重量オーバーロードと回数オーバーロードを解説。

はじめに

この記事では漸進的オーバーロードを構成する要素の、重量オーバーロードと回数オーバーロードについて解説する。この記事を読むことで、重量と回数がどのように筋肥大に関わるかということと、筋肥大を目的としたときの使用重量と回数の最適化g達成される。

重量と回数について一緒に開設する理由は、これらに一定の関係がみられるからだ。この関係を表したものをRM換算表という。例えば100㎏のベンチプレスを1回できる場合、RM換算表に基づくと70㎏のベンチプレスなら11回できると計算することができる。

https://barbend.com/build-your-1-rep-max-calculator/より引用。RM換算表。

RM換算表があてにならないときもある。例えば100㎏のスクワットができるとしてもそれがハーフスクワットであった場合、65㎏のスクワットをフルレンジで15回できるとは限らない。RM換算表の正しさについてはわからないが、筋肥大のためのレップ数と重量を管理する道具としては扱いやすい。

RM換算表に基づくと、回数と重量というのは密接な関係にある。高回数であるほど使用重量は低重量になるし、高重量になるほど回数は低回数になる。これらは一緒に開設したほうが分かりやすいと思った。

重量オーバーロード

高重量でも低重量でも筋肥大は起こる

高重量であっても低重量であっても、トレーニングボリュームに差がなければ筋肥大効果に差がないということは、多くの人が知っているだろう。

60%1RM以下でトレーニングする低負荷グループと、60%1RM以上でトレーニングする高負荷グループでの筋肥大効果の差を調査した研究では、筋肥大に関しては両グループ間で有意差は見られなかった。

一方で筋力に関しては高負荷グループは1RMの向上に明確な有意差を示し、低負荷グループと比較してほぼ確実な差があると推定された。

https://journals.lww.com/nsca-jscr/Fulltext/2017/12000/Strength_and_Hypertrophy_Adaptations_Between_Low_.31.aspx参照。

こちらの研究では、トレーニングボリュームを等しくした状態で、片方の群は10RMで3セットのトレーニングを行った。もう片方の群は3RMで7セットのトレーニングを行った。結果として後者ではベンチプレス、スクワットの1RMが有意に向上したが、筋肥大において両者に有意差はなかった。

https://www.researchgate.net/publication/261516420_Effects_of_Different_Volume-Equated_Resistance_Training_Loading_Strategies_on_Muscular_Adaptations_in_Well-Trained_Men参照。

上記の二つの論文は低重量と高重量での筋肥大効果を比較した研究である。両方とも筋肥大効果は同じであるが筋力は高重量群の方が増加した、という結果を報告している。

筋肥大は幅広い重量で達成されるが、では筋肥大が見込まれる重量の下限はどれくらいだろうか。鉛筆1本持ってカールしても筋肉はつかないはずである。

13人の被験者に、肘関節の屈曲(レッグカールの動き)とレッグプレスを用い、重量による筋肥大の効果の違いを調べた。結果として、20%、40%、60%、80%1RM、にて、40%、60%、80%1RMでは同等の筋肥大が生じたのに対して、20%1RMでは、筋肥大の度合いが急激に低下した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29564973/参照。

20%1RMは100㎏ベンチプレスができる人にとってのバーのみに相当するので、かなり軽い重量であることが分かる。

筋肥大を目的とするなら、20%1RMが重量の下限となる。

重量オーバーロードと回数オーバーロードの比較

重量オーバーロードと回数オーバーロードには、オーバーロードの質に違いがあるのだろうか。例えば重量より回数でオーバーロードした方がより筋肥大するのだろうか。

スクワット、レッグエクステンション、カーフレイズ、シーテッドカーフレイズで、使用重量をそのままにして回数を増やすグループと、回数をそのままにして重量を伸ばすグループに分けて筋肥大の差が調査された。この研究の実験期間は8週間で、実験期間終了後にスミススクワットにて1RMが測定され、大腿直筋と外側広筋、ヒラメ筋と腓腹筋での筋肥大が測定された。この研究の被検者は43人で重量群は男性13人女性9人、回数群は男性21人女性7人であった。

