はじめに
この記事では、三角筋の中でも三角筋後部(以下リアデルト。)について解説する。
三角筋は見た目に置いて重要な筋肉である。なぜなら三角筋は上半身のアウトラインを構成する役割があるからだ。
そして三角筋の役割をアウトライン形成とするなら、三角筋の中でもリアデルトが重要である。なぜならリアデルトは肩の後面から前面にかけて肩を覆うように付着しているからだ。
上の写真は2002年ミスオリンピアのレンダマーレ―である。この画像を見ると、三角筋のアウトラインの多くがリアデルトによりつくられていることがわかる。
リアデルトは解剖学的な特徴から、アウトラインを構成するうえで重要な筋肉であるといえる。
この記事では、三角筋の中でもリアデルトに特化して解説する。まずリアデルトの解剖学を解説し、肩の動きについて解説する、最後にリアデルトの狙い方とトレーニング種目を解説する。
三角筋後部の解剖学
起始停止
三角筋は三角筋前部、側部、後部から構成される。三角筋前部は鎖骨の遠位部3分の1に、三角筋側部は肩峰に、そして三角筋後部は肩甲棘に起始持つ。三角筋の各繊維は全て三角筋粗面に停止する。
起始停止を知ったうえで先に挙げたレンダマーレ―の画像を見ると、三角筋側部が意外と身体前面に位置することと、リアデルトが後面から前面に向かって三角筋を覆うようにして付着していることが分かる。
ネッター解剖学アトラス原著第4版より引用。
機能
三角筋前部及び側部と、リアデルトの二つに分けることができる。なぜならそれらの骨格筋が動員される機能が異なるからだ。
三角筋の全繊維は肩関節外転の機能を持つ。これは全繊維が共通の停止部を持つからである。三角筋前部は肩関節屈曲、水平屈曲、内旋の機能を持ち、三角筋側部は肩関節外転の機能を持つ。一方で三角筋後部は、肩関節の伸展、水平伸展、外旋の機能を持つ。これは三角筋前部と逆の機能である。
ショルダープレスとサイドレイズでの三角筋の活動を比較した研究では、リアデルトはサイドレイズでは刺激されるが、ショルダープレスではほとんど刺激されないことが報告された。
以上のことから、三角筋は機能を理由に三角筋前部及び側部と、リアデルトに分けることができる。
三角筋前部及び側部はプレス動作で共同して動くが、三角筋後部はそうではない。リアデルトと同じ機能を持つ筋肉は広背筋や大円筋で、三角筋と筋膜でつながっている部位は僧帽筋であることを考えると、リアデルトはプレスではなくプルやロウで共同して動く筋肉で、肩というより背中の筋肉の一部と考えることができる。
リアデルトの狙い方
リアデルトを狙うことの難しさはアイソレートしにくい点にある。なぜなら、リアデルトと共同して働く骨格筋の出力はほとんどリアデルトよりも大きいからだ。
リアデルトは背中の筋肉の一部と考えることができ、例えばローイング動作で刺激を入れようとすると菱形筋や僧帽筋が関与するし、プル動作で刺激を入れようとすると大円筋や広背筋、場合によっては上腕三頭筋が関与する。そして動きに関与する筋肉の力は大抵リアデルトよりも強い。
以上のことから、リアデルトを狙うことの難しさはアイソレートしにくさにあるといえる。おのため以下では協働する骨格筋の動員を少なくするという方法を主として、リアデルトを狙う方法解説する。解説するすべての情報があなたの骨格や環境に合致するとは限らないので、方法を理解したうえで取捨選択してほしい。
軌道
ヒトの関節は基本的に円軌道を描き、肩関節は特に大きな円軌道を描く。一方で肩甲骨は関節の可動域が肩関節よりも小さく、円軌道ではあるのだが動きは垂直に近い。

以上のことから、三角筋を狙う場合肩甲骨を動かさないように意識すると良い。具体的には、肩を引いて動作を行うというよりかは、遠くにモノを持っていく感覚、人にモノを渡す感覚で動作を行うと良い。逆に引く感覚で行うと僧帽筋や菱形筋、広背筋を使いやすくなる。
