筋繊維への刺激3様式を解説。

はじめに

この記事では、筋力トレーニングを通じて骨格筋に与えられる刺激を解説する。刺激は大きく3つに分類され、マスキュラーダメージ、メカニカルテンション、メタボリックストレスの3様式が存在する。

3つに刺激の特徴を理解することは、自分が求める結果を引き起こすためのトリガーを理解することを意味し、重要である。3様式全て筋肥大に貢献するが、発生させるトリガーが異なる。

この記事では、この3様式がどのようなものなのかを解説し、それらがどのように筋肥大に貢献するのか、これらを筋力トレーニングにどう応用するかまで解説する。

マスキュラーダメージ

マスキュラーダメージ

マスキュラーダメージとはまさしく筋繊維の損傷である。

骨格筋がマスキュラーダメージを受けると、筋繊維の細胞膜と基底膜の間が損傷し、身体は損傷を治すために成長因子を放出する。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10805959/参照。

マスキュラーダメージは、比較的強い負荷が骨格筋に与えられたときに発生する。具体的にはストレッチ種目やエキセントリック収縮、慣れていない種目を行ったときに発生しやすい。

マスキュラーダメージとサテライト細胞、そしてIGF-1は密接な関係がある。なぜなら、マスキュラーダメージによって損傷を受ける場所にはサテライト細胞が存在しており、マスキュラーダメージによってサテライト細胞が活性化するからだ。

マスキュラーダメージはサテライト細胞の持つ細胞の分化、回復及び増殖を活性化させるトリガーと考えられる。筋繊維の損傷により、損傷筋繊維由来因子が発現し、サテライト細胞の分化、増殖が活性化する。

https://www.amed.go.jp/news/release_20200904-01.html参照。

IGF-1とは下垂体前葉で分泌された成長ホルモンを基に肝臓で生成されるホルモンで、サテライト細胞にある受容体と結合することで作用を発揮する。

マスキュラーダメージによって活性化したサテライト細胞にある受容体IGF1Rに、体内で分泌されたIGF-1が結合することで細胞の増殖と分化が促進される。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12891709/及びhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11007571/参照。

以上のことから、マスキュラーダメージはサテライト細胞内のIGF-1受容体活性化に適しており、IGF-1を介した筋肥大に貢献しやすいといえる。IGF-1はmTOR等のタンパク質合成のスイッチとなる分子を刺激する。

ちなみにIGF-1の活性化によって、筋繊維の新たな形成、つまり筋形成(Hyperplasia)という現象が発生すると示唆されているが、青年期以降のヒトでの過形成を報告する文献や研究がほとんど存在しないため、再現性は低い。

応用

マスキュラーダメージを利用した筋肥大効率を高めるには、食餌や睡眠を最適化することが重要になる。なぜなら、マスキュラーダメージは成長ホルモン及びIGF-1を介した筋肥大に貢献するからだ。IGF-1濃度は成長ホルモン濃度と相関があり、成長ホルモンの分泌量は食事や睡眠を最適化することで増加する。

以上のことから、マスキュラーダメージの効果を高めるには、食餌と睡眠を徹底し成長ホルモン分泌量を最大化させることが重要になる。

次に、マスキュラーダメージは弱点部位の改善に効果的である。なぜなら、IGF-1を介した筋肥大が局所的な肥大に利用できるからだ。

運動と間質液中の成長ホルモン及びIGF-1の濃度と、それらと発汗の関連性を調査した研究では、9人(うち女性3名)に50分の中強度トレーニングをさせ、運動中に皮膚間質液と血液を収集した。他の7人(うち女性4名)に成長ホルモン及びIGF-1を皮膚間質液に投与し、その影響と発汗量を評価した。