結果として、大腿直筋では回数の方がやや多く筋肥大が見られ、筋力に関しては重量群の方が増加したが、その他の有意差は見られなかった。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36199287/及びhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38286426/参照。

大腿直筋に関しては回数の方が重量よりも多くの筋肥大が見られた。外側広筋で同様の結果を報告する文献もみられるので、大腿四頭筋に関してはある程度の重量まで到達したら回数オーバーロードを優先すると良いかもしれない。ただこれはあくまで推測の域である。

基本的に回数であろうと重量であろうとオーバーロード出来ていれば筋肥大が発生することが分かる。またこの結果は、筋力を伸ばすには重量を伸ばすという先の研究結果を補強している。

重量オーバーロードは20%1RM以上の重量を限界付近まで反復すると、幅広い重量で発生することが分かり、回数オーバーロードと差はないように思われる。また高重量の方が筋肥大と共に筋力も向上することが分かった。

重量選択と筋肥大様式の違い

最後に重量設定による筋肥大様式の違いについて解説する。

今までこの記事で筋肥大という言葉を多く使ってきたが、この筋肥大には「筋原線維肥大」と「筋形質肥大」という二つの様式が存在している。これらはともに筋肥大という結果を発生させるが、結果を発生させるためのトリガー及びプロセスが異なる。

筋原線維肥大とは、筋繊維の最小単位かつ筋繊維の収縮に関与する組織である筋原線維が肥大する現象である。一方で筋形質肥大とは、筋形質を覆う細胞膜が肥大することで、筋形質(細胞における細胞質にあたる部分)の体積が大きくなる現象である。

どちらも筋肥大という結果をもたらすが、筋原線維肥大は収縮のための組織が大きくなるため筋肥大に追加して筋力の向上という効果も有する。しかし筋形質肥大では筋力向上は起こらない。

筋原線維肥大と筋形質肥大のイメージ。

筋原線維肥大のトリガーは、トレーニングを通じて発生する物理的な張力が筋繊維にかかることで発生するといわれている。一方で運動中に蓄積する代謝物やパンプが筋形質体積を増加させ、内側から細胞膜に張力がかかることで、筋形質肥大のトリガーが発生する発生するといわれる。

トリガー発生から結果までのメカニズムについては詳しく分かっていない。ただ我々の目的は筋肥大という現象を発生させることで、現象を発生させるためのトリガーを筋力トレーニングで起こすことである。トリガーから筋肥大までの過程の解明は研究者に任せるとしよう。そして我々は重量選択によって筋肥大に占める様式の割合が異なってくることをすでに知っている。

重量オーバーロードで挙げた複数の研究論文で、低重量群と高重量群で筋肥大に有意差はなかったが、高重量群の方が筋力が有意に向上したという結果が得られた。この結果と筋肥大様式の違いを合わせると、高重量を使用すると筋肥大に占める筋原線維肥大の割合が多くなること、低重量を使用すると筋肥大に占める筋形質肥大の割合が高くなる、といえる。

重量の違いによって筋肥大の差はないが、筋肉量の増加様式には違いがあるといえる。筋原線維肥大及び筋形質肥大発生までの過程については詳しくわからないが、高重量が筋原線維肥大のトリガーとして、低重量が筋形質肥大のトリガーとして働きやすいことは明らかである。

最後に、筋形質肥大に全振りすればよいのではという意見が出てきそうだが、長期的なオーバーロードには筋原線維肥大が必要である。というのも1セッション当たりのセット数はある程度閾値があり、後述するが筋原線維肥大も筋形質肥大もいい塩梅で狙えるレップ数というのが存在し、セット数オーバーロードと回数オーバーロードに閾値がみられるからである。セット数と回数を最適化し、筋肥大のための仕事率も最適化した場合、最終的にオーバーロードできる要素は使用重量(≒筋力)のみになる。

