はじめに
この記事ではアルギニンの作用と実践について解説する。
アルギニンは非必須アミノ酸に分類されるが、成長期やストレス時には体内合成が不十分となるため、準必須アミノ酸とされる。一酸化窒素(NO)の前駆体として、血管拡張、血流改善、神経伝達、インスリン感受性の向上など、多様な生理作用を持つ。また、アルギニンは肝臓の尿素回路において、アンモニアの解毒に不可欠である。
NOはアルギニンを基質とし、NOS酵素群により産生され、血管拡張や神経・免疫機能に寄与する。GHの分泌促進作用もあり、アルギニンはソマトスタチンの抑制を通じて視床下部–下垂体系を活性化させるほか、NO合成による神経伝達の補助的強化が考えられている。
実践的には、GH分泌促進には5~10gの摂取が推奨され、就寝直前や起床後の摂取が効果的とされる。NO目的では運動や活動の30分前に2g以上が目安である。アルギニンは栄養補助として、トレーニングや成長、ストレス対応に広く応用可能である。
アルギニン概要
アルギニン
アルギニンはタンパク質を構成するアミノ酸のひとつで、非必須アミノ酸に分類される。非必須といっても体内での合成量は限られており、不足分は食事から補う必要があるため、準必須アミノ酸や条件付き必須アミノ酸とも呼ばれている。
特に幼児期は体内合成能力が未発達で、成長に必要な量を十分に作り出せないため必須アミノ酸として扱われる。また、大きな外傷や感染症などのストレス状態ではアルギニンの需要が急増するため、成人でも食事からの摂取が重要になる。
アルギニンは一酸化窒素(NO)の前駆体として重要な役割を果たす。一酸化窒素は血管内皮で生成され、血管拡張作用や血流改善、神経伝達物質の調節、インスリン感受性の向上など、多岐にわたる生理作用を担っている。このNO合成を介して、アルギニンは筋肉の血流を増加させることで疲労回復や成長ホルモンの分泌促進にも寄与するとされている。
食事中では肉類、魚介類、ナッツ類に多く含まれ、を通じて摂取が可能だが、トレーニング強度の高いアスリートや成長期の子ども、ストレス状態にある人はサプリメントでの補給が検討されることも多い。
オルニチン回路(アルギニン合成)
オルニチン回路(尿素回路)は肝臓でアンモニアを無毒化して尿素に変換し、体外に排出するための代謝経路である。アンモニアはアミノ酸の分解過程で発生する有毒な物質で、放置すると神経系にダメージを与える。尿素回路はアンモニアを効率よく尿素に変え、腎臓から尿として排出できる形にすることで体内の窒素バランスを保っている。
オルニチン回路の中でアルギニンは重要な役割を持っている。まずアルギニンは回路の中間代謝物として、最終的に尿素を作る直前の段階に位置する。具体的にはアルギニンはアルギナーゼという酵素によって分解され、尿素とオルニチンに変換される。この尿素が体外に排出されることで、アンモニアの毒性から体を守っている。
またアルギニンが分解されてできたオルニチンは再び回路に戻り、カルバモイルリン酸と結合してシトルリンを作る。このシトルリンがさらに変化してアルギニンに戻ることで尿素回路は循環し続ける。この循環性によりアンモニアを継続して処理することが可能になる。
尿素回路の主要な流れは、まずアンモニアと二酸化炭素からカルバモイルリン酸が作られ、これがオルニチンと結合してシトルリンになる。シトルリンはアスパラギン酸と結合してアルギニノコハク酸を生成し、そこからアルギニンとフマル酸に分解される。最後にアルギニンが尿素とオルニチンに分解されて尿素回路が完結する。この一連の流れが肝臓のミトコンドリアと細胞質で進む。
もしアルギニンが不足すると、この回路が途中で止まってしまい、アンモニアが尿素に変換されず血中に溜まることになる。結果として高アンモニア血症が起こり、脳に毒性が及んで意識障害や昏睡に陥る危険性がある。
作用
NO産出
https://www.ajconline.org/article/S0002-9149%2817%2930970-0/fulltextより引用。
アルギニンはNOを生成するための直接的な基質として重要な役割を持つ。NOの合成は一酸化窒素合成酵素(Nitric Oxide Synthase:NOS)という酵素群によって触媒され、この酵素は主に内皮型(eNOS)、神経型(nNOS)、誘導型(iNOS)の三種類が存在する。それぞれ血管の拡張、神経伝達、免疫応答に関与している。
NOの合成過程は、L-アルギニンがNADPHと酸素(O₂)を利用して酸化される反応である。この反応は大きく分けて電子の移動と酸素の活性化、そしてアルギニンの酸化の三つのステップからなる。
まず、NADPHから電子がFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)、FMN(フラビンモノヌクレオチド)を経て、NOS酵素のヘム部位に伝えられる。ヘム中心で酸素分子が活性化され、L-アルギニンの側鎖が水酸化されてN-ヒドロキシアルギニンを形成する。続いてさらなる酸化反応が進み、L-シトルリンと一酸化窒素が生成される。この反応にはテトラヒドロビオプテリン(BH₄)やヘムなどの補酵素も必要不可欠である。