ちなみにどれだけ意識しても肩と肩甲骨は共同して動くようにできている。肩関節外転や伸展を完遂しようとすると上方回旋や内転が必要になる。つまり三角筋の最大収縮は僧帽筋が関与しないと起こらない。これはヒトの骨格上仕方ないことで、究極のアイソレートは不可能である。
肩関節と肩甲骨の軌道の違いから、肩の種目ではバーベルよりもダンベルに優位性がある。というのもバーベルだと腕が固定されてしまうので動作が垂直軌道になりやすく、菱形筋や僧帽筋を使いやすくなるからだ。
また肩関節と肩甲骨の軌道の違いから、いかり肩のヒトの方がなで肩のヒトよりも肩が発達しやすい傾向にある。なぜならいかり肩のヒトの方が肩甲骨の柔軟性が低いからだ。いかり肩のヒトはプル動作やロー動作で肩甲骨が動きにくいので、大円筋や上腕筋、リアデルトで動作ができてしまう。一方でなで肩のヒトは肩甲骨の可動域が大きいので、菱形筋や僧帽筋、広背筋が発達しやすい。
https://www.gymtostage.com/blog/the-titan-of-bodybuilding-paul-dilletts-inspiring-journey-and-legacyより引用。
まとめると、肩関節と肩甲骨の軌道の違いから、三角筋を狙う場合にはバーベルよりもダンベルに有意性があり、ダンベルを遠くに持っていく感覚で動作を行うと良い。
フリーウエイトの欠点
フリーウエイトは、三角筋の機能を合わさってリアデルトを含む三角筋を鍛える上で相性が悪い。なぜならボトムで負荷がのらないからだ。
フリーウエイトは負荷の方向が一定で垂直方向である。例えばリアデルトを鍛えるポピュラーな種目としてダンベルリアレイズがあるが、この種目のボトムではリアデルトに負荷はほとんど乗っていない。これはサイドレイズやキックバックといったフリーウエイトかつコントラクション種目に共通する欠点である。

筋肥大を最適化するには、爆発的挙上とネガティブが重要になる。ダンベルリアレイズのボトムポジションは上の画像でいう0~45度にあたり、この範囲はダンベルを水平移動させているようなものだ。ダンベルリアレイズのボトムを耐えたところでリアデルトへの負荷は少なく、むしろこの範囲では僧帽筋で負荷を耐えることになる。
以上のことから、リアデルトを含む三角筋を狙う上で、フリーウエイトは相性が悪い。
この欠点を回避する方法としてはボトムで力を抜く方法がある。なぜなら加速度を負荷として利用することができるからだ。具体的には、爆発的挙上→可動域の半分くらいまでネガティブ→力を抜いて切り返し、というテンポで動作を行う。
このテクニックについてはこちらの記事でも触れているので参照してほしい。
ユニラテラル種目の利点
ユニラテラル種目(ワンハンド種目)は、バイラテラル種目(ツーハンド種目)よりも多くの筋繊維を最初から動員できるというメリットが存在する。
リアデルトに関してはこの理由のほかにもユニラテラル種目を採用するメリットがある。なぜならユニラテラル種目を採用することで負荷の方向を変えることができるからだ。
フリーウエイトの場合リアデルトに負荷を乗せにくく、僧帽筋や菱形筋を使いやすいことを述べたが、これは両腕で行った場合である。片腕で行った場合、可動域に占める肩甲骨の動きの割合が少なくなるので、テクニック無しにリアデルトに負荷を乗せることができる。

赤線が肩関節水平伸展の可動域で、青線が肩甲骨内転の可動域、そして黄色線が片腕種目かつ側臥位でフリーウエイトを扱った際の負荷の方向である。
ユニラテラル種目であればバイラテラル種目と比較して、可動域の多くで肩甲骨が関与しない。つまりストレッチ局面で僧帽筋や菱形筋が関与せず十分にネガティブをかけることができる。