結果として、運動によって成長ホルモンとIGF-1が皮膚間質液内で増加すること、運動誘発性発汗は皮膚間質液及び血中の成長ホルモンと関係があるが、運動による血管拡張に両ホルモンは関係ないことが報告された。

https://link.springer.com/article/10.1007/s00421-024-05448-9参照。

この研究から、運動誘発性発汗が成長ホルモン及びIGF-1の局所的分泌によって発生することが分かる。つまりIGF-1は運動によって発汗した部位に局所的に作用するといえる。以上のことから、マスキャラ―ダメージによる筋肥大は局所的に引き起こすことが可能で、弱点改善に利用できる。

マスキャラ―ダメージの特徴から、マスキャラ―ダメージを狙うトレーニングは、できるだけストレッチ種目で、かつピンポイントを狙う種目を選ぶと良い。このような選定をすることで、狙った部位以外へIGF-1が作用することを防ぐことができる。狙った部位のみを狙えているかどうかは、対象筋のみが発汗しているかどうかが基準になる。

例えば身体全体が汗を書くようなトレーニング(パワーフォームでのスクワットやベンチプレス等)は、全体的な大きさを獲得するうえでは効果的であるが、弱点克服やボディビルディング特化トレーニングとしては適していない。なぜなら、内臓を含む全身のIGF-1レベルを上げてしまうからだ。

メタボリックストレス

メタボリックストレス

メタボリックストレスとは、筋収縮を通じて分泌されるホルモンや、蓄積される代謝物によって筋繊維に与えられる刺激である。

トレーニングを通じて内因性のホルモンが分泌される。IGF-1や成長ホルモン、テストステロンといった筋肥大に貢献するホルモンはトレーニング中に分泌され、特に中~高回数のトレーニングで分泌されることが多くの文献で報告されている。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2262468/https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8458810/https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/ajpendo.2001.280.3.E383?rfr_dat=cr_pub++0pubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org参照。

筆者は内分泌系ホルモンの増加を目的にメタボリックストレスを採用する必要はないと考えている。なぜなら、メタボリックストレスによるホルモン増加は局所的であるし、ホルモン分泌は筋肥大のトリガーではないからだ。

メタボリックストレスによる内分泌系ホルモンの増加は、筋肥大のトリガーではなく、筋肥大というトリガーが発生してから筋肥大が起こるまでの工程を円滑にするものである。例えるならばパスタにおけるミートソースのようなものである。パスタがなければパスタは作れないが、ミートソースがなくてもツナとか、納豆などを使えばパスタをつくることはできる。メタボリックストレスによる内分泌系ホルモンの増加は筋肥大効率を高めるかもしれないが、筋肥大のトリガーとなりうる刺激がなければそれらは意味をなさない。

またトレーニングによる内分泌系ホルモン増加はトレーニング後3時間程度しか増加せず、かつ外部投与される量と比較すると量が少ない。例えば週3回トレーニングする場合ホルモンが増加するのは1週間の9時間程度。全体の5.35%である。この程度の内分泌系ホルモン増加を気にするより、睡眠の徹底やホルモンに基づいた栄養戦略を徹底するほうが、週当たりの内分泌系ホルモン増加に貢献するだろう。さらにメタボリックストレス以外の様式でも内分泌系ホルモンは局所的に増加する。

以上のことから、筆者は内分泌系ホルモンの増加を目的にメタボリックストレスを採用する必要はないと考えている。

応用

メタボリックストレスを採用する理由は代謝物の蓄積にある。なぜならそれが筋形質肥大のトリガーになるからだ。筋形質肥大は細胞膜に内側から張力を発生させることで引き起こされ、パンプや代謝物の蓄積が細胞膜の体積を増やすことで張力が発生する。これらの代謝物を最も蓄積しやすい刺激はメタボシックストレスである。

以上のことから、メタボリックストレスは筋形質肥大を目的に採用される。

代謝物としては乳酸や水素イオン、無機リン酸やクレアチンなどがあげられ、これらの代謝物は無酸素解糖系をエネルギー供給系として主に使用する運動で蓄積される。そして無酸素解糖系は6~12レップの動作で支配的になるので、メタボリックストレスを狙う際は6~12回できる重量に設定する必要がある。

