睡眠のメカニズム
2025年現在睡眠についてはほとんど解明されていない。ここ数十年での睡眠研究で分かったことは、睡眠がレム睡眠とノンレム睡眠で構成されていること、ヒトが概日リズムを持っていること、ヒトは光で覚醒と睡眠状態を調整していること、程度である。例えば夢や睡眠の効果の一つである記憶定着についてのメカニズムはほとんどわかっていない。
我々は睡眠に明確な存在理由を与えることができていない。この記事では、睡眠の目的を疲労回復とする。そのうえでこれらを最適化する戦略と施策を解説する。
これから睡眠についてわかっていることを解説し、それらと筆者の経験を基に睡眠戦略及び施策を練る。
睡眠時間(量的)
睡眠時間確保
健康な大学生10名を被験者に、最初の3日間10時間睡眠、その後5時間を5時間睡眠を与え、2回目の10時間睡眠と、7回目の5時間睡眠後に24時間にわたって15~30分間隔で血液が採取された。
1週間にわたる1晩5時間の睡眠制限により、日中のテストステロン値が10~15%低下した。一方でコルチゾールに関して有意差はなかった。
8時間睡眠と4時間睡眠でのコルチゾール分泌の差を比較した研究では、4時間睡眠2日目には1日目と比較してコルチゾールが37%上昇した。
睡眠時間は少なくとも5時間以上は確保する必要がある。レム睡眠とノンレム睡眠が90分間隔で起こることから、6時間から9時間の睡眠が推奨できる。
現在疲労回復のためには睡眠に占めるノンレム睡眠を増やすことが重要といわれている。そのために、睡眠時間を多くする方法(量的)と、睡眠時間に占めるノンレム睡眠の割合を多くする方法(質的)の二つがある。睡眠時間を確保するのは量的施策である。
睡眠時間の固定
視床下部から放出されたゴナトロピン放出ホルモン(GnRH)が下垂体前葉から放出される黄体形成ホルモン(LH)分泌を刺激、LHがライディッヒ細胞を刺激しテストステロン生合成を促進するという流れがあり、HPG軸と呼ぶ。
HPG軸はサーガディアンリズムの影響を受けやすく、睡眠時間がずれることで機能が低下するといわれている。
サーガディアンリズムはヒトの体内に存在する時計のような機構で、脳内の視床下部の視交叉上核に存在し25時間を基準にしている。朝光を浴びることで経過時間がリセットされるイメージである。
サーガディアンリズムのずれは±20~30分以上の睡眠時間の変化で起こるといわれている。毎日の睡眠時間を固定化することで、サーガディアンリズムを正常に保ち、HPG軸の機能を正常に保つ。
月並みであるがアラームを設定すると良い。また一日の始まりを起床時ではなく寝る前とみなし行動するのも良い。寝る前から次の日の寝るまでの24時間を一日とする。これは意識的な方法であるが、こうすることで寝ないと一日が始まらないことになり寝ないという選択肢を消すことができる。
松果体対策(量)
松果体概要
松果体とは、睡眠を調整するホルモンであるメラトニンを分泌する器官で脳に存在する。松果体は光をトリガーに睡眠と覚醒を切り替えるスイッチのとしての役割を持つ。
サーガディアンリズムは朝日を浴びることでリセットされるといったが、サーガディアンリズムと松果体は密接にかかわっている。松果体は光を感知することで、メラトニンの分泌を抑制する。日中ヒトが覚醒して行動できているのは、松果体が光を感知しメラトニン分泌を抑止したからだ。
メラトニンは覚醒後14~16時間後にサーガディアンリズムからの指令により松果体から分泌される。こうして身体が睡眠状態に移行しやすくなる。
メラトニン分泌は加齢に伴って減少していく。
メラトニンを摂取する。
松果体がヒトの睡眠と覚醒を調整するホルモンであること、調整が光で行われていることが分かった。睡眠時間を確保するためには、就寝が近くなるにつれて光を見ないようにする方法が考えられるが、最手っ取り早いのは直接メラトニンを摂取することである。
1ASD患者を対象にメラトニンを摂取させることで、総睡眠時間、入眠遅延、睡眠効率において有望な効果が示された。2メラトニン摂取は、入眠時間を短縮し、総睡眠時間を増加させることで、睡眠に貢献すると思われる。メラトニン自体に睡眠の質を高める効果はないが、睡眠時間が増えることで間接的に室に貢献する。またメラトニンの長期摂取による効果減少は見られない。
メラトニンは量的観点から睡眠に貢献する。メラトニンの継続的な摂取による効果減少は見られないが、大量摂取による副作用は報告されている。一日3㎎を寝る90分前に摂取することから始めそこから効果に合わせて摂取量を調整すると良い。
トリプトファン摂取
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%88%E3%83%8B%E3%83%B3より引用。
メラトニンは、アミノ酸の一つトリプトファンから4段階の酵素反応を経て合成される。そのため、トリプトファンを多く含むタンパク質を摂取したり、サプリメントとしてトリプトファンを摂取することも効果的である。これにより体内のメラトニン生成をブーストさせることができる。
