筋形質肥大について解説。

はじめに

この記事では筋形質肥大について解説する。具体的には、筋形質肥大のメカニズムと、筋形質トレーニングについて解説する。これらについて理解することは、筋原線維肥大の限界に近づいたヒトが漸進的オーバーロードを達成するうえで重要になる。

筋形質肥大とは

筋原線維肥大と筋形質肥大

筋肥大には収縮単位である筋原線維が大きくなる筋原線維肥大と、筋形質の体積が増える筋形質肥大の二つが存在する。両方のイメージは以下の図に示す。

筋原線維肥大は筋肉量増加に付随して筋力増加効果を持つ。これは収縮単位が肥大するからだ。一方で筋形質肥大に筋力増加効果はない。なぜなら筋形質の体積が増えるからだ。

筋形質肥大を狙うヒト

筋原線維肥大のポテンシャルを90%程度発揮したヒトが、継続して筋肥大していくうえで筋形質肥大が重要になる。なぜなら、筋原線維肥大には限界があるからだ。

筋肥大の基本は筋原線維肥大である。トレーニングを通じて重量オーバーロードを達成し、筋力向上の後追いで筋原線維が肥大する。しかし筋原線維肥大は無限に実現することはできず、プラトーが存在すると仮定される。

これはミオスタチンが原因である。ミオスタチンは骨格筋の増加を抑制する因子である。そしてミオスタチンは骨格筋に存在しており、筋肥大を達成するほどミオスタチンも増える。これが徐々に筋原線維肥大の速度が低下する原因であり、トレーニングによる筋原線維肥大のトリガーを、ミオスタチンの抑制効果が上回った時点で、筋原線維肥大はプラトーを迎えるといわれている。

週3回以上の筋肥大トレーニングを真剣に5年ほどすると、筋力増加の速度は鈍化する。見た目の使用重量は上がるのだが、それは反動であったり、可動域の縮小、腱や関節使用の効率化といった筋原線維肥大以外の要因である可能性が高い。

以上のことから、筋原線維肥大には限界があると仮定され、そのようなヒトが別の方向で筋肥大を実現する手段が筋形質肥大である。以下に代表的な筋形質肥大トレーニングであるSST(Sarcoplasma Stimulating Training)と従来のトレーニングを比較した研究を示すが、中級者レベルの被験者で筋肥大効果が報告されている。

従来のトレーニング方法と、SSTでの上腕に筋肉の筋肥大効果を比較した研究では、SSTで有意な結果が報告された。被験者は、平均年齢20.75歳、平均身長176㎝、平均体重79.41㎏、平均トレーニング歴4.1年であった。

https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2019.00579/full参照。

筋形質肥大のメカニズム

筋形質肥大は、細胞膜の膨張によっておこる。筋肉細胞を覆う細胞膜が以前よりも大きくなることで、その中に入る筋形質の量が増えるのだ。例えば350mlのペットボトルと500mlのペットボトルでは、後者の方が多く水が蓄えられていて、大きい。

筋形質肥大のためには、細胞膜を大きくさせる刺激を与える必要がある。この刺激は筋肉細胞への水分量の増加、いわゆるパンプによって細胞膜に与えられる。なぜなら、パンプによって細胞膜への圧力が増加するからだ。

細胞膜への圧力は細胞の構造を壊す脅威と認識され、細胞内のシグナル伝達が反応し、細胞膜の構造強化が促進される。このシグナル伝達反応は細胞膜に存在するインテグリンの活性化によっておこる。

筋形質肥大のメカニズムは筋原線維肥大のメカニズムと似ている。筋原線維肥大の場合は外からメカニカルテンションをかけることが筋原線維への脅威となり肥大のトリガーとなる。筋形質肥大の場合はパンプによる内側から細胞膜への張力が細胞膜の構造を脅かす脅威となり肥大のトリガーとなる。

筋形質肥大のメカニズムは、パンプ→細胞膜への張力(恒常性の一次的破壊)→インテグリン活性化→インテグリンによるタンパク同化→細胞膜肥大に伴う筋形質肥大、となる。

筋形質肥大のトリガーは細胞への内側からの圧力で、それは筋力トレーニングでパンプを起こすことで発生する。そして今までの研究やボディビルダーの経験上、パンプはメタボリックストレスによって発生することが分かっている。

筋形質肥大のメカニズムに基づくと、いかにしてトレーニングでメタボリックストレスを対象筋に与え、パンプを促進するかということが重要になる。

筋形質肥大トレーニング

パンプとは

https://hollywoodsuite.ca/movies/pumping-iron/より引用。

パンプは「Cell swelling」のことを指し、トレーニングを通して筋細胞内の水分が増加し細胞が膨張する現象である。トレーニング中には、対象筋から心臓へ血液を送り返す静脈が圧迫される一方で、追加の運動をするために動脈は対象筋へ血液を供給し続ける。これにより骨格筋内の血漿濃度が増加し血漿が毛細血管から間質空間に浸透し続ける。間質空間に水分が蓄積されると細胞外と細胞内での圧力の差が広がり、血漿が筋細胞内に戻る。こうして細胞内が血液で膨張しパンプが引き起こされる。

