はじめに
三角筋側部(以下サイドデルト)は肩峰に起始を持ち、上腕骨外側の三角筋粗面に停止する。肩関節の外転を担いサイドレイズなどで鍛えられる。起始部が前寄りなためやや前方でレイズ動作を行うと効果的である。
見た目に置いて最も重要なのはリアデルト。肩甲棘から三角筋粗面にかけて走行しアウトラインを形成する。次にフロントデルトが重要で正面やサイドからの輪郭やバイセプスポーズ時の印象を左右する。両者が発達することで肩に丸みが生まれ、審美的に評価されやすい。
サイドデルトは横方向の広がりには寄与するが、過剰な発達は四角い印象を与えるため優先度は低い。特に女性では僧帽筋の肥大が美しさを損なうためサイドレイズの必要性は低い。
負荷効率を上げるにはモーメントアームの概念が重要で、遠位で動作するほどトルクが増す。また、フリーウエイトでは僧帽筋が代償しやすいためケーブルやインクラインレイズなどで対象筋に負荷が逃げないフォームを選ぶことが有効である。
解剖学
ネッター解剖学アトラス原著第4版より引用。
サイドデルトは肩峰に起始を持ち、上腕骨中部外側の三角筋粗面に停止する。三角筋側部の主たる機能は肩関節の外転である。横にいる人にものを渡す動きや、まさにサイドレイズの動きが肩関節の外転である。
サイドデルトは腋窩神経に支配されている。腋窩神経は第5頸椎と第6頸椎からのびる。
サイドデルトの起始停止を見ると、サイドデルトは思ったよりも前についている。サイドレイズで腕を30度ほど前に出して行ったほうがサイドデルトを使いやすい理由は筋繊維の走行と合致するからだ。
三角筋が見た目に与える影響
リアデルトとフロントデルトの重要性
ボディビルや見た目を基準にすると、肩の筋肉で最も重要な部位はリアデルトである。
まずリアデルトは肩甲棘から三角筋粗面に起始停止を持つ。このことからリアデルトが肩を後ろから前に向かって覆うように付着していることが分かる。このためリアデルトこそが肩のアウトラインをつくる筋肉となる。
リアデルトが発達すると、正面と少し横から見た時の上半身のアウトラインが向上する。リアのアウトライン作用はバックポーズ以外のすべてのポーズで発揮される。
リアデルトについてはこの記事で解説している。
次に重要な部位はフロントデルトだ。なぜならフロントデルトは正面とサイドから見た時の大胸筋とのセパレーションと、バイセプスポーズをとった時のアウトラインを形成するからだ。
またフロントデルトとリアデルトが発達していくことで、肩が横だけでなく前後ろへと発達していく。つまり肩が丸く発達していく。基本的にヒトは四角形の肩よりも丸い型の方が美しいと考えるので、フロントデルトとリアデルトが重要になる。サイドデルトは横への発達には寄与するが丸さへの効果は少ない。
サイドデルトが見た目に与える影響
サイドデルトは肩の筋肉の中で最も優先度の低い筋肉である。なぜなら過剰な発達は丸い肩の作成を遠ざけるからだ。サイドデルトはあくまでもリアとフロントを補助するように丸い肩の作成に貢献する。
肩の発達に難儀しているヒトでサイドレイズばかりやっている人がいる。実際サイドレイズでだけでも肩は発達するのだが、つくられた肩は丸くなく四角形であり、美しいと判断されない。
サイドデルトを優先することには肩を四角くするほかにもデメリットが二つある。一つ目は種目に起因するものである。
サイドデルトを鍛える種目としてフリーウエイトのバイラテラルサイドレイズがあるが、あれは教科書通りに行うと刺激のほとんどが僧帽筋に吸収されてしまう。僧帽筋の発達自体は男性にとっては悪いことではないが、肩の発達が弱い場合には首周りだけが発達してしまい不格好になる。
二つ目はフロントの発達を妨げることである。解剖学の点でサイドデルトがサイドという割には結構前についていることを示した。実際ショルダープレスやバックプレスなどでサイドデルトはフロントデルトと共同して働くことが研究で報告されている。