トリプトファン摂取からメラトニン合成までに時間がかかること、またメラトニン分泌が覚醒後数十時間後であることを考えると、トリプトファン大量摂取は午前中に行うと良いだろう。
ブルーライトカット
光の中でも青色の光はサーガディアンリズムの調整に大きな影響を及ぼす。このブルーライトを放出する媒体にはパソコンやスマホがある。
就寝前にブルーライトを放出する媒体を見ないことが良い。筆者は就寝90分前にはパソコンやスマホの電源を切るようにしている。その流れでメラトニンを摂取すると、強制的に身体が睡眠モードに入るので、覚醒していられないのでお勧めだ。
代替え案としてはブルーライトカット眼鏡を採用することだ。3ブルーライト眼鏡を就寝前90分から装着することで、コントロール群と比較して睡眠の質が向上したことも報告されている。値段も高くはないので費用対効果は高い。
入眠環境(量&質)
寝具
寝具は覚醒時に蓄積した肉体的疲労を回復する際に重要になる。睡眠は脳の回復だけではなく骨格筋の疲労回復も行い、これは横になることで達成される。実際目を閉じなくても横になるだけで身体は回復する。眠れない日でも横になろう。
寝具選びの際意識することは脊椎を一直線にすることで、これには寝方と寝具の中でも枕とマットレスが関与する。
まず寝方について、背臥位(仰向け)を前提とする。伏臥位(うつ伏せ)と側臥位(横向き)は脊椎を一直線にしにくくお勧めしない。側臥位の場合は腰や足に枕を入れて高さ調整することができる側臥位専用の寝具もあるが本質的ではないので側臥位への矯正を勧める。
https://q4pt.com/new-blog/sleep-positions-for-back-and-neck-pain-a85f6/より引用。
睡眠時の理想は睡眠中首や肩が動かないことだ。睡眠中肩が上がり肩関節内旋動作が起こると枕が曲がり付随して首が曲がる、肩が元の位置に戻っても枕と首が元に戻らず睡眠の目的が阻害される。
このような事態を防ぐために、厚めの枕を使うと良い。集めの枕なら頭を保持できるからだ。形状記憶型の枕もお勧めである。またC型の枕を使ったり、抱き枕を腕と体幹の間にかますと肩腕が固定され睡眠中の方の動きを抑制できるのでお勧めである。
枕の高さは高すぎない方が良い。なぜなら頸椎が屈曲した状態になるからだ。またマットレスは固さが一定ではなく、体重の重い場所は固く、軽い場所は柔らかいものを選ぶと良い。こうすると脊椎を一直線にできる。
https://www.bestmatt.com/how-to-choose-the-best-pillow/より引用。
オーダーメイド寝具
ここまでの解説で個体差を考慮した寝具が最適であることが分かるが、そんな寝具は大量生産されていない。個人最適化された寝具という最適解を提供するのが、オーダーメイド寝具である。
オーダーメイド寝具の相場を確認したところ、枕は3~5万円、マットレスは20~30万円程度であった(2024年12月)。個人的には枕はかなり安いという印象であった。睡眠は人生の3分の1を占める要素であることを考えると、買い物としては高いがコスパは良い。
筆者は本格的にトレーニングをしている人や、健康に投資をしたい人にはオーダーメイド寝具の購入を勧める。筆者は近い将来オーダーメイド枕から購入するつもりなのでレビューも書く。
決して安い買い物ではないので慎重になる。まず各国を移住して生活や活動をしている人にとってはオーダーメイドマットレスは向いていないかもしれない。というのもマットレスを毎回国をまたいで移動させるなどめんどくさいからだ。しかし枕に感しては手荷物で移動できるので良い。
国外関係なく特定の地域に数年単位で定住する人にとってはオーダーメイド寝具は向いている。国内や海外でも一国を中心に活動する人であればオーダーメイド寝具は向いている。枕は手荷物でも良いし、マットレスは郵送してもらえばよい。
温度、明かり、静けさ
寝具以外の入眠環境には、温度、明かり、音がある。一つづつ簡単に解説する。
温度について、ヒトは深部対応が低い時に睡眠に移行しやすくなる。実際覚醒時と睡眠時では睡眠時の方が体温は1度ほど低い。
寝室の温度を18~20度に設定する。この範囲がもっともヒトが睡眠に移行しやすい温度になる。温度設定はエアコンで行うことがほとんどだが、エアコンのライトにも注意である。筆者は他の人と比べて些細なことに敏感なので、エアコンのライトでさえ気になって眠れなくなる。またエアコンのライトも光なので生理学的に睡眠を阻害すると考えられる。気にならないのなら問題ないが、気になるヒトはガムテープなりマスキングテープなりを貼ると良い。
たとえ目を閉じていたとしても、光が存在する場合それを松果体が感知して覚醒状態に移行してしまう。ヒトは皮膚からも光を感知するので、アイマスクは明かり対策として効果は低い。
対策として遮光カーテンを使用するのが多くの人にとって良い。ちなみに筆者がベストだと思う道具は雨戸である。遮光カーテンの場合カーテンの端と窓の端が完全につながらないので、少しだけ光が室内に入る余地がある。しかし雨戸の場合完全に光が遮断される。