回数(レップ数)オーバーロード

価値あるレップとは

サイズの原理や筋肥大誘発レップの概念を他の記事で解説したが、1セットのすべてのレップが同等の筋肥大効果を有するわけではない。限界に近いほど動員される筋繊維が多くなるので、最後のレップの方が最初のレップよりも筋肥大における価値が高い。

このことから筋肥大のために限界に近いレップを狙うことは絶対条件といえる。トレーニングボリュームを稼ぐことができるからといってレップを稼げばよいわけではない。筋肥大効果が高いレップを稼ごう。

高回数への懐疑

限界近くまで反復することが絶対条件ではあるが、この条件さえ満たせればどんな回数であろうと問題ないのだろうか。

助走のレップでも筋繊維は動員されるので、むしろ高回数の方が限界まで行った際のトータルの筋繊維動員数は高くなる。例えば20レップと8レップでは、本当の限界までやった場合には20レップの方が助走が長いので動員された筋繊維の数は多い。

ただこの助走の違いは微々たるもので、あまりにも軽い重量で限界まで行うことは高重量よりも精神的限界を超えることが難しかったり、リターンに合わない過度なエネルギー消費が必要になる。また後述するが、支配的なエネルギー供給系が有酸素系になり、筋形質肥大にとって好ましいメタボリックストレスが得られないので、筆者は現実的ではないと考えている。

以下では、エネルギー供給系を基に回数を3つに分類し、それぞれの特徴と筋肥大のトリガーをクロスオーバーさせ、回数の最適化を図る。

エネルギー供給系概要

回数は大きく低回数(1~5回)、中回数(6~12回)、高回数(12回以上)の3つに分けることができる。回数を分ける基準は、骨格筋を収縮する際に使用されるエネルギー供給系である。

エネルギー供給系については他のサイトで詳しく解説しているので、ここでは基本的な部分のみ触れる。

ヒトの身体は骨格筋だけでなく筋肉を収縮させるためにATPを産出する。このATPが加水分解によってADPに分解されるときに放出されるエネルギーが筋肉の収縮に使用される。

ATPを産出する過程はATP-PCr系、解糖系、酸化的リン酸化系の3種類があり、酸素の有無で無酸素系(ATP-PCr系、無酸素解糖系)と有酸素系(有酸素解糖系、酸化的リン酸化系)に分けられる。

それぞれのATP産出過程は、ATP-PCr系、無酸素解糖系、有酸素系の順が複雑になる。翻すとATP-PCr系が最速でATPを産出できることを意味している。

つまり瞬発的な運動若しくは高重量を扱う低回数の運動では使用されるエネルギーの多くがATP-PCr系から、中回数の運動では無酸素解糖系から、高回数の運動では有酸素系から供給される。

ATP-PCr系はリン酸とADPが結合することでATPが再生される。ATP再生に使用されるエネルギーは、クレアチンリン酸がクレアチンとリン酸に分解された際に生じたエネルギーに由来する。

ATP-PCr系は他の供給系と比較して組織を介してATPが産出されないので過程が単純で、即座にエネルギーを供給することができるというメリットを持つが、持続的にエネルギーを供給することができないというデメリットも持つ。

出典:Physiology of Sport and Exercise 5th edition p55

解糖系はグルコースを分解することでATPを産出する供給系である。無酸素解糖系と有酸素解糖系の違いは過程の最後でつくられるピルビン酸の性質であり、無酸素系ではピルビン酸は疲労物質である乳酸に変換される。一方で有酸素系ではピルビン酸は乳酸ではなくアセチルCoAに変換される。そしてアセチルCoAは有酸素系のクエン酸回路にはいり、ATP産出に利用される。