そしてサイドデルトは羽状筋という性質からフロントデルトよりも筋量が高く維持しやすい。そのためサイドがフロントに先行して発達するとプレス系種目でサイドばかりが発達するという事態が発生する。これでは本来サイドよりも優先して発達させたいフロントの発達が遅れ丸い型がつくれなくなる。
サイドレイズのやり方を変えたり、フロントデルトしか使わないようなフォームつくりで二つのデメリットは回避することができる。前者については後述する。
女性とサイドデルトの関係
特に女性についてはサイドデルトを鍛える必要はないと考える。理由は女性は男性よりも発達させる部位を厳選する必要があるからだ。
男性の場合は基本的にすべての部位を発達させても美しさが損なわれることは少ない(逆を言うとすべての部位をある程度発達させないと評価されない=女性よりも時間がかかる)。しかし女性の場合は美しさを目指すならかえって鍛えない方が良い部位がある。僧帽筋とサイドデルトはその具体例である。
まず肩の発達無しに僧帽筋が発達すると無駄な首周りのごつさが強調され女性としての美しさが消える。次に肩は丸い方が美しいと判断されるのでサイドばかりが発達した四角い型は低い評価を受ける。
肩は四角くなるし僧帽筋は無駄に大きくなるので、女性にとってサイドデルト特にサイドレイズは必要ない。
まとめ
肩の印象を決定づけるのはフロントとリアの発達である。この二点がしっかりしていれば前面、側面、後面が発達し肩に自然な丸みと厚みが生まれる。逆にサイドばかりが発達しても横に張り出すだけの四角い肩」になる。リアとフロントを優先的に鍛えて、サイドはやらないかやるとしても週に1回くらいで構わない。
特に女性にとっては、サイドを鍛えることはリスクしかない。僧帽筋が不自然に盛り上がり、肩幅だけが強調されるようなシルエットになることで、女性としての美しさが損なわれる。
サイドデルトの鍛え方
ローテーターカフ
サイドデルトに関係なく上半身のトレーニングに共通することであるが、メインセットに入る前にローテーターカフのウォームアップを行う。これはケガを防止するとともにメインセットでの対象筋への負荷を高めるためである。
ローテーターカフについてはこの記事を参照してほしい。
モーメントアーム
モーメントアームとは、回転軸(支点)から力の作用点におろした垂直との間の距離である。そして、トルクとは、回転軸にかかる総負荷であり、モーメントアームと作用点の力の積で表せられる。多くの人が、レンチを使ってねじやボルトを締めようとした際に、レンチとねじの距離が遠いところを握って締めたほうがそうでないほうより少ない力で締めることができたという経験しているはずだ。
モーメントアームとトルクの概念を三角筋側部の代表的トレーニングであるサイドレイズに応用してみよう。サイドレイズの動作にて、回転軸(支点)は肩関節、三角筋粗面に付着する腱が力点、ダンベルを持つ点が作用点となる。モーメントアームはダンベルと回転軸の距離である。
ダンベルの重さが5㎏、上腕と前腕の合計の長さを70㎝とする。腕を床と水平まで上げた際は、モーメントアームは70㎝で、トルクは350となる。腕を半分程度しか上げないと、モーメントアームは35㎝程度になり、トルクは175となる。同じ負荷でも、モーメントアームが長いほど、三角筋側部への負荷が高いことが分かる。
高重量でのサイドレイズを行う際、重さに肘関節が耐えられず、前腕と上腕が曲がってしまうことが多い。高重量のサイドレイズは、肘関節が屈曲した状態で行うため、モーメントアームが短くなる。さらに、腕を床と平行にまで上げることも困難になる。仮に前腕と上腕の合計を70㎝、上腕を35㎝とした場合、肘を曲げた20㎏のサイドレイズは、肘を曲げない10㎏のサイドレイズと、三角筋側部にかかる総負荷はほぼ同じである。また、20㎏のサイドレイズを床と平行に挙げられなかったり、前腕と上腕の角度を90度以上屈曲させたり、脊柱の側屈を利用して動作を行ったりすると、モーメントアームはさらに短くなり、結果として三角筋側部にかかる総負荷は10㎏のサイドレイズよりも少なくなるだろう。