使用重量

筋形質肥大を目的とする場合には、重量は8~12回である。RMに換算すると67~80%1RMを選択する。なぜなら、メタボリックストレスは無酸素解糖系が支配的なトレーニングで強調されるからだ。

有酸素系はが支配的になるトレーニングでは代謝物が有酸素系の回路でエネルギーに変換されるため、細胞膜への張力は少なくなり適切なメタボリックストレスを対象筋に与え続けることができなくなる。無酸素解糖系を支配的にし、細胞内に代謝物を蓄積させることが重要になる。

以上のことから、筋形質肥大を目的とっする場合には、無酸素解糖系が支配的になる8~12回できる重量を選択する。

TUT

TUT(Time Under Tension)とは骨格筋が緊張している時間であり、骨格筋に休みなく刺激を入れ続けることができる

TUTを高める上でエキセントリック収縮に時間をかける戦略が考えられるが、メタボリックストレスを引き起こすうえではこのタイプのTUTは効果的でない。

エキセントリック収縮はコンセントリック収縮よりも発揮筋力が高く、またコンセントリック収縮よりも消費するエネルギーが4分の1で済むといわれている。エキセントリック収縮に時間をかけることは筋原線維肥大においては重要である。なぜなら少ないエネルギーで筋原線維にかかる張力を高めることができるからだ。しかしエキセントリック収縮時に時間をかけるのは消費されるエネルギーが少ないため、常にエネルギーを使いメタボリックストレスを高める際にはかえって邪魔になる。

TUTには筋原線維肥大(メカニカルテンション)に有効なタイプと筋形質肥大(メタボリックストレス)に有効なタイプがあり、それはエキセントリック収縮を耐える時間で変わる。メタボリックストレスに有効なTUTは収縮もストレッチも過度に耐えすぎず行うときに高まる。またアイソメトリック収縮で耐えるのもメタボリックストレスを高める上で有効と考えられる。

レスト

筋形質肥大を目的とするなら、30秒以下のレストが望ましい、なぜならレストが短いほど急性的な代謝物の除去が難しくなるからだ。このことから筋原線維肥大メインならレストを多くとって限界まで筋繊維に刺激を与えることが効果的にはなるが、筋形質肥大メインならレストを短くした方がメタボリックストレスを対象筋に与えやすくなり効果的になる。

以上のことから筋形質肥大トレーニングでは30秒以下のレストが望ましい。

局所的高ボリューム

筋形質トレーニングでは、短時間で大量のボリュームを稼ぎメタボリックストレスを集中的に対象筋に与えることが大切になる。先に触れたSSTと従来のトレーニングの比較研究では、SSTの方が従来のトレーニングよりも総ボリュームが少なかったことが報告されている。

https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2019.00579/fullより引用。

従来のトレーニングは10RM8セットでレスト1分である。SSTの中でもCT(contraction type)は、70~80%1RMで限界まで3セット、20%重量を下げ1秒ポジティブ4秒ネガティブ、20%重量を下げ4秒ポジティブ1秒ネガティブ、20%重量下げ45秒アイソメトリックホールド計7セットでレストは各20秒である。SST-RIV(rest interval variable)は70~80%1RMの重量を変えず8セット行い、レストは: 45、30、15、5、5、15、30、45秒である。

メタボリックストレスによる筋形質肥大を狙うトレーニングでは、短時間高ボリュームが重要である。例えば2時間で総ボリューム2000よりも、1時間で総ボリューム750の方がメタボリックストレスと筋形質肥大を起こしやすい。

筋形質肥大トレーニングでは、使用重量や回数だけでなく、局所的オーバーロードも対象になるだろう。

まとめ

今回は筋形質肥大について解説した。

筋肥大には筋原線維肥大と筋形質肥大があり、前者は筋力向上に寄与するが、後者には筋力増加効果はない。筋原線維肥大には限界があり、特に長年のトレーニングによりミオスタチンの影響で成長が鈍化する。そのため、筋形質肥大が重要となる。

筋形質肥大は筋細胞膜の膨張により生じ、トレーニングによるパンプが刺激となる。筋形質肥大を促すには、メタボリックストレスを高めることが鍵となる。これには、8~12回の反復回数(67~80% 1RM)、30秒以下の短いレスト、局所的高ボリュームといった要素を含むトレーニングが有効である。

トップアマやトッププロボディビルダーがSSTやFST-7その他低インターバル高ボリュームトレーニングを行う理由は様々な理由があるが、筋原線維肥大の限界に達していることがそれらの一つである。基本は筋原線維肥大トレーニングだが、中上級者で停滞を感じているヒトやさらなる筋肥大を求める人は筋形質肥大をメインとしたトレーニングを採用すると良いだろう。

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