亜鉛がインスリン分泌に与える影響
インスリン生合成過程
インスリンは21個のアミノ酸残基からなるA鎖と、30個のペプチド鎖からなるB鎖が、2つのジスフィルド結合でつながった構造をしている。A鎖内にもジスフィルド結合が一つ存在する。
https://derangedphysiology.com/main/cicm-primary-exam/endocrine-system/Chapter-111/physiology-insulinより引用。インスリンの生合成経路。
インスリンの前駆体であるプレプロインスリンは、膵臓β細胞の粗面小胞体に付着したリボソームで合成される。プレ部分は小胞体にプレプロインスリンが移行するためのシグナルとしての役割を持っており、小胞体に移行した後シグナルペプチターゼによって切断されプロインスリンとなる。
プロインスリンはゴルジ体に運ばれたのち、膵臓のβ細胞の分泌顆粒内でプロホルモン変換酵素によってC鎖が取り除かれて、分泌顆粒中にインスリンとして蓄積される。
インスリン生合成における亜鉛の役割
分泌される前のインスリンは、6量体という構造をとる。亜鉛は、2量体のプロインスリンを6量体に安定化させる構成要素であり、この点でインスリン分泌に寄与する。
インスリンの結晶化を促進する金属は、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の4種類であることが明らかになり、特に亜鉛が最インスリンの6量体形成に優れた促進効果を示した。
上記は1934年の研究論文で、インスリンの6量体形成に、亜鉛を中心としてミネラルが役割を持つことを初めて示した研究である。このように、亜鉛はインスリンが分泌される前にβ細胞内に蓄積させる役割を持つ。
抗酸化物質としての亜鉛の役割
活性酸素とは、細胞の代謝過程で生成される酸素由来の分子群で、過剰に分泌されると酸化ストレスとなり、細胞自身に悪影響を及ぼす。
活性酸素の一つにスーパーオキシドアニオン(O₂⁻)というものが存在し、これはミトコンドリアがATPを合成する過程で生成される。
スーパーオキシドアニオンを、過酸化水素に変換する抗酸化酵素として、SOD(Superoxide Dismutase)がある。亜鉛は銅と共にSODを構成する要素であり、SODとして体内のスーパーオキシドアニオンの無害化に貢献する。
膵臓のβ細胞内でも、活発にATPの合成が行われており、過剰な活性酸素による酸化ストレスに膵臓が晒されると、インスリン分泌調整経路の機能が阻害される。
亜鉛は、抗酸化酵素としての機能を持ち、β細胞内のATP合成によって発生した活性酸素の無害化を通して、インスリン分泌の正常化に寄与する。
亜鉛がインスリン感受性に与える影響
インスリンによるグルコース取り込み過程
https://muscle.fpark.tmu.ac.jp/Kenkyuugaiyou-detail2.htmlより引用。
食餌を通して摂取されたグルコースが小腸で吸収されたのち、血中グルコース濃度が上昇する。
血糖値の上昇は膵臓のβ細胞にシグナルを送り、インスリンの分泌が促進される。
インスリンが標的細胞のインスリン受容体に結合すると、受容体のチロシンキナーゼの活性が亢進する。これによりインスリン受容体基質がリン酸化され、PI3K/Akt経路(細胞内にシグナルを伝達する経路)が活性化する。
PI3K/Akt経路を通してGLUT4が細胞膜へ移動し、細胞内へのグルコース取り込みが増加する。
グルコース取り込みに亜鉛が与える影響
亜鉛は、チロシンホスファターゼ1B(PTP1B)を抑制する作用を持ち、亜鉛欠乏がインスリン抵抗性を高める可能性が示唆される。
PTP1Bとは、インスリン受容体の脱リン酸化を行う非膜貫通型タンパク質である。上でPI3K/Akt経路が活性化するためにインスリン受容体がリン酸化する必要があると説明したが、PTP1BはPI3K/Akt経路活性を低下させることで、インスリン抵抗性を高める。
亜鉛は、PTP1Bの活性を抑制することで、インスリン分泌から細胞内へのグルコース取り込みを正常化させる。
まとめ
亜鉛はインスリンがβ細胞で安定して蓄積されることに寄与し、また抗酸化物質として活性酸素を除去することで、β細胞を酸化ストレスから守る。亜鉛はインスリン受容体の脱リン酸化を抑制することで、インスリン感受性を正常化することに寄与する。
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