上腕三頭筋の解剖学とトレーニングを解説。

はじめに

上腕三頭筋は生別問わず重要な部位である。男性の場合ここが発達していると腕が大きく見える。女性の場合は二の腕が引き締まりメリハリのある腕をつくることができる。

例えばボディビルでは、規定ポーズのすべてで上腕三頭筋はアウトラインを構成する。ここが発達しているとポーズをとった時の迫力がすさまじくなり大きくかつ美しく見える。

この記事ではそんな上腕三頭筋について解説する。まず上腕三頭筋の解剖学を解説する。次に上腕三頭筋を狙うポピュラーな種目を解説する。

上腕三頭筋の解剖学

GRAY’S ANATOMY FOR STUDENTS Fourth Edition より編集。後面から見た上腕骨と肩甲骨と上腕三頭筋。Lateral head: 外側頭、Medial head: 内側頭、Long head: 長頭。

起始停止

上腕三頭筋は、外側頭、内側頭、長頭の3つの骨格筋から構成されている。主な機能は肘関節の伸展、まさに肘を伸ばす動作である。

3つの筋肉は肘頭(前腕の端のとがっているところ)に停止している。外側頭は上腕骨の肩関節に近い位置(近位)に起始を持ち、内側頭は外側頭よりも肘関節に近い位置(遠位)に起始を持つ。外側頭と内側頭は単関節筋であり、純粋に肘を伸ばす動作やモノを押す動作に関与する。

上腕三頭筋長頭は肩甲骨関節窩結節に起始を持っており、肩関節をまたいだ位置に起始を持つ二関節筋である。この独自性から、上腕三頭筋長頭は肘関節伸展だけでなく肩関節伸展の機能を持つ。ついでに肩関節内転(脇を閉じる動作)にも関与する。

上腕三頭筋は羽状筋である。

神経支配と手の形

上腕三頭筋の神経支配は少々複雑だが、ここでは橈骨神経に神経支配されていると考える。

https://xn--udruk51uy4d9ovrfkg1bb58e.biz/archives/2035より引用。

伸筋と屈筋は前腕の骨格筋を分類する際に主に使用される。伸筋とは関節を伸ばす際に収縮する骨格筋である。一方で屈筋とは関節を曲げる際に収縮する骨格筋である。この分類に基づくと、上腕三頭筋や広背筋などは伸筋、上腕二頭筋や大胸筋は屈筋と分類することができる。

小指、薬指、人差し指でバーを握ると伸筋群を、親指と人差し指側で握ると屈筋群を鍛えやすくなる。伸筋狙いなら小指球、屈筋狙いなら母指球側で押すと考えても良い。

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/hand_01より引用。

例えばディップスが分かりやすいが、親指と人差し指側に重心を移動させてあげると、自然と身体が倒れ屈筋である大胸筋を使いやすくなる。一方で小指、薬指、人差し指側に重心を移動指せると、身体が立ち上腕三頭筋が主動筋として作用しやすくなる。

伸筋である上腕三頭筋を鍛える際は、小指球側で押したり、少しだけ小指、薬指、人差し指側で握ると良いだろう。

強く握るか、やさしく握るか

肩関節に関与する骨格筋は、バーベルやダンベルを強く握り手に力が入りすぎると動きにくくなる。というのも手に力を入れると前腕の筋肉が収縮するので、肩関節をまたがない肘関節にある筋肉、腕の筋肉が使われやすくなるからである。強く握るか優しく握るかは、自身が肩関節も一緒に動かしたいかどうかによって決まる。

例えば肩関節をまたいでいる上腕三頭筋長頭や上腕二頭筋を狙いたいときはバーを強く握りすぎない方が良い。逆に上腕筋や外側頭内側頭を狙いたいときはしっかりとバーを握ると良い。

上腕三頭筋のトレーニング種目

ここまで上腕三頭筋の解剖学を解説した。ここからは上腕三頭筋を鍛える種目を解説する。

プレスダウン

プレスダウンは上腕三頭筋を鍛える代表的な種目である。フォームを微妙に変えることで、プレスダウンで上腕三頭筋の各頭にフォーカスして狙うことができる。

https://gym-mikolo.com/products/6pcs-cable-attachment-comboより引用。プレスダウンではアタッチメントを変えることで各頭を狙うフォームで力を出しやすくなったり、フォームを維持しやすくなったりする。

トレーニングの鍛え分けは主に神経的側面と力学的側面を基に行われる。前者については解剖学のところで触れた。握り方をメインに、目線やフォームによって神経伝達を変える。後者については、フォームを変えて重力に垂直な面(≒筋繊維)を変えることで行う。ここでは後者の側面からの鍛え分けを解説する。

外側頭は内側頭よりも肩関節に近い場所に起始を持ち、内側頭よりも上腕骨の外側に位置する。一方で内側頭は外側頭よりも肘関節に近い位置に起始を持ち上腕骨の内側に位置する。