このように、高重量が対象の筋肉にとって本当に高負荷であるとは必ずしも断言できないのだ。コンパウンド種目のように、動作が基本的に垂直運動であり、モーメントアームがほぼ変化しない種目であれば、重量や回数といった他の要素で負荷を増加させる必要があるが、サイドレイズの場合は重量よりも最初に距離の観点から負荷を増やす方法が賢明であると考えられる。サイドレイズでは、鎖骨と平行になる位置がもっとも負荷が発生するため、挙げきれる最大重量を選択することと、距離を遠くすることが重要である。
バイラテラルサイドレイズのやり方
筆者は基本的にネガティブ重視のトレーニングを推奨しているが、バイラテラルサイドレイズを含む、「フリーウエイトコントラクト種目」については推奨しない。なぜなら対象筋以外が使われるからだ。
サイドレイズの場合ネガティブ重視のトレーニングをすると僧帽筋に全て刺激を吸われる。これは肩甲骨と肩関節の可動域が原因である。
ヒトの関節は基本的に円軌道を描き、肩関節は特に大きな円軌道を描く。一方で肩甲骨は関節の可動域が肩関節よりも小さく、円軌道ではあるのだが動きは垂直に近い。サイドレイズでネガティブを耐える構図は肩甲骨で耐えるようになるので、より力の強い僧帽筋で負荷を耐えることになる。

コントラクト重視でネガティブ時は力を抜く。こうすると重量×加速度の積が、負荷として発生するためバイラテラルサイドレイズであってもサイドデルトに負荷がのる。加速度を駆使して負荷を載せるのだ。
バイラテラルサイドレイズサイドデルトに負荷を載せるにはこの方法は効果的であるが、筆者は1レップで与えられる刺激がネガティブ重視のトレーニングよりも少なくなるので好きではない。これについては後述する。
またこのテクニックは「フリーウエイトコントラクト種目」以外で使うとケガをするし効果が薄れる。例えばベンチプレスやスクワットでこれらを使うと使用重量が大きく積(=負荷)が高くなりすぎてケガをする。
サイドレイズの場合せいぜい20㎏程度であるし、サイドデルトは羽状筋なので断裂する危険性が低い。ちなみにアップライトロウはレイズ系種目であるが、バーベルを使うことと、手首を曲げることによって高重量を扱える。ただアップライトロウでこのテクニックは使えるが負荷にサイドデルト若しくはローテーターカフが負ける可能性が高くなる。
ケーブルサイドレイズorインクラインサイドレイズ
これらの種目の利点は、「そもそも動作に僧帽筋が関与しなくなる」点である。詳しくはユニラテラル種目の利点を参照してほしい。最大収縮であっても僧帽筋が関与しにくくなる。

これらの種目はテクニックとかそのようなこと関係なしに、フォームによってサイドデルトしか使えなくなっているのだ。効かせるとか狙うとかそういうことに注力するよりも、対象筋を使わざるを得ないフォームやフォーマットをつくることに注力したほうが筋肥大においては重要だろう。
ケーブルサイドレイズとインクラインサイドレイズは種目は違うが負荷のかかり方は同じである。

まとめ
本記事では三角筋側部(サイドデルト)の解剖学的特徴、見た目への影響、効果的なトレーニング方法、女性における注意点について解説した。
最後に内容をまとめる。
- サイドはやや前でレイズすると良い。
- 見た目に置いてはリアとフロントが重要。
- 過剰なサイドの発達は丸みを損なう。
- モーメントアームを重視して負荷を高める。
- サイドデルトの発達は女性には不要。
この記事の内容を理解することで、丸い肩の形成と効率的なトレーニング戦略の構築を実現することができる。
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