トレーニングテンポの最適化

はじめに

この記事では、トレーニングテンポの最適化を図る。トレーニングテンポを最適化することは、筋力トレーニングに再現性を持たせるうえで重要である。なぜなら、トレーニングごと条件が異なる場合、漸進的オーバーロードの実現が困難になるからだ。

例えば前回は9回で今回は12回のスクワットができたとしても、前回はポジティブ1秒ネガティブ4秒だが、今回はポジティブ2秒ネガティブ1秒とすると、これでは本当にオーバーロード出来たかどうかがわからない。また前回はフルスクワット100㎏を8回し、今回は10回できたとしても、それが後半5回パラレルなら、本当にオーバーロード出来たのかわからないし、それを10回と判断し重量を足していくと、ケガに繋がることは想像できる。

以上のことから、再現性高く、継続的にオーバーロードを達成していくうえでは、筋力トレーニングを構成する要素をある程度最適化することが重要になる。重量と回数、セット数に関しては他の記事で解説しているので、この記事ではトレーニングテンポ、つまり1レップの最適化を図る。そして最適化は、筋肥大に置いて効率的かどうかを基準としている。

ポジティブ局面

爆発的挙上

ポジティブ局面は爆発的に挙上することが効果的である。これは仕事率とサイズの原理が理由である。仕事率とサイズの原理については以下の記事で解説しているの参照してほしい。

具体的には0~1秒の範囲でポジティブ局面を行う。

例外としては収縮位で脊柱の伸展が起こる可能性のある種目に関しては、1~2秒程度の速度でポジティブ局面を行うと良い。なぜなら、爆発的挙上を意識しすぎると、脊柱を過度に進展させる可能性があるからだ。例えばバックエクステンションやデッドリフトなどのヒップヒンジ種目で、あまりにも速く上体を起こすと、腰椎付近を過伸展させケガに繋がる。ライイングレッグカールやスタンディングレッグカール、チェストサポートの無いローイングなども同様である。脊椎は屈曲角度と比較して伸展角度は小さい傾向にあり、腰椎の伸展角度は15度である。

以上のことから、脊柱の伸展が起こる可能性の低い種目では爆発的挙上が効果的である。

レンジ

仕事率を理由に、フルレンジで行うことが基本的である。しかし個人にとって特別な目的があり、それにある程度再現性が見込めるなら、レンジを制限することも検討される。

例えばパラレルスクワットとフルスクワットでは、大腿四頭筋の活動に有意差がない。もしあなたの目的が「脚を大きくする」ことであるならば、フルスクワットが目的に対してのフルレンジなのだが、「大腿四頭筋を狙う」ということであるならば、パラレルスクワットが目的に対してのフルレンジとなる。パラレルスクワットは見た目パーシャルレンジであるが、目的に対してはフルレンジである。

フルレンジとパーシャルレンジについてはこちらの記事で解説しているので参照してほしい。

ネガティブ局面

ボトム

腱の弾性力を理由に、ボトムは0.5秒ほど静止すると良い。腱の弾性力についてはこちらで詳述しているので参照してほしい。

ネガティブ>ポジティブ

ネガティブ局面とポジティブ局面での筋肥大効果に有意差はないと報告されている。

11人の被験者(年齢23.5±5.4歳、身長1.79±0.04m、体重79.1±6.4kg)を、2セット6回ネガティブを速くする群と、2セット3回ネガティブをゆっくりする群に分け、筋肥大効果を比較した。両者のTUTは同じである。

結果として筋肥大効果に有意差はなかった。

https://www.mdpi.com/2411-5142/10/1/4参照。

この研究からわかることは、TUTが同じである場合、エキセントリック収縮とコンセントリック収縮で筋肥大効果に差がないことである。1このことは他の研究でも報告されている。しかしエキセントリック収縮を高めた方が同等のレップでも多くのTUTを確保できることも報告されいている。

筋肥大を目的とする場合、ポジティブよりもネガティブ局面を重視するほうが効果的である。なぜなら、使用できるエネルギーを効率的に利用できるからである。

筋収縮にはカルシウムが必要なのだが、これはポジティブ局面で消費する。骨格筋が限界を迎えるにつれて筋小胞体からのカルシウムイオンの放出が阻害されることで筋収縮が阻害され限界を迎える。仮に筋収縮に必要なATPを100%とすると、ネガティブ局面でのATP消費はポジティブ局面の3割程度といわれている。

以上のことから、ネガティブ局面を増やした方が、利用できるエネルギーで多くの刺激を筋繊維に与えることができることが分かる。ただしネガティブを享受するためには筋収縮が必要なので、この点でもポジティブ局面をできるだけ速く行う(爆発的挙上)ことに意味が出てくる。

ネガティブ局面にかける時間

結論として、ネガティブに書ける時間は2~7秒の範囲が効果的といわれる。なぜなら、複数の研究で8秒以上のネガティブで筋肥大効果が鈍化することが報告されているからだ。

エキセントリック収縮の違いによる結果の比較を行った研究をまとめたシステマティックレビューを以下に示す。

エキセントリック収縮、コンセントリック収縮、1レップ内の筋活動持続時間(MAD)が、筋力、パワー、筋肥大に与える影響を分析したシステマティックレビューでは、トレーニング初心者である場合MADが14秒まで長くても筋肥大が可能であるが8秒を超えると筋肥大率が低下すること、トレーニング経験者の場合4~7秒のMADが適切であることが報告された。

https://journals.lww.com/nsca-scj/abstract/2022/10000/effect_of_repetition_duration_total_and_in.4.aspx参照。

この研究から、トレーニング経験に関わらず1レップにかけるべき時間が最大7~8秒までということが分かる。例えばポジティブに書ける時間を0~1秒とした場合、6~7秒のネガティブがかけられる最大といえる。逆にこれ以上のネガティブは筋肥大効率を低下させる可能性がある。

以上のことから、ネガティブは2~7秒の範囲に収めることが効果的である。この際ネガティブを受けることが目的になってしまってはいけない。なぜならネガティブを止めるように行うと腱の弾性力を多く使ってしまうからだ。

まとめ

今回はトレーニングテンポについて解説し、それの最適化を図った。

ポジティブ局面は、爆発的挙上が効果的である。これは仕事率とサイズの原理が理由である。基本的には0~1秒で行うと良いが、脊柱の伸展が起こる種目速度による過伸展を防止するために1~2秒の速度を推奨する。基本的にはフルレンジで動作を行うのが望ましいが、目的と再現性を確保できるなら、レンジを制限することも選択肢となる。

ネガティブ局面では、腱の弾性力を抑えるためにボトムで0.5秒静止し、筋肥大を最大化するために2~7秒かけることが効果的である。筋肥大効果においてポジティブ局面との有意差はないが、エネルギー効率の観点からネガティブを重視する方が有効とされる。ただし、ネガティブの時間が8秒を超えると効果が低下するため、適切な範囲内で行うことが重要である。

ちなみにこのテンポを遵守している例としてIFBBプロボディビルダーのNick Walkerがあげられる。彼のトレーニングテンポは万人にとって参考になるので一度見てみると良い。

参考文献

  1. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39652733/ ↩︎

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