パーシャルレンジとフルレンジの筋トレ効果の違いは?

はじめに

この記事では、筋肥大の観点からフルレンジとパーシャルレンジを比較する。まず両者の定義を明確にし、それぞれの持つ効果を解説する。次にロングレンジパーシャルとショートレンジパーシャルについて、研究を基に考察する。

フルレンジとパーシャルレンジ

フルレンジとは、「対象筋に負荷がのっている全可動域」と定義できる。例えばフリーウエイトでのプリーチャーカールやインクラインカールの場合、重力と前腕が拮抗する場所までが対象筋に負荷がのっている範囲で、それ以上範囲を広くしたとしても可動域が増えたとはいえない。

パーシャルレンジの可動域はフルレンジのそれよりも狭い。パーシャルレンジの良し悪しを決めるのはピークトルク通過の有無といえる。

例えばフリーウエイト種目は負荷の方向が一定なので、ウエイトの位置で対象筋への負荷のかかりが弱い部分と強い部分がある。筋肉への負荷が最も強くなるピークトルクの範囲内にレンジを絞って行うパーシャルレップは、負荷の少ない場所をあえて省略してトレーニングするので効果的といえる。

https://www.cortho.org/workers-compensation/scheduled-loss-of-use/shoulder/より筆者編集。フリーウエイトのサイドレイズの場合フルレンジで行うよりも可動域を制限したほうが動作中ずっと対象筋に負荷を乗せ続けられる。

また限界まで運動した後に取り入れるパーシャルレップも効果的である。ピークトルクは超えることはできないがまだ余力がある場合、パーシャルレップで余力を出し切りボリュームを増やす。

高重量だがピークトルクを通過しないパーシャルレップは、対象筋にとっては高負荷ではなく筋肥大効果が薄く、悪いパーシャルレップといえる。

パーシャルレップは筋力向上に効果的?

ここからはレンジの制限に関係する要素を解説していく。

パーシャルレンジはフルレンジ動作よりも可動域が狭いので、その分フルレンジよりも重い重量を扱うことができる。そのためパーシャルレップは筋力向上に効果的であると考えられている。二つの研究結果からパーシャルレップによる使用重量増加が筋肥大に貢献するかを考察する。

ベンチプレス1RMと大胸筋の筋断面積には強い相関関係がみられる。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24169471/参照。

パーシャルレンジのスクワットとフルスクワットでの1RMの重量と筋肥大について調査したところ、フルレンジスクワットを行った群の方が、筋断面積と1RMの使用重量が向上した。パーシャルレンジであるクウォータースクワットにおいても、フルレンジスクワット群の挙上重量が増加した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24169471/参照。

パーシャルレップによる使用重量の増加が筋肥大に効果的と示唆されるのは筋原線維肥大の原理とオーバーロードの性質が理由である。

筆者の記事「漸進的オーバーロード」で詳述しているが、1セッション当たりのセット数と、筋肥大に効果的なレップ数には閾値が存在し、漸進的オーバーロードには重量オーバーロードが残される。

筋繊維には筋原線維肥大と筋形質肥大の様式があり、筋原線維肥大≒筋力向上である。筋原線維肥大は筋力向上に付随して達成されるため、パーシャルレップでフルレンジよりも重い重量を扱うことが効果的と考えられる。

先に挙げた研究から、筋力向上と筋肥大に相関関係があると考えられる、もし対象筋全体の筋肥大を目的とするなら、パーシャルレップによる筋力向上は筋肥大に効果的とは言えない。というのもパーシャルレップは部分的な範囲での筋力向上、筋原線維肥大にすぎないからだ。

可動域の閾値

パーシャルレップとフルレンジの効果を調査した体系的レビューでは、下半身を対象とする場合フルレンジが有効である可能性が高いが、上半身に関してはわからないとnお結論が出された。

またレビュー内では、「対象筋が活動する可動域の閾値に達すると、それ以上可動域を増やしても対象筋への効果は高まらないのでは」という仮説が立てられた。

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6977096/参照。

例えばフルスクワットとパラレルスクワットを比較した際に、大腿四頭筋の筋肥大効果は両方で有意差がない。スクワット動作での大腿四頭筋の可動域はトップからパラレルで閾値を迎え、それ以上しゃがんでも大腿四頭筋への刺激は増えにくい。

パラレルスクワットは一見パーシャルレンジに見えるが、大腿四頭筋にとってはフルレンジである。

ロングレンジパーシャルの筋肥大効果

現在パーシャルレップに二つの様式が存在する。ここではそれらの筋肥大効果について解説する。

可動域の内、筋繊維が引き伸ばされる局面のみを反復するテクニックをロングレンジパーシャルという。一方で筋繊維が短くなる局面のみを反復するのはショートレンジパーシャルという。

左がロングレンジパーシャルで、右がショートレンジパーシャル。

筋肥大はメカニカルテンションを増やすと達成されやすく、筋繊維への張力はストレッチ局面で強くなる。また筋収縮と筋繊維動員の観点から、筋収縮を爆発的に行いストレッチに時間をかけること、1セットでの綿花にかるテンションを最大化するうえで効率的である。

