概要
合成経路
ヒトはビタミンDを、口若しくは皮膚から摂取する。ヒトの皮膚にはプレビタミンDの前駆体である7-デヒドロコレステロールが存在し、紫外線をトリガーにビタミンDが生成される。
一日のビタミンD推奨摂取量とされる5.5mcgを紫外線経由で生成する場合、那覇で8分、つくばで22分、札幌で76分の日光浴が必要あると報告された。実験日は12月の正午で、被験者は両手と顔を露出していた。
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2013/20130830/20130830.html参照。
こちらの研究から、紫外線経由のビタミンD合成は地域や季節、天気に依存することが分かる。紫外線による肌劣化や、日焼けによる炎症ということを考えると、体内でのビタミンD合成ではなく、食材及びサプリメントからビタミンDを摂取するのが賢明である。
食材から摂取されるビタミンDには、構造の異なるD2とD3が存在する。前者は植物由来で、後者は動物性由来である。両者は構造の一部が異なるがまとめてビタミンDと扱う。食材から摂取されたD2とD3は肝臓でシトクロムP450酵素を構成する酵素によって肝臓で水酸化される。水酸化されたビタミンDは腎臓にて活性型のビタミンDに変換される。
作用機序
ビタミンDは脂溶性のビタミンで、ビタミンD受容体(VDR)に結合することで作用を発揮する。VDRは各組織の核内に存在し、例えば骨組織の受容体に結合すると、カルシウム沈着を促進し骨の再構築作用を発揮する。
ビタミンD受容体は骨格筋と精巣にも存在しており、それらとビタミンDが結合することで、筋肥大に有効な作用を発揮すると考えられる。
作用
ここでは特に筋肥大に関係あると思われるビタミンDの作用を解説する。
骨
血清25-ヒドロキシビタミンD濃度と転倒リスクの関係を調査した研究では、転倒者は非転倒者と比較して血清25-ヒドロキシビタミンD濃度が低いことが報告された。
ビタミンD欠乏が転倒リスクを増加させた要因は、ビタミンDが骨組織と結合し骨の再構築がなされなかったからだろう。骨の強度が低くなると、高強度の運動が困難になり、これが筋力低下につながると考えられる。実際にビタミンD欠乏の女性に一日1000IUのビタミンDを摂取させることで上肢と下肢の筋力が増加したという報告もある。
精巣
VDRが精巣と精子に存在することが分かっており、ビタミンDが精子形成とテストステロン合成に関わる可能性が示唆されている。
2020年までの、ビタミンDと男性機能に関する研究をまとめたレビューを見て考察する。
ビタミンDと性ホルモン生成との関係を見つけることはできていない。ビタミンD欠乏がテストステロンの血中濃度の与える影響に統一性はない。ビタミンDが精子の運動性の改善に肯定的な効果を示す。
ビタミンDの欠乏はテストステロンの減少を引き起こす可能性はあるが、それは間接的要因である可能性が高い。
血中ビタミンD濃度の低下と、総テストステロンには相関関係があることが報告されている。
ビタミンDの欠乏が総テストステロンに影響を与え、ビタミンD摂取で正常化s他ことを報告する研究は複数存在するが、被験者が高齢だったり、被験者が肥満だったりと、研究デザインに異質性がある。上に挙げた研究の被験者は肥満男性で、ビタミンDというよりかは減量によってテストステロン濃度が増加した可能性が高い。
ビタミンDの受容体は精巣や精子にあるが、それはテストステロン合成というよりかは、精子形成の方面で作用する可能性が高い。実際複数の研究で血中ビタミンD濃度と精子の運動性、精子数に肯定的な関係があることが報告されている。
ビタミンDは精巣及び精子の受容体に結合するが、それはテストステロン合成よりかは精子形成の観点から作用を発揮する可能性が高い。
骨格筋
ビタミンDは骨格筋に受容体を持ち作用を発揮する。
ビタミンDサプリメント摂取群とプラセボ群で、筋力の変化を比較した研究では、ベンチプレス、ハンドグリップ、垂直とびでは筋力の増加に有意差が見られなかったが、大腿四頭筋では筋力の差に有意差が見られた。
また、血中ビタミンD濃度を正常にするためには、4~12週の期間2000IU以上のビタミンDを摂取することが推奨される。
この研究では、ビタミンDが骨格筋の筋力増加に寄与する可能性が示唆されている。ビタミンDは受容体と結合することで、組織でのカルシウム吸収を促進する。ビタミンDが骨格筋の受容体に結合したとき、骨格筋でのカルシウム吸収が促進され、筋収縮が普段よりも強く発揮できると考えられる。
ビタミンDは骨格筋に必要なカルシウムの吸収を促進し、トレーニング強度を高めることで筋肥大に貢献する。
こちらの研究ではビタミンDの摂取量についても考察されている。おおよそ2000~5000IUの摂取で骨格筋での作用を発揮で切ると考えられるが、ビタミンD受容体の数は骨格筋の量に依存するので、骨格筋が多い人に関しては10000IU程度採る必要があるだろう。
以下ではビタミンD欠乏が骨格筋内の脂肪蓄積を抑制することを示唆した研究を示す。
骨格筋内の間葉系前駆細胞にビタミンD受容体が発現することを発見し、ビタミンDが前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制する可能性を示唆。
間葉系前駆細胞とは、筋繊維間の隙間(間質)に存在する単核細胞で、脂肪細胞へ分化する可能性を持つ。ビタミンDが転写因子を制御することで、間葉系前駆細胞の脂肪細胞への分化を抑制するという結果が報告された。
この研究は高齢者のサルコペニア予防に寄与すると結論付けている。筆者はこの研究がボディビルにおけるカット戦略に応用できるのではないかと考察する。ビタミンDを摂取することで、増量中に間質に蓄積される脂肪組織を少なくすることができるのではないだろうか。
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-4-2.html?utm_source=chatgpt.comより引用。
まとめ
今回はビタミンDについて解説してきた。ビタミンDは皮膚から摂取することができるが、環境に左右される点と、紫外線への過剰な暴露によるデメリットを考えると、サプリメントを摂取するのが賢明である。
ビタミンDはテストステロン合成というよりかは精子形成に寄与する可能性が高く、骨格筋のカルシウム吸収を促進し、トレーニング強度を高める点で、筋肥大に貢献すると考えられる。
ビタミンDの摂取量は骨格筋に依存するため摂取量は2000IU~10000IUとなる。
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