無酸素解糖系の特徴として乳酸の蓄積がある。解糖系エネルギーが支配的になっている際の乳酸濃度は安静時の25倍ともいわれており、乳酸が筋肉内に蓄積し筋肉が酸性化すると、解糖系酵素の機能が低下するためグリコーゲンのさらなる分解が抑制されてしまう。さらに乳酸による筋肉の酸性化により筋繊維が収縮するために必要なカルシウム結合が阻害される。以上のことから、嫌気性解糖により蓄積される乳酸は疲労を誘発し、運動の継続を困難にしてしまう。

有酸素系の場合疲労物質である乳酸をアセチルCoAに変換することで上記のような事態を回避し長期的運動を可能にしている。

有酸素系での脂質からのATP産出についてはここでは解説しない。

回数の最適化

高回数トレーニングでは成長ホルモンやテストステロンといったホルモンの分泌が増加するため、高回数トレーニングはホルモンの観点から筋肥大に貢献すると主張する文献が存在するが、内因性ホルモン分泌は筋肥大に貢献する度合いが少ない。というのもトレーニングを通じて分泌される内因性ホルモンは外部から投与されるホルモンの量と比較してかなり少なく、内因性テストステロンに関しては血中濃度がトレーニング後3時程度で通常に戻るからだ。

代謝的ストレス(メタボリックストレス)には、水のむくみや代謝物蓄積といった細胞内の体積の変化と、前述したホルモン分泌の二つがあるが、トレーニングによる内因性ホルモン分泌は筋肥大のトリガーを引き起こすには局所的すぎる。しかし代謝ストレスが無意味とする主張は筋形質肥大を無視している。

低回数も中回数も、共に筋肥大に貢献するが、特に中回数の方が筋肥大に大きく貢献するといわれている。中回数の方が低回数よりも筋肥大に貢献する理由の一つとしてエネルギー供給系の違いがあげられる。

低回数のトレーニングは使用されるエネルギーがATP-PCr系によって賄われるが、中回数のトレーニングは無酸素解糖系によって賄われる。中回数のトレーニングでは代謝物が大きく増加するという特徴があり、この特徴は低回数及び有酸素系が有意になる高回数にはない特徴である。このことを踏まえると、筋原線維肥大も筋形質肥大も良いバランスで見込める回数は中回数であると考えられる。

また中回数トレーニングでは、急性的な細胞水和の増加を引き起こす。これは「パンプ」といわれる現象である。パンプという現象ついてはここでは説明しないが、パンプの結果として、細胞外と細胞内で圧力が変化し、浸透圧の関係から細胞内への水分の流入が促進される。この現象が筋形質肥大に効果的であることはここまで読んでいれば理解できるはずだ。

エネルギー供給系の観点から、中回数が筋原線維肥大だけでなく筋形質肥大を引き起こすトリガーも含んでおり、筋肥大効果を最大化させる。

以上のことから、6~12回が筋肥大において最適な回数と考えられる。この回数に該当する使用重量は、RM法に基づくと67%1RM~85%1RM程度になる。

「6~12回できる重量を向上させていく」この形が重量及び回数オーバーロードの基本となる。例えば筆者はレッグエクステンションの場合8~10回を狙う。まず8回できる重量をRM換算表に基づいて算出し、その重量が10回できるように回数オーバーロードをとる。10回できるようになったら11回を狙うのではなく、RM換算表に基づいて8回できる重量を算出し重量オーバーロードをする、という形でオーバーロードをする。

まとめ

重量オーバーロードであろうと回数オーバーロードであろうと、筋肥大に差はないが、筋肥大に占める筋原線維肥大と筋形質肥大の割合が異なる。

エネルギー供給系の観点から、筋原線維肥大も筋形質肥大もいい塩梅で狙うことができるのは6~12回であり、この範囲での重量及び回数オーバーロードが効果的である。

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