はじめに
ヒトの肘を曲げる動作に関与する骨格筋は大きく3つある。上腕二頭筋と上腕筋、腕橈骨筋である。本記事ではこれら3つの骨格筋を上腕屈筋群と総称し、これらの解剖学とトレーニング種目を解説する。
まず上腕屈筋群の解剖学を解説する。次にこれらが使われやすい身体の形を解説し、どのようなフォームでどの筋肉が優先的に動員されるかを解説する。最後にこれらを踏まえたうえで代表的なトレーニング種目を解説する。
上腕屈筋群の解剖学
ネッター解剖学アトラス原著第4版及びGRAY’S ANATOMY FOR STUDENT Fourth editionより筆者編集。
上腕二頭筋
上腕二頭筋は長頭と短頭から構成され、上腕筋の上に位置する。上腕二頭筋長頭は肩甲骨の関節上結節に起始を持ち、上腕二頭筋短頭は長頭の内側にあり烏口突起に起始を持つ。両頭は起始部から下降し、途中で結合し橈骨粗面に停止する。
上腕二頭筋の主たる機能は肘関節屈曲であるが、上腕二頭筋の起始は肩甲骨にあり体幹に関係する骨格筋である。そのため肩関節の屈曲、肩関節水平内転の機能を持つ。また橈骨に停止するため手関節回外の機能を持つ。上腕二頭筋が収縮することで手関節が外側に回転する。
上腕筋
https://www.sci-sport.com/en/articles/Follow-up-your-progress-using-a-technique-to-measure-the-muscle-cross-sectional-area-019.phpより引用。上腕骨周りの骨格筋の断面図。
上腕筋は上腕骨前面に起始を持ち、尺骨粗面に停止を持つ。上腕筋は肩関節をまたいでおらず、橈骨ではなく尺骨に停止を持つため機能は肘関節屈曲のみである。基本的に上腕筋は肘が曲がるときはいつも収縮する。
上腕筋と上腕二頭筋の筋体積はほぼ同じである。
力こぶのトレーニングといえば上腕二頭筋ばかりに目が行きがちであるが、上腕筋も忘れられない。上腕筋は上腕二頭筋と同等の筋体積を持つだけでなく、上腕二頭筋の深層に位置し、発達することで上腕二頭筋を持ち上げ上腕屈筋群のボリューム増加させる役割がある。
むしろ同等の筋肥大であっても、上腕二頭筋よりも上腕筋の方が腕を大きく見せる効果が高い。上の上腕骨の写真を見てもらうとわかるが、上腕筋の方が上腕二頭筋よりも狭い範囲に筋繊維が分布していることが分かる。例えば縦横5mの土地と、縦横10mの土地があり、両方が100㎥の建物をつくる場合、前者の方が高くなることが分かる。上腕筋は上腕二頭筋よりも筋繊維の分布が狭いため、おなじ筋肥大でも高さを得やすく、腕の大きさに貢献しやすい。
ボディビルディングでは上腕筋はボリュームの増加だけではなく腕のディテールにも貢献する。上腕筋の発達が十分な人が体脂肪率10%を切ってくると、上腕筋と上腕二頭筋のセパレーションが出てくる。上腕筋が発達していないと絞り切った時に腕のディティールがぼやける。これはサイドポーズやマスキュラーで見ることができる。
解剖学的に上腕筋は手関節が回内するほど運動に動員されやすい。基本的なカール動作は掌が上を向いた状態、つまり手関節回外の状態で行われる。このような運動でも上腕筋は動員されるが、この際上腕二頭筋と負荷を分け合う形になり、上腕筋の運動に占める動員率は少ない。手関節が回内するほど、上腕二頭筋が伸び運動への関与が少なくなり、上腕筋の動員率が高くなる。
個人的は手関節回内位で高重量をかけることは難しいので、手関節回外位で上腕二頭筋の関与を少なくするフォームをとることが手関節回内位より良いのではと考える。これに関してはどちらが良いか各人で判断してほしい。
腕橈骨筋
腕橈骨筋は、上腕骨の外側顆上陵と外側筋間中隔に起始を持ち、橈骨の茎状突起に停止する。腕橈骨筋は上腕筋と同様に肩関節をまたいでおらず、肩関節には関与しない。しかし、橈骨に停止しているため、肘関節の屈曲だけでなく、回外位にある手関節を中間位に回内させる作用と、回内位にある手関節を中間位に回外させる作用を持つ。
腕橈骨筋は基本的に肘関節が屈曲する際には運動に動員されるが、上腕筋同様に腕橈骨筋が運動に動員されやすい条件が存在する。腕橈骨筋の作用から見て、手関節が中間位にある状態での肘関節屈曲時に、腕橈骨筋が最も動員される。
https://www.experttabletennis.com/palm-up-palm-down-loops/より引用。