以上のことを考えると、筋収縮の時間を少なくしストレッチ局面を抽出するロングレンジパーシャルは、筋肥大において効果的と考えられる。

ロングレンジパーシャルをフルレンジでの筋肥大効果を比較した研究を示す。

パーシャルレンジとフルレンジでの腓腹筋筋肥大の比較を行った研究では、14歳の若年女性をFULLROM群(かかとの角度-25度から25度)、INITIALROM群(-25度から0度)、FINALROM群(0度から25度)に分けて、8週間調査した。トレーニング種目はウエイトスタック式のレッグプレスで3セット15から20レップ、週3回行われた。

腓腹筋内側頭はINITIAL群がFULLROM及びFINALROM群と比較して優位に肥大した。腓腹筋外側頭はINITIALROM群がFINALROM群よりも優位に肥大したが、FULLROM群と有意差はなかった。

https://journals.lww.com/nsca-jscr/fulltext/2023/09000/greater_gastrocnemius_muscle_hypertrophy_after.3.aspx参照。

この研究から、ロングレンジパーシャルがフルレンジと同等の効果を持つとは断言できないが、ロングレンジパーシャルはフルレンジと比較しても大差ない筋肥大効果があると示唆される。また筋肥大という観点からは、ショートレンジパーシャルよりもロングレンジパーシャルの方が効果的である。

この研究では角度0度を、足と脛骨が垂直になるところと定義している。カーフレイズのピークトルクはこの定義では-10度付近であり、ロングレンジパーシャルの方がピークトルクに近い場所で可動域を制限したためフルレンジよりも筋肥大効果が高かった可能性もある。

ロングレンジパーシャルとフルレンジに関するメタアナリシスを示す。

可動域が筋肥大、筋力、パフォーマンス、パワー、体脂肪に与える影響を調査したメタアナリシスでは、フルレンジとパーシャルレンジでの各項目に与える結果に違いは見られるが、それは小さい範囲に収まると結論付けられた。

https://journal.iusca.org/index.php/Journal/article/view/182参照。

パーシャルレンジとフルレンジでの結果の差はわずかであったが、全体的にフルレンジに有利な傾向があるため、トレーニングのデフォルトがフルレンジであることは変わらない。

ショートレンジパーシャルとロングレンジパーシャルと比較すると、後者の方が筋肥大効果が高いという主張には一貫性がある。外側広筋やその他高筋群、ハムストリングス、上腕三頭筋等を対象とした研究で同様の結果が報告されている。

ロングレンジパーシャルがフルレンジよりも筋肥大効果が高くなるのは、前者が後者よりも筋肉のストレッチが長い場合と考えられる。例えばスクワットやカーフレイズなどは、トップからボトムにかけて筋肉への負荷が高くなるため、ロングレンジパーシャルが有効になる可能性が高い。一方でサイドレイズやプルアップなどはボトムからトップにかけて筋肉への負荷が高くなるので、ロングレンジパーシャルよりもフルレンジの方が有効になる可能性が高い。

パーシャルレンジの使い方

パーシャルレンジかフルレンジかという二元論で語る問題ではない。両方の良いところを取り入れていくことが大切だ。

まず基本的にはフルレンジである。フルレンジとロングレンジパーシャルでの筋肥大効果ではわずかながらフルレンジの方が効果が高い傾向にある。また筋原線維肥大には全体的な筋力向上が重要である。さらに漸進的オーバーロードは年単位で行うことで、フルレンジとパーシャルレンジでの年単位での差はわからない。

フルレンジや収縮種目の良さは神経伝達にある。骨格筋への神経伝達は筋収縮によっておこる。メイン種目に入る前に収縮種目やショートレンジパーシャルを取り入れてマッスルマインドコネクションを高めることができる。

複数の研究やボディビルダーの経験から、ストレッチ局面での刺激は骨格筋の遠位部の肥大、収縮局面での刺激は骨格筋の近位部の肥大に効果的であると示唆される。例えばケーブルリアレイズは三角筋後部の遠位部、リアシュラッグは三角筋後部の近位といった具合や、レッグエクステンションのロングレンジパーシャルでは高筋群の膝寄り、ショートレンジパーシャルでは腰寄りといった具合である。

「対象筋の中でもここ!」といった意図があるならショートレンジパーシャルも候補に挙がる。

筆者はフルレンジを基本としつつ、フルレンジで限界まで迎えた時にロングレンジパーシャルを取り入れるのが好きである。フルレンジで限界まで行っても、ピークトルクを超えることはできないが余力は少しだけ残っている。この余力でロングレンジパーシャルを行い真に出し切る。

まとめ

今回はパーシャルレンジとフルレンジの筋肥大効果について解説していた。これらがどのようなものか理解でき、筋肥大においてどのような効果があるか理解できた。

パーシャルレンジもフルレンジも両方に特徴があるので、二元的に考えるのではなく、特徴を理解したうえで自分の環境や目的に合わせて取捨選択しよう。

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