に引くと小菱形筋や僧帽筋上部、青線だと大菱形筋や僧帽筋中部下部、緑だと僧帽筋下部が働きやすい。これも筋繊維の走行と軌道が合致するためである。
これらの情報と、利用できるマシンや施設でつくられる軌道をクロスオーバーさせて、自身の狙いたい部位に垂直な軌道を作成しよう。
チェストパッドの有無
チェストパッドがあるローイングとないローイングには、ポステリアチェインを使うかどうかという違いがある。ポステリアチェインを構成する骨格筋はヒップヒンジで使われる骨格筋と同じである。
https://repkefitness.com/blog/the-importance-of-the-posterior-chain/より引用。
例えばバーベルローイングやプーリーローなんかは、ローイングの姿勢をつくるためにポステリアチェインを使う。一方でシールローイングやチェストサポートローイングマシンはパッドがポステリアチェインの役割を担う。
チェストパッドの有無どちらにもメリットがある。筆者は対象筋のみが疲れ、動作中は何も考えずに疲労困憊までもっていくことが好きなので、ローイングはチェストパッドありで行うようにしている。というのもチェストパッド無しのローイングはヒップヒンジで「狙いたい筋繊維に対して垂直な軌道(最も仕事をする)をつくる」前提があり、対象筋を追い込む前にやることが増えるのだ。ヒップヒンジがうまくできない場合は「狙いたい筋繊維に対して垂直な軌道」がつくれないし限界近くになっても姿勢を維持しないといけない。
ただポステリアチェインは対象筋よりも出力が大きいので、限界近くにチーティングでポジティブ省略なんていうテクニックを使うことができる。ヒップヒンジを完全にマスターしているヒトであればチェストパッド無しがおすすめである。
まとめ
本記事では、僧帽筋と菱形筋の解剖学と鍛え方を解説した。
最後に内容をまとめる。
- 僧帽筋は副神経支配。菱形筋は肩甲背神経支配。
- 神経支配に応じた鍛え分けが可能。
- 菱形筋は僧帽筋を押し上げることで上背の発達に寄与。
- 審美性で鍛える優先度が変化。
- 筋繊維に垂直な軌道の作成が重要。
この記事の内容を理解することで、目的に応じた上背部の最適な筋肥大を実現することができる。
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