筋形質肥大について解説。

はじめに

この記事では筋形質肥大について解説する。この記事の目的は以下の二つである。

①筋形質肥大メカニズムの理解。

②筋形質肥大トレーニングの理解。

まず筋原線維肥大と筋形質肥大の違いを解説し、次に筋形質肥大のメカニズムを解説する。最後に筋形質肥大を狙ったトレーニングで意識することを解説する。

筋形質肥大とは

筋原線維肥大と筋形質肥大

筋肥大には収縮単位である筋原線維が大きくなる筋原線維肥大と、筋形質の体積が増える筋形質肥大の二つが存在する。

筋原線維肥大と筋形質肥大のイメージ。

筋原線維肥大は筋肉量増加に付随して筋力増加効果を持つ。これは収縮単位が肥大するからだ。一方で筋形質肥大に筋力増加効果はない。

筋形質肥大を狙うヒト

トレーニングの基本は筋原線維肥大である。トレーニングを通じて重量オーバーロードを達成し、筋力向上の後追いで筋原線維が肥大する。ただ筋原線維肥大にはプラトーが存在すると仮定される。

筋肥大を目的としたトレーニングを真剣に5年ほどすると、筋力増加の速度が鈍化する。見た目の使用重量は上がるのだが、それは反動であったり、可動域の縮小、腱や関節使用の効率化といった筋原線維肥大以外の要因である可能性が高い。

このように真剣に筋原線維肥大に向き合うと個体差はあるが筋原線維に限界が生じる。筋形質肥大はこのようなヒトがさらなる筋肥大を追求する際に使用される。

従来のトレーニング方法と、SST(Sarcoplasma Stimulating Training)での上腕に筋肉の筋肥大効果を比較した研究では、SSTで有意な結果が報告された。被験者は、平均年齢20.75歳、平均身長176㎝、平均体重79.41㎏、平均トレーニング歴4.1年であった。

https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2019.00579/full参照。

筋形質肥大のメカニズム

筋形質肥大は細胞膜の膨張によって起こるとされる。筋肉細胞は細胞膜という膜で覆われており、これが大きくなることでその中に入る筋形質の量が増える。

例えば350mlペットボトルと500mlペットボトルでは後者の方が多く水を蓄えられて、大きい。

では細胞膜をどう大きくするか。換言すると細胞膜にどう刺激を入れるか。筋細胞内への水分量増加、いわゆるパンプによって細胞膜に刺激を入れる。パンプにより細胞膜への圧力が増加し、それが細胞の構造を壊す脅威と認識され細胞内のシグナル伝達が反応し、細胞膜の構造強化が促進される。このシグナル伝達反応は細胞膜に存在するインテグリンの活性化によっておこる。

筋形質肥大のメカニズムは筋原線維肥大のメカニズムと似ている。筋原線維肥大の場合は外からメカニカルテンションをかけることが筋原線維への脅威となり肥大のトリガーとなる。筋形質肥大の場合パンプによる内側から細胞膜への張力が細胞膜の構造を脅かす脅威となり肥大のトリガーとなる。

筋形質肥大のメカニズムは、パンプ→細胞膜への張力(恒常性の一次的破壊)→インテグリン活性化→インテグリンによるタンパク同化→細胞膜肥大に伴う筋形質肥大、となる。

筋形質肥大のメカニズムを理解すると、筋形質肥大を狙うトレーニングではパンプを高めることが重要と分かる。そして今までの研究やボディビルダーの経験上パンプはメタボリックストレスによって発生することが分かっている。

いかにしてトレーニングでメタボリックストレスを対象筋に与えパンプを促進するか。これが筋形質肥大のトリガーを発生させるうえで重要になってくる。

筋形質肥大トレーニング

ここではパンプという現象と、メタボリックストレスを引き起こすトレーニング方法を解説する。

パンプとは

https://hollywoodsuite.ca/movies/pumping-iron/より引用。

パンプは「Cell swelling」のことを指し、トレーニングを通して筋細胞内の水分が増加し細胞が膨張する現象である。トレーニング中には、対象筋から心臓へ血液を送り返す静脈が圧迫される一方で、追加の運動をするために動脈は対象筋へ血液を供給し続ける。これにより骨格筋内の血漿濃度が増加し血漿が毛細血管から間質空間に浸透し続ける。間質空間に水分が蓄積されると細胞外と細胞内での圧力の差が広がり、血漿が筋細胞内に戻る。こうして細胞内が血液で膨張しパンプが引き起こされる。