内側頭を集中的に狙いたい場合は、純粋な曲げ伸ばしを行うと良い。シンプルに肘関節を支点に動かす。内側頭自体が肩関節付近まで位置する筋肉ではないので、レンジは上腕と前腕が垂直になるくらいの狭めで十分である。レンジが狭くなる代わりに高重量が扱えるので、レンジによる負荷の減少を重量で補う。内側頭を狙う場合はパワーが出しやすいストレートバーがおすすめである。

外側頭を集中的に鍛えたい場合は、ハの字に腕を開くように動作を行うとよい。こうすることで負荷に対して垂直な筋繊維が外側頭になり、外側頭の起始から停止までを動作に動員することができる。外側頭を狙うフォームはロープを使うことで容易になる。

長頭を狙うパターンは二つある。一つは肩関節を屈曲させるパターンである。これは後述するエクステンション系と同じ理屈である。オーバーヘッドプレスダウンという種目で、フリーウエイトと比較して肘への負担が少ないとされている。

長頭を狙うもう一つのパターンは、内側頭や外側頭にように負荷に垂直な筋繊維を変えるパターンである。長頭は外側頭や内側頭よりも内側に位置するため、脇を閉じた状態を維持してプレスダウンを行うと狙いやすい。この際、二関節筋である長頭を動員しやすくするために、肩関節も少し動員する。上腕骨の真ん中を支点にして動作イメージを持つとやりやすい。動作中は常に脇を閉じ、収縮時は手を内側に持っていくイメージで行うと良い。

このパターンの良い点は、肩の柔軟性に依存しない点がある。肩関節を屈曲させる形での長頭狙いの種目は、肩の柔軟性がない場合そもそもフォームがつくれない。根本的解決はそのようなフォームができるようにすることであるが、無理なことは無理である。長頭狙いのプレスダウンは肩の柔軟性が必要ないので、エクステンション系のフォームをつくれない骨格の人にとって有効になる。

このフォームを維持するためのアタッチメントはVバーが最適である。ロープでもできなくはないが、前腕が曲がってしまい、それをまっすぐにするために前腕が使われやすくなってしまう。Vバーの場合この懸念を払拭することができる。

ナロープレス

ナロープレスは、上腕三頭筋の中でも外側に位置する外側頭と内側頭にヘビーな刺激を入れることができる種目である。

ベンチプレスの手幅は、前腕と上腕がボトムで垂直になる幅を基準にワイドとナローがある。ワイドの場合は肩関節水平屈曲が多関節屈曲よりも優位になるスタンスで、大胸筋を狙う際に有効になる。一方ではナロースタンスは肩関節屈曲の方が肩関節水平屈曲よりも優位になる。

またベンチプレスは軌道の違いで下プレスと上プレスに分けられる。基本的には下プレスは手幅ワイド、上プレスは手幅ナローと相性が良い。というのも下プレスは大胸筋を使いやすく、上プレスでは三角筋前部を使いやすくなるからだ。

ベンチプレスには大きく分けて4つのフォームがあるといえる。ワイド上プレス、ワイド下プレス、ナロー上プレス、ナロー下プレスである。この中で上腕三頭筋の動員が大きくなるのはナロー上プレスとナロー下プレスである。

ナロー下プレスについて、手幅を狭くとると水平屈曲が制限される。この動作が制限された状態でバーを降ろすには、上腕と前腕を蝶番のように閉じないといけない。ナロー下プレスはJMプレスに似た軌道になる。

ナロー上プレスは肘関節伸展と肩関節屈曲が共同して動作が行われる。ナロー上プレスは上腕三頭筋だけでなく大胸筋上部や三角筋前部も刺激できるという特徴を持つ。

ナロー下プレスは軌道が安定しているスミスマシンで行うとやりやすい。特にスーパースミスマシンがある場合積極的に採用したい。スミスマシンがない場合はフリーウエイトでナロー上プレスをすると良い。また手首は寝かせない方が良い。というのも手首を寝かすと、手首を立てるよりも可動域が狭くなるからだ。リストストラップを手関節にまくと手首が安定する。

バーは小指球側で押すと良い。母指球側で握ると手関節撓屈の動作が起こりやすくなり、これは大胸筋の収縮を助長するからである。

エクステンション系種目

https://www.osobnitrenerpraha.com/treninky/nejlepsi-cviky-na-triceps/https://www.sci-sport.com/en/articles/Triceps-hypertrophy-impact-of-arm-position-225.phphttps://www.youtube.com/watch?v=p7cfheX-V1Mhttps://www.youtube.com/watch?v=aFw_O_tvZ7Uを基に筆者編集。

上腕三頭筋長頭を鍛えるトライセプスエクステンションには、ケーブルとフリーウエイト、ライインングかオーバーヘッドか、などといったバリエーションがある。

エクステンション系の良さは肩関節の屈曲具合にある。これによって他の種目よりも長頭をストレッチされた状態で刺激を入れることができる。上腕三頭筋長頭は二関節筋であり、二関節筋は両端が引き伸ばされることで大きな張力が発生する。エクステンション系種目は二関節筋を鍛える上で重要なこの要素を持つため効果的である。このことを示す研究を紹介する。