以上のことから、ユニラテラル種目の採用は有効である。
例えばユニラテラル種目として、ベンチやマシンローイングに側臥位でもたれて行うローイングがある。この姿勢を保持したうえで上腕を遠くに持っていくと肩甲骨がほとんど関与しないことが分かる。この種目の場合そもそも肩甲骨の関与が少ないことや、重量オーバーロードのしやすさを考えて、前腕を伸ばさないフォームを勧める。
ユニラテラル種目の利点は負荷の方向を変えることで肩甲骨の関与を少なくできる点にある。そのため採用理由はケーブル種目と同じである。インクラインサイドレイズとケーブルリアレイズが同じ種目であることをイメージするとわかる。

肩甲骨外転
肩甲骨を外転させて動作することも有効である。なぜなら肩甲骨の関与を少なくできるからだ。
動作を行う前にあらかじめ肩甲骨を外転することで、僧帽筋や菱形筋が使われなくなる。実際に肩甲骨を外転させて動作を行うと、制限した筋肉が使われず動作が途中で止まるはずだ。その範囲がリアデルトで動作できる範囲である。
以上のことから、肩甲骨を外転させて動作することは有効である。このテクニックは前述した負荷の方向を変えることではなく、可動域を制限することでリアデルトをアイソレートさせるものである。
ちなみにこのテクニックはフリーウエイトバイラテラル種目とは相性が悪い。なぜならただでさえ可動域の少ない動作をさらに可動域を狭くするし、最も負荷のかかるトップポジションの可動域を制限するからである。

肩甲骨を外転させて動作を行うと、0度から60度付近の範囲に動作が制限されるはずだ。ダンベルリアレイズの場合、最も負荷が高くなる範囲を通過していないし、制限された範囲がリアデルトの動員が少ない範囲である。
このテクニックを最大限利用できるのはリアデルトフライマシンだろう。なぜならマシンであれば負荷の方向が円軌道なので、制限した可動域内全体に大きな負荷をかけることができるからだ。
https://www.primefitnessusa.com/products/hybrid-pec-rear-deltより引用。
以上のことから、肩甲骨外転のテクニックはマシンと併用することで効果を発揮する。
リアデルトを鍛えるトレーニング種目
ケーブルリアレイズ
ケーブルリアレイズを採用する理由は、フリーウエイトと異なり負荷の方向を変えることができる点にある。これによってストレッチ局面でリアデルトに刺激を入れやすくなる。ケーブルの高さ調整は目的によって異なってくる。例えば肩甲骨も一緒に動かしてあげたい場合は肩とケーブルの位置が一直線になる位置にすると良い。
基本的には、リアデルトの可動域を最大限にできる位置にケーブルを設定する。具体的には肘を身体の後ろにもっとも伸ばせる位置を探し、その位置のまま腕を上げた高さにケーブルを設定する。こうするとリアデルトの最大可動域に負荷を乗せることができる。
ケーブルリアレイズの欠点は体幹の保持が難しいことにある。またケーブルの長さによっては可動域が制限される可能性がある。筆者の通っていた市営ジムには空圧式のケーブルマシンしかなかったが、そのケーブルが短く、ケーブルリアレイズのトップまで長さが足りなかった。
バイラテラルのケーブルリアレイズも良いが、ワンハンドケーブルリアレイズもお勧めである。ケーブルの高さ設定やメリットはケーブルリアレイズを同じである。なぜならバイラテラル種目の欠点を補うことができるからだ。
ワンハンドで行う場合は体幹を使いがちという欠点があるが、ワンハンドの場合動作していない方の腕をマシンに充てることで姿勢保持が行える。これによって体幹を安定させることができる。またワンハンドケーブルリアレイズの場合ケーブルは短くても動作できる。