生成されたNOは細胞膜を容易に通過し、周囲の細胞に作用する。血管平滑筋においては、NOがグアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMPの産生を促すことで血管を拡張させ血流を増加させる。また、神経系ではNOが神経伝達物質として働き、シナプスの可塑性や情報伝達に関与する。さらに免疫系では、iNOSの誘導により大量のNOが産生され、抗菌作用や炎症反応の調節に寄与する。
GH分泌
アルギニンによるGH分泌促進の作用機序は、主に視床下部–下垂体系におけるホルモン制御機構を介した間接的な調節作用に基づいている。具体的にはアルギニンはGHの分泌を抑制するソマトスタチン(somatostatin、SST)の分泌を抑えることでGH分泌を促進する。
ソマトスタチンは視床下部や膵臓、消化管で産生される抑制性ペプチドホルモンで、特に下垂体前葉からのGH分泌を強力に抑制する役割を持つ。ソマトスタチンは「ホルモン分泌にブレーキをかける抑制ホルモン」として機能し、成長ホルモンのみならず膵臓ホルモン(インスリン、グルカゴン)や消化管ホルモンの過剰分泌を防ぐことで体内のホルモンバランスを維持している。
アルギニンは中枢神経系でソマトスタチンの分泌を抑制することで、このブレーキを解除する。結果として視床下部から分泌される成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)の作用が相対的に強化され、下垂体前葉でのGH分泌が促進される。
さらに、アルギニンはNOの前駆体であるため、NO合成を介して視床下部や下垂体の神経伝達を活性化し、GH分泌を補助的に促進する可能性も指摘されている。NOは細胞内シグナル伝達に関与し、カルシウムイオンの流入を促進することにより、GH遺伝子発現を増強するメカニズムも示唆されている。ただし、このNO経路は主に補助的な役割であると考えられている。
また、一部の研究ではアルギニンが直接下垂体に作用してGH分泌を刺激する可能性も示されているが、主要な作用機序はやはりソマトスタチンの分泌抑制を介するものである。
まとめると、アルギニンはGH分泌を促進するために
- 視床下部でソマトスタチン分泌を抑制し、GH分泌のブレーキを解除する。
- ソマトスタチンの抑制によりGHRHの作用が増強され、下垂体前葉からのGH分泌が増加する。
- NO合成を介した神経伝達やカルシウムシグナルを補助的に活性化し、GH遺伝子発現や分泌をさらに促進する可能性がある。
このように、アルギニンは視床下部–下垂体ホルモン系の制御ネットワークに働きかけることで成長ホルモンの分泌を増強し、身体の成長や代謝機能に寄与している。アルギニンのGH分泌作用は研究でも報告されており、臨床的にはGH分泌の検査において用いられている。
実践
摂取量とタイミング
https://www.researchgate.net/figure/hour-male-GH-secretion-profile_fig3_4209258より引用。
GH分泌目的でアルギニンを摂取する場合は、少なくとも一回5g以上の摂取が必要になる。なぜならアルギニンの作用は用量依存的であるからだ。5~10gが多くの人にとって作用を享受できる量となる。副作用を見つつ一回30gまでなら摂取できる。
摂取タイミングは就寝前か起床時である。なぜならここがGH分泌量が増える民ングだからだ。このタイミングでソマトスタチンを抑制しGHの分泌量をブーストさせる。
朝摂取する際には起床から1食目の間に5g以上摂取すると良い。就寝前については就寝直前に摂取することを筆者は推奨する。なぜなら睡眠時のGH分泌のピークにアルギニンの血中濃度ピークを合わせるためである。
問題なく入眠出来て中途覚醒が怒らないことを前提に、GHは睡眠後最初の除波睡眠で最も分泌される、睡眠中の70%のGHがここで分泌されるといわれている。前提を踏まえて最初の除波睡眠は就寝後30~90分後に発生する。一方でアルギニンの血中濃度は摂取後60分前後でピークを迎える。
以上のことから就寝直前にアルギニンを摂取することを勧める。具体的には5g以上のアルギニンを寝る直前の水分摂取とともに摂取する。
NO産出を目的とするなら、作用を発揮したい30分前に2g以上摂取すると良い。
まとめ
本記事ではアルギニンの基礎から生理作用、実践的な摂取方法までを解説した。
最後に内容をまとめる。
- 準必須アミノ酸で成長に重要。
- NOの前駆体として血流促進。
- GH分泌を促進。
- 尿素回路でアンモニアを無毒化。
- GH分泌目的なら就寝直前5g以上の摂取を推奨。
この記事の内容を理解することで、アルギニンを活用した健康促進や筋肥大の効率化を実現することができる。
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