使用重量

メタボリックストレスは無酸素解糖系が支配的なトレーニングで強調される。有酸素系は継続してトレーニングを行える特徴を持つが、これは代謝物を有酸素系の回路でエネルギーに変換するからで、メタボリックストレスを対象筋に与え続ける上ではデメリットになる。

無酸素解糖系が支配的になる重量は8~12回である。RMに換算すると67~80%1RMとなる。

TUT

TUT(Time Under Tension)とは骨格筋が緊張している時間であり、骨格筋に休みなく刺激を入れ続けることができる

TUTを高める上でエキセントリック収縮に時間をかける戦略が考えられるが、メタボリックストレスを引き起こすうえではこのタイプのTUTは効果的でない。

エキセントリック収縮はコンセントリック収縮よりも発揮筋力が高く、またコンセントリック収縮よりも消費するエネルギーが4分の1で済むといわれている。エキセントリック収縮に時間をかけることは筋原線維肥大においては重要である。なぜなら少ないエネルギーで筋原線維にかかる張力を高めることができるからだ。しかしエキセントリック収縮時に時間をかけるのは消費されるエネルギーが少ないため、常にエネルギーを使いメタボリックストレスを高める際にはかえって邪魔になる。

TUTには筋原線維肥大(メカニカルテンション)に有効なタイプと筋形質肥大(メタボリックストレス)に有効なタイプがあり、それはエキセントリック収縮を耐える時間で変わる。メタボリックストレスに有効なTUTは収縮もストレッチも過度に耐えすぎず行うときに高まる。またアイソメトリック収縮で耐えるのもメタボリックストレスを高める上で有効と考えられる。

レスト

レストが短いほど急性的な代謝物の除去が難しくなる。そのため筋原線維肥大メインならレストを多くとって限界まで筋繊維に刺激を与えることが効果的になり、筋形質肥大メインならレストを短くした方がメタボリックストレスを対象筋に与えやすくなり効果的になる。

レストに関しては多くの文献や研究を基に30秒以下が望ましいだろう。

局所的高ボリューム

筋形質トレーニングでは、短時間で大量のボリュームを稼ぎメタボリックストレスを集中的に対象筋に与えることが大切にある。先に触れたSSTと従来のトレーニングの比較研究では、SSTの方が従来のトレーニングよりも総ボリュームが少なかったことが報告されている。

https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2019.00579/fullより引用。

従来のトレーニングは10RM8セットでレスト1分である。SSTの中でもCT(contraction type)は、70~80%1RMで限界まで3セット、20%重量を下げ1秒ポジティブ4秒ネガティブ、20%重量を下げ4秒ポジティブ1秒ネガティブ、20%重量下げ45秒アイソメトリックホールド計7セットでレストは各20秒である。SST-RIV(rest interval variable)は70~80%1RMの重量を変えず8セット行い、レストは: 45、30、15、5、5、15、30、45秒である。

メタボリックストレスによる筋形質肥大を狙うトレーニングでは、短時間高ボリュームが重要である。例えば2時間で総ボリューム2000よりも、1時間で総ボリューム750の方がメタボリックストレスと筋形質肥大を起こしやすい。

まとめ

今回は筋形質肥大トレーニングについて解説した。筋形質肥大トレーニングは筋原線維肥大の限界に達したヒトがさらなる筋肥大を追求する際に採用される中上級者向けのトレーニング方法である。実際に局所的に高ボリュームを対象筋に与えるトレーニングは従来のトレーニング方法と比較して主観的強度が高かったことも報告されており、精神的限界に負けないことも完遂に大切になってくる。

トップアマやトッププロボディビルダーがSSTやFST-7その他低インターバル高ボリュームトレーニングを行う理由は様々な理由があるが、先に述べた事情はそれらの一つである。

基本は筋原線維肥大トレーニングだが、中上級者で停滞を感じているヒトやさらなる筋肥大を求める人は筋形質肥大をメインとしたトレーニングを採用すると良いだろう。

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