脂肪燃焼メカニズムに基づく脂肪燃焼施策を解説。

はじめに

この記事では、脂肪燃焼メカニズムに基づいた、具体的施策を解説する。なぜなら、メカニズムに基づいていない場合、再現性が低いからだ。

脂肪燃焼とは、トリグリセリドを脂肪酸に分解し、ATPを生成する過程である。ATP生成過程で熱を産出するため脂肪燃焼といわれている。脂肪燃焼がどうやって起こるかは決まっているので、その過程を促進させれば、多くの人が利用できる再現性の高い施策を示すことができる。

脂肪燃焼のメカニズムについては以下の記事で解説しているので参照してほしい。

具体的施策

アドレナリンβ受容体活性させる物質の摂取

受容体の種類主な分布部位主な作用
α1受容体血管平滑筋、肝臓、前立腺、瞳孔散大筋血管収縮 → 血圧上昇、肝臓でのグリコーゲン分解促進、瞳孔散大
α2受容体中枢神経、脂肪細胞、血小板、交感神経末端ノルアドレナリンの分泌抑制(負のフィードバック)、脂肪分解の抑制、血小板凝集促進
β1受容体心臓、腎臓心拍数増加、心筋収縮力増強、レニン分泌促進
β2受容体骨格筋血管、気道平滑筋、肝臓、脂肪細胞血管拡張、気管支拡張、グリコーゲン分解促進、脂肪分解促進(HSL活性化)
β3受容体脂肪細胞(特に褐色脂肪・白色脂肪)脂肪分解促進(リポリシス)、熱産生(褐色脂肪組織の脱共役タンパク活性化)

アドレナリンにはα受容体とβ受容体が存在し、脂肪燃焼を促進するうえではβ受容体の作用発揮が望まれる。そのためアドレナリン分泌量を高めるか、アドレナリンβ受容体を活性化させる施策が考えられる。

薬物療法としてクレンブテロールやエフェドリンの摂取が施策として挙げられる。前者はアドレナリンβ2受容体作動薬(β2アゴニスト)で、血管拡張や気管支拡張を通して脂肪燃焼を促進する。エフェドリンは交感神経を刺激してノルアドレナリンの放出を促進すると共に、自身がβ受容体に結合する作用を持つ。

リガンドを直接β受容体に結合させたり、β受容体を選択的に活性化させられる点が薬物療法の特徴で、自然療法でこれらを実現することは困難である。

自然療法では交感神経刺激によるアドレナリン分泌の増加を実現できる。具体的にはカフェインやエピガロカテキンガレートの摂取が検討される。

寒冷刺激を与える

コールドシャワーや、温冷交代浴といった寒冷刺激を一時的に身体に与えることが、脂肪燃焼に効果的である。なぜなら、寒冷刺激はカテコールアミンであるアドレナリン及びノルアドレナリンを放出するストレスとなるからだ。

体温が低下したとき、視床下部が寒冷刺激を受け取る。その後交換神経を介して刺激が副腎髄質に伝達し、アドレナリン及びノルアドレナリンの分泌が促進される。これらが分泌されることで、肝臓での代謝が亢進したり、心臓の脈動が増加したりする。また脂肪細胞の受容体に結合し、脂肪燃焼が促進される。

ただ寒冷刺激はストレスなので、視床下部の放出ホルモンの分泌も促進し、コルチゾール分泌を促進する。コルチゾール自体は異化に必要なホルモンなのだが、過剰分泌は避けたい。

以上のことから、コールドシャワーや温冷交代浴といった一時的な寒冷刺激への暴露を採用する。

ヨヒンべの摂取

ヨヒンべの摂取は脂肪燃焼を効率化したいならおすすめである。何故ならヨヒンベはアンドロゲンα受容体の活動を阻害するからだ。つまりヨヒンべを摂取することで体内のアドレナリンがβ受容体に結合しやすい状況をつくることができるのだ。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17214405/参照。

この研究ではプロサッカー選手に一日20㎎のヨヒンべを摂取させたところ、ヨヒンべ摂取群でパフォーマンスが低下することなく体脂肪が減少したことを報告している。肥満女性に5㎎のヨヒンべを一日4回計20㎎投与し体脂肪の減少を報告した研究も存在し、被験者の属性を考えるとほとんどのヒトにとってヨヒンべの摂取量は一日20㎎以下で問題ない。

ヨヒンべはその作用機序から強い作用を発揮することが期待できるため、日本では医薬品扱いされている。基本的に作用が強い物質は副作用も強い。ただWADA禁止薬物リスト(2025年)にはヨヒンべが記載されていないので、カフェインのように医薬品レベルのサプリメントとして使うことができる。

ヨヒンべには心拍数の増加や血圧の上昇、不安感と神経過敏や不眠、頭痛などの副作用が報告されている。ヨヒンべの副作用をケアする物質があるわけではなく、単純に量を調整するしか手段がないので過剰摂取は厳禁である。

最大心拍数の60~70%の有酸素運動を実施する

最大心拍数の60~70%の有酸素運動は、脂肪燃焼を促進する。なぜなら、この範囲の心拍数での有酸素運動が有酸素系のエネルギー供給系を活性化させるからだ。

脂肪酸をATPとして利用するエネルギー供給系は、β酸化とクエン酸回路である。これらの供給系はクレアチン及び無酸素解糖系と異なり、酸素を必要とする点で有酸素系といわれる。そして有酸素系は最大心拍数の60~70%の運動で支配的になる。こうして脂肪をエネルギーとして消費する状況をつくることができる。