ワンハンド種目の欠点は時間がかかることだろう。これは正直どうしようもない。
フェイスプル
フェイスプルを採用する理由は、肩関節外旋動作が含まれる点にある。これによって共同して動く骨格筋を変化させることができる。
リアデルトは肩関節伸展や水平伸展に加えて肩関節外旋の動作も持つ。そしてこの動作を機能として持つ筋肉はリアデルトに加えて棘下筋と小円筋である。リアデルトと共同して動きやすい広背筋や大円筋、僧帽筋などは持たない機能なので、リアデルトをアイソレートさせるうえで外旋動作が動作に入っている点が有意に働く。
以上のことから、フェイスプルはリアデルトをアイソレートさせるうえで有効である。
フェイスプルの欠点はケーブルリアレイズと同様に体幹の保持が難しい点にある。斜め体制をつくったり、時間があればベンチを持ってくる等することで対策できる。
フェイスプルの動作はフリーウエイトでも再現可能であるがお勧めしない。なぜならフリーウエイトでの負荷のかけ方と小円筋と棘下筋の相性が悪いからである。
フリーウエイトの場合ボトムで力を抜き加速度を利用して負荷をかけるのだが、この時かかる負荷が小円筋や棘下筋といった力が弱く小さい筋肉にかかった場合、それらが負荷に耐えられずに断裂する可能性が高い。ケーブルでも同じ危険はあるが可能性は低い。
フェイスプルに限らず上半身のトレーニングに共通することだが、ローテーターカフのウォームアップを入念に行おう。面倒くさいがやっておこう。
フェイスプルを行う場合アタッチメントはロープが適している。ロープは長い方が可動域が取れるので良い。ダブルロープをシングルロープとして二つ使うのが理想である。ない場合はダブルロープを使うか、シングルハンドルをシングルロープとして使うやり方を勧める。
リアシュラッグ
https://www.betterbodyacademy.com/trainingshoulders/standing-rear-barbell-shrugsより引用。
リアシュラッグを採用する理由は、肩関節伸展の収縮位で負荷がのることである。前述したがリアデルトは大きな筋肉と共同して動くため収縮位でアイソレートさせることが難しい。しかしリアシュラッグはこの難点を克服できている。リアシュラッグでは菱形筋や僧帽筋が収縮しきっているので、動作に関与しにくい。
またリアシュラッグはリアデルトの中でも体幹よりの部位を鍛えることに適している。
リアシュラッグは腕を身体よりも後ろに位置した状態で行う。重りを挙げるのではなく後ろに持っていく、肘を挙げるイメージで行う。グリップはリバースグリップの方が肩甲骨挙上が制限されるのでお勧めである。
スミスマシンやバーベルでもできるが、柔軟性に問題があるヒトはEZバーやダンベルを使用すると良い。
まとめ
今回は三角筋の中でもリアデルトに特化して解説した。
リアデルトは三角筋の中でも後面から前面にかけて広がり、肩のアウトライン形成に大きく関わる。リアデルトは肩の伸展、水平伸展、外旋の機能があり、背中の筋肉と捉えることができる。そのためプル系やロウ系の動作で広背筋や大円筋、僧帽筋などと協働するため、アイソレートが困難である。
肩関節と肩甲骨の動きの違いから、三角筋を狙うならバーベルよりもダンベルの方が適しており、遠くに物を渡すような動作を意識すると良い。また、フリーウエイトではボトムでの負荷が弱く、リアデルトへの刺激が不十分になりやすい。その対策として、加速度を活用したテクニックや、ケーブルやマシン、ユニラテラル種目を使ったトレーニングが推奨される。具体的なトレーニングとして、ケーブルリアレイズやリアデルトフライマシン、フェイスプル、リアシュラッグがある。
コメントを残す