オーバーヘッドプレスダウンと通常のプレスダウンでの上腕三頭筋の筋肥大の違いを調査した研究では、21人の被験者が、片腕をオーバーヘッドプレスダウンで、もう片方の腕の通常のプレスダウンで鍛えた。調査期間は12週で、被験者は週2回、70%1RMの重量で10回5セットトレーニングを行った。

結果として、オーバーヘッドプレスダウンの方が、通常のプレスダウンよりも、長頭では1.5倍、外側頭と内側頭では1.4倍の筋肥大を達成した。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35819335/参照。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1080/17461391.2022.2100279より引用。オーバーヘッドプレスダウンと通常のプレスダウンのフォーム。

この研究から、上腕三頭筋長頭を鍛える上で肩関節を進展させることが効果的であること考えられる。

余談であるが、この研究の興味深いところは、長頭の筋肥大の違いではなく、外側頭と内側頭にも筋肥大の違いが表れたことである。

この実験の研究者は、外側頭と内側頭の筋肥大効果については両者に差がないと実験前に仮定していたが、実際にはそれらの骨格筋においても有意差が見られた。

外側頭と内側頭でも筋肥大効果が大きくなったのは正直分からない。というのも、これらの筋肉は単関節筋なので、肩関節の位置に関係なく同じ収縮伸展をするからである。二関節筋である上腕三頭筋長頭のようにプレスダウンより強い張力が発生したとも思えない。長頭と異なりストレッチ時に強い負荷がのったとも思えない。

このフォームで変わるのは最大負荷の発生位置である。もしストレッチで強い負荷がかかった方が筋肥大するなら、ニュートラルの方がオーバーヘッドよりストレッチ時に負荷がのっているため筋肥大するはずである。筆者は長頭も使いやすくなって、使用重量が増えやすく、重量による負荷が大きくなったからかなと考えている。

話がそれたが、エクステンション系種目他の種目よりも肩関節が屈曲した状態になるため、上腕三頭筋にストレッチを与えることができ効果的である。

キックバック

上腕三頭筋の構造は大腿四頭筋の構造と似ており、上腕三頭筋長頭は大腿直筋に似ている。大腿四頭筋のシシ―スクワットにあたる種目がエクステンション系種目で、レッグエクステンションにあたる種目がキックバックである。

キックバックで重要なことはレッグエクステンションで重要なことと同じである。すなわち最大収縮できる重量を選択することである。というのもキックバックは最大収縮で最大負荷ののる種目で、これが他の種目にはない独自性になるからだ。

またキックバックの特徴から、ダンベルで行う場合は最大収縮位が重力と垂直になる位置を通るようにしたい。この位置より下の場合、上腕三頭筋にかかる負荷は小さいので、ケーブルを利用したほうが効果的である。このためには上腕と重力が垂直になる位置を肩関節伸展で保持できる程度の重量を選択することが重要になる。

キックバックのバリエーションは様々あるが、筆者がお勧めしたいのがベンチにうつぶせになって行うインクラインキックバックである。というのもインクラインキックバックなら、上記で示したキックバックでの重要なポイントを抑えるのが容易になるからだ。身体を倒すタイプのキックバックでは、深いヒップヒンジができない場合は上腕を重力と垂直な位置まで上げることが難しくなる。

インクラインベンチの角度は30度付近がちょうどよい。0度の場合は動作中床にダンベルが当たってしまうし、45度以上だと上記のキックバックのポイントを抑えることが難しくなる。

キックバックには弱点があり、それはボトムでほとんど負荷がのらないことである。この弱点はダンベルサイドレイズやダンベルリアレイズ等の、フリーウエイトかつトップに行くにつれて負荷が大きくなる種目(コントラクション種目)に共通するものである。ちなみにレッグエクステンションやマシンサイドレイズはカムを搭載することで軌道を変え、この弱点を克服している。

爆発的に挙上しネガティブに時間をかけることが、メカニカルテンションの最大化に重要であるが、キックバックではネガティブを耐えても上腕三頭筋に負荷がほとんどのらないのでメカニカルテンションのかかる時間が少ない。

この弱点を克服する手段としては、ボトムでストンと力を抜くことである。こうすると加速度と重量の積が切り返しの局面で負荷として発生する。テンポとしては、爆発的挙上→範囲の半分くらいまでネガティブ意識→残りの範囲は力抜く→切り返しで爆発的挙上、となる。こうすることで弱点を克服できる。

まとめ

この記事では、上腕三頭筋の解剖学とトレーニング種目について解説した。

上腕三頭筋は単関節筋である外側頭及び内側頭と、二関節筋である上腕三頭筋長頭から構成される。上腕三頭筋は伸筋なので、手の小母指あたりでバーを押すと刺激を入れやすい。バーを握りしめの強さで上腕三頭筋の動きが調整される。

上腕三頭筋を狙う種目は多くあるが、それぞれに独自性があり、フォームや意識を変えることで自分の狙いたい部位に刺激を入れることができる。

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