はじめに
筋力トレーニングは身体の恒常性を一時的に破壊する行為であり、破壊された恒常性に筋肥大という形で身体は適応する。そして筋肥大を最大化するためには、筋力トレーニングで狙った部位の筋繊維すべてにメカニカルテンションをかけていくことが重要になってくる。
この記事では筋腱複合体について解説し、それをどうトレーニングに応用するかまで解説する。
筋腱複合体
弾性力
https://sports-science.ajinomoto.co.jp/thm07_joint-tendon/より引用。
骨格筋はそのまま骨に付着しているのではなく、腱を介して付着している。
骨格筋は外部の負荷に反応して収縮するという性質を持ち、腱は外部の負荷を蓄積し、伸ばされると強い力で短縮するという性質を持つ。腱の持つ性質を弾性力といい、「変形した物質体が、その変形の原因となった力を取り除くと、元の形や大きさに戻る能力」と定義される。
腱が元の位置まで戻る際に発揮される力が弾性力であり、弾性力にはフックの法則が適応される。
https://www.bio-meca.com/en/glomeca-3-hookes-law/より引用。フックの法則(F=-kx)を表した図。フックの法則とは、ばねの伸びは加えた力に比例するという法則である。 (F:弾性力の大きさ、k:ばね定数、x:ばねの変位)
ヒトの運動は、骨格筋の収縮だけでなく腱の弾性力も共同して達成されている。この骨格筋と腱の性質を合わせて筋腱複合作用といい、共同して運動を達成する骨格筋と腱を一つの構造とみる概念を筋腱複合体という。
筋力トレーニングへの応用
弾性力の利用と消失
上記で腱の持つ弾性力という性質とヒトの運動が筋腱複合体によって達成されることが分かった。ここでは腱の弾性力が利用される場面と、腱の弾性力を消失したい場面を考える、筋肥大を目的としたトレーニングでは後者が望ましい。
腱の弾性力は我々が思うよりも強く、腱の弾性力を利用することで骨格筋の収縮を少なくし大きな力発揮ができる。立位の状態からそのままジャンプする場合と、立位から深くしゃがみこんでその勢いのままジャンプする場合を比較すると、後者の方が高く飛べるはずである。これは加速度によって伸ばされた腱が元に戻る力が筋繊維の収縮に追加して発揮されたからである。
この腱の弾性力は絶対的な重量向上を目指すパワーリフティングや、アームレスリングといった競技だけでなくおおよそほとんどの競技で利用される。というのも腱の弾性力が運動に占める割合を高くすることで、骨格筋の疲労を少なくできたり、発揮される力の総合量を多くすることができるからである。
例えばアームレスラーは動作の最初に上腕屈筋群の筋肉を収縮させきってから、腱の弾性力を利用して相手を倒す。アームレスラーの動作中の上腕屈筋群は常に等尺性収縮であるといえる。こうすることで、相手の力が自分の腱を引き延ばし、骨格筋が発生させるよりも強い力を弾性力で発揮することができるのだ。
筋力トレーニングの目的が筋肥大の場合、他の競技トレーニングとは異なり骨格筋の力のみで運動を行いたい。つまり腱の弾性力を限りなく消失させて運動したい。というのも筋肥大のためには多くの筋繊維を動員して負荷を筋繊維に与えてたいからであり、腱の弾性力を使ってあげた負荷は筋繊維で仕事をせずに扱った負荷なので筋肥大効果は薄いのだ。
腱の弾性力を消失するためには
上の動画は世界的アームレスラーであるDevon Larrattの腕トレの一部と、トップボディビルダーのフィルヒースの上腕屈筋群のトレーニングである。両者はトレーニングをする目的が異なるので、同じ腕トレでも降ろし方や使う筋肉、テンポなどが異なることが分かる。
どのようにして腱の弾性力を消失するか、弾性力を消失するために腱の持つ性質を思い出そう。腱はフックの法則に従い、外部の負荷によって引き伸ばされると元に戻る性質がある。元に戻る際に発揮される力が弾性力である。
腱の性質から、腱は不随意的構造物であり形の変化は外部の負荷に依存している。一方で筋肉は随意的構造物である。フックの法則と腱の構造的特徴から、ボトムポジションにて骨格筋が等尺性収縮(骨格筋を固める動作)を行うと、腱がより引き伸ばされ腱の運動に占める割合が高くなる。逆にボトムポジションにて腱と骨格筋が同時に伸展すると、腱の伸展の程度が小さくなり腱の弾性力は少なくなる。
以上のことから、腱の弾性力を小さくする方法として、エキセントリック収縮を止めるように絶えない方が良い。感覚的に言うとエキセントリック収縮でグッ、グッと所々で止めない意識である。
https://www.youtube.com/watch?v=OjRIVlSj6YMより引用。IFBBプロボディビルダーのNick Walkerのネガティブ局面はこの絶妙なエキセントリック収縮であり、参考になる。
またボトムとトップで少しだけ動作を止めることも有効である。これは先で述べたジャンプの比較と同じことであり、ボトムとトップを素早く行うと発生する加速度を少なくし弾性力を消失させるというものである。
ボトムで0.3秒から0.5秒ほど停止し、腱の弾性力を消失させると筋腱複合体の動きを阻止し腱の弾性力を最小化できる。例えばベンチプレスでボトムで重りをバウンドさせると、身体の腱が強く引き延ばされ高い弾性力が発揮されるのだ。一方ボトムで重りの動きを止めてから重りを挙げると。運動の多くを骨格筋の収縮で行うことになる。発揮される力は後者の方が前者よりも小さいが、筋繊維の動員数は後者の方が多くなり、筋肥大トレーニングでは後者のような動きをすることが効果的である。
筋腱複合体と腱の弾性力の性質から考えると、エキセントリック収縮時を止めるように耐えない(過度な等尺性収縮を抑制する)ことと、ボトムとトップで0.5秒ほど動きを止めることが多くの筋繊維を運動に動員するうえで重要になってくる。
まとめ
ヒトの運動は骨格筋と腱の複合動作で達成されており、骨格筋と腱を一つの構造物と捉えるギア念を筋腱複合体という。
腱は付随的構造物で、弾性力によって力を発揮する。筋肥大を目的とした筋力トレーニングでは、腱の弾性力を消失することが求められる。そのためには、ボトムで0.5秒ほど静止すること、ネガティブを止めるように絶えないことが効果的である。
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