https://osmo-edel.jp/column/rain-door-shutter-difference/より引用。
住んでいる建物に雨戸がついていたり、つけることができる場合は寝室だけでも使用する価値がある。
音については、耳栓を使って騒音レベルを40db以下に保つと良い。寝る時の騒音は外の犬も鳴き声とか、救急車のサイレンなどなので、30~40db軽減する能力のある耳栓を買うと良い。
筆者は先日使っていた耳栓が避けて使えなくなってしまった。筆者はエアコンの音や自分の心臓の鼓動でも寝つきが悪くなる人なので、耳栓の破壊は死活問題である。すぐに32db遮音の耳栓を購入した。
筆者のような音に敏感な人には耳栓を強くお勧めしたい。耳栓を使用する注意点としては目覚まし時計のアラーム音を大きくすることである。特に遮音能力が高い耳栓を使っている場合、アラーム音まで遮音してしまい寝過ごすということがある。
深部体温(質)
除波睡眠(Slow wave rem sleep)
ヒトの睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類が存在するが、それらは脳波によって分けられている。ノンレム睡眠の中でも特に脳波の周波数が低い時間が深い睡眠で、それはステージ3と4である。
除波睡眠とはこのステージ3と4の位置の睡眠を表す言葉で、除波睡眠は睡眠後3時間で最も多くなる。先では睡眠時間を確保することでノンレム睡眠の時間を増やす施策を解説したが、除波睡眠を増やすことは、質的にノンレム睡眠を増やす施策といえる。
除波睡眠を増やす戦略として、深部体温を低下させる戦略と、コルチゾールを低下させる戦略が考えられる。
深部体温
ヒトの体温は、皮膚体温と、脳や内臓内の温度を指す深部体温に分けられる。そしてヒトは睡眠前からゆっくりと深部体温を下げていく、これは睡眠による疲労回復の対象が脳であるから。パソコンをイメージしてほしい。パソコンを長時間使いすぎると内部パーツが熱を持ち正常に機能しなくなる。そのため電源を切り放熱する。
脳は睡眠時に温度を下げ次の覚醒時に清浄機能できるようにする。深部体温は熱分散によって温度を下げる。そのため深部体温は低下し皮膚体温は上昇するという現象が生じる。
ではどうやって深部体温を就寝前から下げるか、それはズバリ風呂に入ることである。就寝90分前から、40度前後のお湯を貼り15から30分入浴する。そうすると深部体温が上昇する。
深部体温を下げたいのになぜ温めるのか、と思ったかもしれないが、これは恒常性が理由である。ヒトは体温を一定に保とうとするので、風呂で温めた体温を下げようとし、結果通常よりも少し体温が下がったのちに通常の体温に戻る。このテクニックを利用して深部体温が下がり始めた時に寝ると、円滑に除波睡眠に移行させることができる。
コルチゾール低下
上は一日のコルチゾール分泌をグラフしたものである。覚醒につれてコルチゾール分泌が増加し、睡眠が近くなるにつれて低下することが分かる。この分泌様式から考えると、睡眠前にコルチゾール分泌を低下させる戦略が有効なことが分かる。コルチゾール自体が交感神経優位時に分泌するホルモンなので、血圧上昇や血糖値上昇といった作用を持ち睡眠と相性が悪いことが分かる。
具体的な施策としては、筆者の解説しているテストステロン最適化戦略を実施することが有効だ。というのも、コルチゾールを下げることを目的のための方法として採用しているからだ。
次に、筋力トレーニングはできるだけ就寝前には行わないこと。これは人の生活によるので全員が遵守できることではないが、時間を調整できるなら、就寝から6~10時間空けたタイミングにトレーニング時間を入れよう。
最後にGABAの摂取である。GABAは脳内の抑制氏の神経伝達物質である。GABAは末梢神経に存在する受容体と結合し、ノルアドレナリンの放出を抑制することで、身体を副交感神経優位にさせる。これによって血圧の低下等の作用を引き起こす。GABAは交感神経系のホルモンであるコルチゾール分泌も抑制すると考えられている。摂取する際は就寝90分前に100㎎の摂取から始めて様子を見る。
まとめ
疲労回復のための睡眠施策は以下:
①睡眠時間を6~9時間確保する。
②睡眠時間のズレを±20~30分に抑える。
③就寝90分前にメラトニンを3㎎~摂取する。
④朝食に多くのトリプトファンを摂取する。
⑤就寝90分前にブルーライトを遮断するorブルーライトカット眼鏡を装着する。
⑥自分に合った寝具を使う。
⑦遮光カーテンor雨戸を使用する。
⑧寝室の温度を18~20度に設定する。
⑨耳栓を使用し騒音レベルを40db以下にする。
⑩就寝90分前から40度前後の風呂に15から30分程度入る。
⑪就寝90分前にGABAを摂取する。
⑫就寝6~10時間前にはハードな筋力トレーニングをしない。
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参考文献
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