1ちなみにヒトの最大心拍数を5段階に分け、この範囲は2段階目なので、「Zone 2 training」と言うらしい。

以上のことから、最大心拍数の60~70%の範囲での有酸素運動を推奨する。

食間を4時間程度空ける

食間を4時間空けることが、安静時の脂肪利用を促進する。なぜなら、食間を開けることで血糖値が低下する状況をつくることができるからだ。

カテコールアミンの分泌を促進するトリガーとして血糖値の低下がある。血糖値の低下が起こる状況としては、運動時と安静時がある。

健康なヒトの糖質摂取後の血糖値は、15~60分程度でピークを迎え、次第に下降、150分で空腹時と同程度に戻る。これは摂取する糖質食品にあまり影響されない。また、糖質摂取後のインスリン濃度も15~60分程度でピークに達する。空腹状態では、血中グルコース濃度は100ml当たり80~90㎎程度であり、この程度の濃度ではインスリンの作用はほとんど発揮されない。

https://www.chegg.com/homework-help/questions-and-answers/4-graph-figure-4-shows-changes-blood-glucose-concentration-meal-b-c-d-ief-1-1-1-1-1-1-1-1–q76631136より引用。食後の血中グルコース濃度を表したグラフ。

食後約150分後から次の食事までの間に、血糖値が低下することでカテコールアミンが脂肪細胞に結合し、ヒトの身体が脂質をメインのエネルギー源として利用する(=脂肪燃焼)ことが分かる。

脂肪をエネルギーとして利用するためには、最低150分以上は食間を開けることが良いだろう。また食事で摂取されたグリコーゲンは、食後4時間後程度で骨格筋や肝臓に貯蔵されるか、エネルギーとして利用されるといわれている。

https://www.futurelearn.com/info/courses/understanding-insulin/0/steps/22456より引用。グルコース消費と生成の時間経過を表したグラフ。

以上のことから、食間を4時間程度空けることで、安静時の脂肪燃焼効果を維持することができる。

カルニチンの摂取を検討する。

有酸素運動前や空腹時に1000㎎のカルニチンを経口摂取することで、脂肪燃焼を促進することができる。なぜなら、カルニチンが存在しないと脂肪酸をミトコンドリア内に運搬することができないからだ。

カルニチンについてはこの記事で解説しているので参照してほしい。

ちなみにカルニチンは経口摂取よりも皮下注射や静脈注射の方が生体利用率(Bioavailability)が格段に高い。ただこれらの手法はいわゆるドーピングとして扱われるので注意が必要である。ここでいう注意は健康面ではなくスポーツマネジメントの面での注意である。

酸化ストレスを除去する

酸化ストレスを除去する施策は、脂肪燃焼効果の抑制を阻止する。なぜなら、酸化ストレスがミトコンドリアの炎症を招き、ミトコンドリアの機能を低下させるからだ。

ミトコンドリアを含む細胞は酸化ストレスとそれに伴う炎症によって機能を低下させる。具体的には亜鉛と銅を10対1の割合で摂取し活性酸素を無害化する。またビタミンCを一日1000㎎以上、ビタミンEを一日100㎎以上摂取することで過酸化水素を酸素と水に還元する。余裕があればNACとセレンも同時摂取し、酸化したビタミンCとEを再び活性型に還元させる。

マグネシウムを一日450㎎以上摂取する

マグネシウムを一日450㎎以上摂取することは、ミトコンドリアの機能を促進するうえで効果的である。マグネシウムはミトコンドリアでのATP産出を活性化させる酵素として働くとともに、筋試験作用を持つので、脂肪酸がエネルギーとして使用される効率を高め血管拡張作用を維持させることで脂肪燃焼に寄与する。

マグネシウムについてはこの記事で解説しているので参照してほしい。マグネシウムミトコンドリア以外の組織でも活性酵素として使用されるので、それらの作用に追加してミトコンドリア内での作用を享受するためには、一般的な基準量よりも多めに摂取するように心がける。

サプリメントで摂取する場合には、酸化マグネシウム以外を摂取しよう。というのも酸化マグネシウムの吸収率は4%と非常に低いからだ。筆者はグリシン酸及びビスグリシン酸マグネシウムを推奨する。なぜなら吸収率が80%程度と高いからだ。

クエン酸の摂取

クエン酸は有酸素系でのエネルギー産出を助けることで脂肪燃焼を助ける。

ちなみに筋トレ中のインターバルは、主に有酸素系を使って回復するので、クエン酸の摂取は有酸素運動だけでなくトレーニング中もお勧めである。

筆者はトレーニング中にクエン酸を3g以上摂取することが多い。こうすると2セット目以降のレップ数が1〜2回増えることがある。

まとめ

今回は脂肪燃焼のメカニズムに基づいた具体的施策について解説した。寒冷刺激(コールドシャワーや温冷交代浴)はアドレナリン分泌を促進し、脂肪燃焼を加速させる。最大心拍数60~70%での有酸素運動は脂肪をエネルギー源としての利用を促進し、食間を4時間空けることは血糖値を低下させ脂肪燃焼を助ける。カルニチン摂取は脂肪酸のミトコンドリアへの運搬を助け、酸化ストレス除去やマグネシウム摂取がミトコンドリア機能を向上させる。

最後に当たり前であるが、基本的に脂肪燃焼は消費カロリー>摂取カロリーという状況でないと発生しないと思ってもらって問題ない。有酸素運動を増やすか、マクロ管理が基本中の基本である。この記事の施策はこれらの基本中の基本ができていて効果を発揮する。

参考資料

  1. https://www.onepeloton.com/blog/zone-2-cardio ↩︎

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