はじめに
この記事では、中殿筋の解剖学と、中殿筋を鍛えるトレーニング種目を解説する。中殿筋、くびれをつくることと、脚を長く見せる作用があるため、骨格筋の中でも重要な部位である。
https://www.reddit.com/r/bodybuilding/comments/8ar9p2/lee_vs_dorian_1991_mr_o/?tl=it&rdt=62001より筆者編集。
上は1991年ミスターオリンピアでのドリアンイェーツとリーヘイニ―の比較である。見せ方や身長及び手足の個体差もあるが、中殿筋の発達しているリーヘイニ―の方が脚が長く見えることが分かる。
正面と後面から見たくびれは中殿筋と広背筋によってつくられ、また中殿筋が発達することで脚として見られる範囲が広くなる。ヒトはXフレームを美しいと感じる傾向にあり、中殿筋の発達することでXの下部分を構成する下半身の範囲が大きくなるというメリットがある。
以上のことから、中殿筋は重要な部位である。
この記事では、まず中殿筋の解剖学を解説する。次に中殿筋を鍛える種目を解説する。
中殿筋の解剖学
中殿筋の存在意義、起始停止
中殿筋の存在意義は、片脚立位の保持や歩行立位時に骨盤を制御することにある。なぜなら歩行時の骨盤の傾きが制御されないと継続な歩行が困難になるからだ。
中殿筋は、ヒトが運動する時に生じる骨盤の傾きが過度に発生しないように、骨盤の動きを制御するために存在する。この存在意義は、トレンデレンブルグ症候群からも明らかである。
片脚立位時に骨盤を水平に保つことができずに脚が浮いている方の骨盤が傾いている姿勢及びそのような徴候をトレンデレンブルグ姿勢及びトレンデレンブルグ徴候という。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2013/0/2013_1181/_pdf/-char/ja参照。
トレンデレンブルグの発生の原因は内転筋群や中殿筋と同じく股関節外転の作用を持つ大腿筋膜張筋の過緊張なども考えられるが、主な原因は中殿筋の筋力不足である。
https://orphe.io/column/post/duchenne-limp-abnormal-walking-hip-motionより引用。片脚立位時に浮いている脚側の骨盤が傾くのがトレンデレンブルグ歩行(左)で、立位脚側の骨盤が傾くのはデュシェンヌ歩行(右)という。
中殿筋は腸骨稜のすぐ下の腸骨外側に起始も持ち、大腿骨の大転子の後外側に停止する。中殿筋は股関節の外転という機能を主に持つ。そのほか股関節屈曲位と伸展時での骨盤側面の支持の機能を持つ。
ネッター解剖学アトラス原著第4版より筆者編集。
中殿筋の細分化
中殿筋の筋繊維は、前面繊維と後面繊維に分けることができる。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/25/0/25_151/_pdfを基に筆者編集。
中殿筋を前面と後面に細分化した場合、股関節伸展位では中殿筋前面繊維が、股関節屈曲位では中殿筋後面繊維の運動への貢献度が高いことが報告されている。
例えば、中殿筋を鍛える種目としてアブダクションを身体を前傾させて行った場合、股関節が屈曲した状態で股関節外転するので、中殿筋の中でも後面繊維が動員されやすく、背もたれを倒して行った場合は中殿筋の中でも前面繊維が動員されやすい。
ただこの寄与割合の変化はものすごく大きいものとは言えない。中殿筋の特定の繊維が使われやすい局面であって、そこ以外の筋繊維が使われなくなるわけではない。どんな動作でも中殿筋の両繊維共同して運動に動員される。
中殿筋は羽状筋?
