はじめに
この記事では活性酸素(Reactive Oxygen Species: ROS)が筋肥大に与える影響とトレーニング後の抗酸化物質摂取の是非を考察する。
活性酸素は細胞を酸化させることで炎症や酸化ストレスを引き起こす一方で、適切な量であればIGF-1を介したmTOR経路を活性化させ、筋肥大に寄与する。
トレーニングによるROSの発生はボリュームと強度に依存し、それに応じた抗酸化物質の摂取戦略が筋肥大の効率に影響を及ぼす。具体的にはボリュームの高いトレーニングや減量期には抗酸化物質の摂取が有効である一方、バルクアップ期や低ボリューム時には摂取を控えるべきとされる。
活性酸素と筋肥大の関係は、トレーニング条件や栄養状態に応じてする。
活性酸素と筋肥大の関係
活性酸素とは
活性酸素とは不対電子を持つために非常に反応性が高く、不安定な酸素中心の化合物の総称である。
活性酸素はタンパク質や脂質などと酸化還元反応を通じて反応し参加を引き起こし分子の安定化を図る。
活性酸素は単に細胞を傷つける有害物質ではなく、免疫細胞による病原体の除去や細胞内のシグナル伝達、遺伝子の発現調節や細胞の分化や発達といった役割を担う。しかし過剰に活性酸素が産出されると身体は「酸化ストレス」に陥り慢性的な疲労状態に陥る。この状態では身体はアナボリックよりも回復を優先するのでコルチゾールの産出が増加する。
活性酸素は細胞を酸化させることで安定化を図るが、酸化した細胞は炎症を引き起こす。このように活性酸素が過剰に増加すると酸化ストレスと炎症が増加し身体は慢性的な回復不足に陥る。このような状態では筋肥大効率は低下するし、何よりも健康的ではない
抗酸化と抗炎症を目的とした戦略についてはこの記事やこの記事を参照して欲しい。体内の酸化ストレスが高いかどうかを判断する基準として血中グルタチオン濃度が用いられる。
活性酸素が筋肥大に与える影響
トレーニングにより産出された活性酸素は筋肥大に影響を及ぼす。活性酸素はIGF-1を介したmTOR経路活性のトリガーとして筋肥大に貢献する。
SODをノックアウトさせたマウスを用いてC2C12細胞(筋芽細胞)での筋細胞の分化と肥大過程を観察した研究では、スーパーオキシドレベルが70%増加するとC2C12細胞が肥大したことが報告された。この研究からスーパーオキシドが筋肥大の内因性トリガーであることが分かる。
活性酸素は、IGF-1シグナルの活性化とIL-6の分泌促進を通じて、骨格筋の筋肥大を誘導するといわれている。
IGF-IがROSを誘導することが確認されており、H₂O₂を用いた処理はIGF-I受容体(IGF-IR)のリン酸化を促進した。一方で抗酸化剤の投与がこのリン酸化を抑制し、下流のAkt-mTOR-p70S6K経路をダウンレギュレーションさせることが報告された。さらに、IGF-Iにより通常は抑制されるFoxO1の活性(筋萎縮関連遺伝子Atrogin-1やMuRF1の発現)も、抗酸化処理によって再活性化されることが示された。
トレーニング後の活性酸物質摂取
トレーニングによる活性酸素がIGF-1によるmTOR経路を促進するトリガーであることが分かっており、抗酸化物質を摂取することでこの活性が抑制されることも分かった。
トレーニング後に抗酸化物質(ビタミンCやビタミンE)を摂取することで筋肥大が促進された研究もあれば、抑制された研究も存在する。このように結果に違いがあるのは被験者の属性やトレーニングに違いがあるからだ。というのもトレーニングによる活性酸素がIGF-1によるmTOR経路を活性化させるのは事実だが、それは産出された活性酸素が適切である場合に限るからだ。
以下ではトレーニングの近くで抗酸化物質をとるかどうかを判断する基準を示す。
トレーニングボリューム
トレーニング中の酸素消費速度は安静時の10〜15倍に増加し、活動中の筋肉への酸素の供給量は100倍近くに達すると言われている。そしてROSの産出は負荷(強度×持続時間)に依存する。
抗酸化物質を摂取するかどうかの基準の一つとしてボリュームの多さがあげられる。
例えば極端にボリュームが多い場合には、メリットを上回る量の活性酸素が産出されるためトレーニング後若しくはトレーニング中の抗酸化物質の摂取が功を制す。
一方で高強度だが低ボリュームなトレーニングの場合は、高ボリュームと比較して活性酸素の産出量が少なくなるのでトレーニング後に抗酸化物質をとらない方が良い。
なぜならこのようなトレーニングで産出された活性酸素の量は活性酸素のメリットを享受する上で適切な量だからだ。ここで抗酸化物質を摂取すると活性酸素の量が下がってしまいIGF-1を介したmTOR活性を低下させてしまう。
1セッション当たりの適切なトレーニングボリュームは6〜10セット付近といわれている。2〜6セットくらいなら抗酸化物質の摂取は必要ないと筆者は考える。10セット全てレストポーズを入れたり、2時間以上動くようなトレーニングの後なら抗酸化物質を摂取した方が良いかもしれない。
増減量
プログラムの目的が増量か減量かによって抗酸化物質の摂取基準が変わる。
例えばバルクアップを優先するような場合は、トレーニング後に抗酸化物質を摂取しない戦略をとると良い。バルクアップ期間では筋肥大を目的とするとともに、炭水化物摂取によるコルチゾール軽減施策をとることができるからだ。
減量期間特に減量末期ならトレーニング後に抗酸化物質を摂取したほうが良い。なぜならこの期間では筋肥大させる余裕が少ないからだ。この期間に栄養素がないのにアナボリックを求めるよりも、回復に専念したほうが良い。
まとめ
本記事では、活性酸素が筋肥大に与える影響とトレーニングの抗酸化物質摂取について解説した。
最後に内容をまとめる。
- 活性酸素は筋肥大の一因。
- 過剰な活性酸素は酸化ストレスと炎症を誘発。
- mTOR経路はROSにより活性化。
- ボリュームと負荷を基準とする。
- 増量と減量を基準とする。
この記事の内容を理解することで、活性酸素のデメリットを最小に抑えて筋肥大できる。
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