使用重量と筋肥大の関係より、低重量の方が高重量よりも筋肥大に占める筋形質肥大の割合が多いと推測されるので、筆者は特にメタボリックストレスを狙う場合は8~12回できる重量を採用している。

13回以上できる重量の場合、有酸素系によるエネルギー供給が増えてくるので推奨しない。なぜなら、有酸素系は代謝物をATPに変換することで長期的運動を可能にしているからだ。メタボリックストレスの目的が代謝物の蓄積にあることを考えると、メタボリックストレスは筋形質肥大を目的とする時に採用するものになる。この目的のためには対象筋に代謝物を蓄積させることが重要で、そのためにも回数は無酸素解糖系が支配的になる6~12回を選択する。

筋形質肥大については以下の記事で詳述しているので参照してほしい。

メカニカルテンション

メカニカルテンションとは、筋繊維にかかる物理的張力である。そしてメカニカルテンションこそが筋肥大と筋原線維肥大発生のトリガーと考えられている。これについては多くの文献やサイトで解説されているのでここでは詳しく説明しない。

応用

筋繊維にかかるメカニカルテンションを最大化するためには、爆発的挙上、フルレンジ、エキセントリック収縮が重要となる。なぜならメカニカルテンションは基本的にエキセントリック収縮時に発生するからである。

コンセントリック収縮を爆発的に挙上することで、仕事率が高くなるとともにⅡ型繊維も多く動員される。またフルレンジで行うことで対象筋の多くの筋繊維にメカニカルテンションをかけることができる。

また筋収縮にはエネルギーが必要で、神経伝達のためのカルシウム、水の引き込みのためのナトリウム、ATP産出のためのグリコーゲンなどが必要になる。コンセントリック収縮に時間をかけるとをゆっくり行うと筋収縮の時間が長くなり限りあるエネルギーを使ってしまう。一方で筋収縮のメカニズムに基づくと、骨格筋が引き伸ばされているときは筋収縮時と比較して消費されるエネルギーが少ない。

以上のことから、爆発的挙上、フルレンジ、エキセントリック重視を徹底することが筋繊維全体にかけるメカニカルテンションを最大化するうえで重要になる。

エキセントリック重視について、意図的に止めながら降ろすことは非推奨である。なぜなら腱の弾性力を多く使うことになるからだ。動作を止めるごとに筋収縮が起こり、筋収縮が腱を延ばす。これによって止めるごとに筋収縮によって引き伸ばされた腱が元に戻るために力発揮をする。このような状況だと、発揮される力は高くなるが、力に占める骨格筋の割合は少なくなる。

以上のことから、エキセントリック収縮を意図的に止めながら行うことは推奨しない。

ちなみにパワーリフターは絶対的重量を伸ばすことが目的なので、コンセントリックゆっくり、エキセントリック省略若しくは止めながら行うことが多い。しかしこの記事では筋肥大が目的としているので逆である。

以下にトップレベルのパワーリフターと典型的ボディビルテンポのNick walkerのトレーニングを示す。同じデッドリフトであってもテンポが全く異なることが分かる。目的が変われば手段は変わる。

https://www.youtube.com/watch?v=hrSq1fiRHv8より引用。

https://www.youtube.com/shorts/pTE4lCqwDpwより引用。

まとめ

この記事では、筋肥大に関与する3つの刺激様式である、マスキュラーダメージ、メカニカルテンション、メタボリックストレスについて解説した。

マスキュラーダメージは筋繊維の損傷を通じてIGF-1の分泌を促し、局所的な筋肥大に貢献する。メタボリックストレスは代謝物の蓄積によって筋形質肥大を引き起こし、特に8~12回できる重量が有効である。メカニカルテンションは筋原線維肥大に直結する最も基本的な刺激で、爆発的挙上やエキセントリック収縮、フルレンジ動作が重要である。

各刺激を理解し、目的に応じてトレーニングを使い分けることで、効率的な筋肥大が可能になる。

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