中殿筋をその形態的特徴から、羽状筋と分類する文献は存在する。
中殿筋は構成する筋繊維が扇状に配列されており、起始部から停止部の大転子へと収束する形で付着する。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/25/0/25_151/_pdf参照。
中殿筋が羽状筋と認識される理由は、羽状筋の特徴を持つからだ。
羽状筋は筋束から斜め方向に筋繊維が走行する形態的特徴を持つ。これによって紡錘状筋よりも筋繊維に対して垂直な筋断面積が増え、筋力発揮が得意である。また紡錘状筋よりも筋繊維の密度が大きいので、強い筋力発揮とスタミナに優れている。
中殿筋は扇状の形をしており、腸骨外側に多くの筋繊維が起始を持ちそれらが大転子に向かって収束している。そのため羽状筋の形態を有す。以上のことから、中殿筋を羽状筋と捉えることはできる。
中殿筋の形態的特徴から、中殿筋は強い力やスタミナを要する運動に反応しやすいと推測できる。ちなみにこれはハムストリングスと真逆の特徴を持つ。ヒップヒンジは殿筋群とハムストリングスの両方を鍛えることができる種目であるが。それらを鍛え分ける基準として、トップとボトムのホールドや動作速度などがあげられる。
中殿筋のトレーニング
中殿筋を鍛える種目として、ブルガリアンスクワット、ヒップヒンジ種目、アブダクションの3つが推奨される。なぜなら、中殿筋は骨盤の安定という機能と、股関節外転という機能を主として持つからだ。この3つの種目は中殿筋の機能に負荷をかけることができる。
ブルガリアンスクワット
ブルガリアンスクワットは片足で行うスクワットである。片脚で行うため骨盤が不安定な状態になる。
ブルガリアンスクワットは両脚で行うスクワットと比較して骨盤が不安定な状態にあるので、骨盤を水平に保つために中殿筋や内転筋群といった骨格筋が動員されやすくなる。特に両手ではなく片手でダンベルを持つタイプのブルガリアンスクワットでは、より骨盤が不安定になるため中殿筋が動員されやすい。
ブルガリアンスクワットはヒップヒンジ種目よりも股関節が屈曲した位置で股関節伸展動作が行われるため、中殿筋の中でも後面繊維が動員されやすい。
ブルガリアンスクワットで対象筋に負荷を乗せるコツは、しゃがむ方の脚に重心を移動させることである。これができていないからブルガリアンスクワットでふらつくという事態が発生する。
まずベンチの前に立ち、前方へ前進する。前進する距離によってしゃがんだ際の足の位置が変わるが、足の位置よりも重心を対象の脚に置く方が中殿筋へ負荷を乗せる点で重要である。
次に重心をしゃがむ方の脚に移動させる。少しだけ身体を対象とする脚の方へ傾けると良い。こうして重心の位置を移動させたうえで、別の脚をベンチに乗せる。
こうしてブルガリアンスクワットのスタンスが固まったので、しゃがまない方の脚をベンチにかけて深くしゃがむ。
脚の位置について、膝関節がつま先よりも出ない程度に脚を開いた場合は、動作に占めるヒップヒンジの割合が大きくなるためハムストリングスの近位を刺激しやすい。一方で膝関節がつま先がよりも出る程度の脚の開き具合だと、動作に占めるプレスの割合が大きくなるので内転筋群や大腿四頭筋に刺激が入りやすい。中殿筋や大殿筋に関しては膝関節をまたいでいないので脚の開き具合はたいして影響しないと考えられる。
ヒップヒンジ
デッドリフトに代表されるヒップヒンジ系種目でも、動作中の骨盤を支持する役割で中殿筋が使われる。
殿筋群は股関節伸展に近づくにつれて活動が高まることが示唆されており、このことを踏まえるとヒップヒンジ種目の収縮位で中殿筋の活動が高まるといえる。この理由を踏まえると収縮位で高い負荷をかけられるバックエクステンションはおすすめである。一方でデッドリフトなどは重量で負荷をカバーすることができる。
ヒップヒンジ系種目ではつま先を30度ほど開き腰幅と肩幅の間程度に脚を開くと、重力に対して中殿筋の走行が合致するのでハムストリングスよりも中殿筋及び大殿筋を狙いやすくなる。
アブダクション
中殿筋の筋繊維に対して直接刺激を入れる種目としてアダクションが有効である。
アブダクションマシンでは、上体前に倒して行うと、中殿筋後面繊維及び大腿筋膜張筋が動員されやすく、背もたれを倒して行うと中殿筋前面繊維が動員されやすい。ただ寄与割合が変わるだけで前筋繊維が使われないわけではないので、最もケガせず高出力をかけることができるフォームであれば考えすぎる必要もないと筆者は思う。
まとめ
今回は中殿筋の解剖学とトレーニング種目を解説した。
中殿筋は骨盤の安定と脚の外転に関わる筋肉で、くびれの作成や脚を長く見せる効果がある。
解剖学的には腸骨から大腿骨に付着し、前後の筋繊維に分かれ、動作姿勢により動員される繊維が異なる。主に片脚立位や歩行時の骨盤制御に働き、不足するとトレンデレンブルグ歩行が起こる。中殿筋を鍛えるには、ブルガリアンスクワット、ヒップヒンジ、アブダクションの3種目が有効である。
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