上腕屈筋群鍛え分け
ここからは鍛え分けについて解説する。身体の形や握りを変えることでも上腕屈筋群の中でも特定の筋肉が使われやすい状況を作ることができる。自身の目的に合わせて情報を選択してほしい。
胸郭と肩甲骨
出典:GRAY’S ANATOMY FOR STUDENT Fourth editionよりRAY’S ANATOMY FOR STUDENT Fourth edition
上腕屈筋群は上腕二頭筋(二関節筋)と上腕筋及び腕橈骨筋(単関節筋)と分けることができる。これらを分けているのは肩関節の動きであり、肩関節は肩甲骨、胸郭と連動する。
カール動作を行うときに胸郭が開いた場合、それに伴い肩甲骨が挙上する、胸郭と肩甲骨が開くことで身体が開きながらカールをするので、僧帽筋と上腕筋で動作が行われる。
上腕二頭筋を狙う際には胸郭が開かないように固定することと、肩甲骨を安定させることが重要になる。これらが安定すると肘関節と肩関節の動作が安定し二関節筋である上腕二頭筋を刺激しやすくなる。
肩甲骨を安定させる方法として、ローテーターカフを活性化させる。筆者は上半身のトレーニングを行う際にローテーターカフのウォームアップを行うように何度も言うが、これはケガ防止のためだけでなく対象筋への負荷を高めるためでもある。ローテーターカフについては「ローテーターカフ(回旋筋腱板)の重要性と筋トレを解説。」で解説している。
また僧帽筋を活性化させておくことも肩甲骨安定に効果的である。ケーブルリアレイズやトラップレイズなどをウォームアップで行う。
胸郭が開きやすくなる要素は肩甲骨以外にもある。その一つが脊椎である。脊椎が伸展している場合それに胸郭が開きやすくなる。この傾向は骨盤が過度に前傾している人に多い。
やや骨盤を後傾させ肋骨と骨盤を近づけると、外腹斜筋が収縮し腰椎の伸展が抑えられる。それと同時に体幹部が安定し動作中にここがぐらつくことを防止する。骨盤を肋骨に近づけるイメージで、「ふー」ではなく「はっ」と息を吐くと外腹斜筋を収縮させ体幹を安定させやすい。
https://thewellnessdigest.com/internal-and-external-obliques-origin-insertion-action-and-innervation/より引用。External Oblique: 外腹斜筋、Internal Oblique: 内腹斜筋
胸郭の動きに関わる細かい要素として、他につま先、脚幅、目線、肩がある。目線を下に向ける(頸椎屈曲。しかし過度に屈曲する必要はない。) か上に向けるか、肩をすぼめるか開くか、脚幅を腰幅程度にするか肩幅程度にするか、つま先の向きをどうするかによって、胸郭の開閉が少しだけ変化する。以下に胸椎の位置とそれに関連する要素をまとめる。
上腕二頭筋 | 上腕筋、腕橈骨筋 | |
脚幅 | 腰幅(閉じる) | 腰幅から脚幅(開く) |
つま先 | まっすぐorやや内転 | やや外転 |
肩 | 閉じる | 開く |
目線 | やや下 | やや上 |
意識する中で優先度が高いのは脚幅とつま先である。肩と目線に関してはそれらを意識して限界まで追い込めなくなるなら気にしなくてよい。
握り
握りは神経伝達の観点から鍛え分けに貢献する。特に上腕筋や腕橈骨筋を狙い時に握りは大きく関係する。
腕橈骨筋は上腕屈筋群の中で唯一橈骨神経に神経支配されている骨格筋である。そのため親指、人差し指側で握るようにすると、腕橈骨筋を含む橈骨神経に神経支配されている骨格筋群が動員されやすくなる。
上腕筋は筋皮神経に神経支配されており尺骨に停止を持つ。そのため小指、人差し指、中指側で握るようにすると、尺骨神経に神経支配されている骨格筋群を動員しやすくなり、尺骨神経に停止を持つ上腕筋を動員しやすくなる。
また握りの強さも関係する。バーベルやダンベルを強く握り手に力が入りすぎると肩関節に関与する筋肉は動きにくくなる。というのも手に力を入れると前腕の筋肉が収縮するので、肩関節をまたがない肘関節にある筋肉が使われやすくなるからだ。バーを強く握るか優しく握るかは、自身が肩関節も一緒に動かしたいかどうかによって決まる。
肩関節をまたいでいる上腕二頭筋を狙いたいときはバーベルやダンベルを優しく握る方が良いだろう。逆に上腕筋や腕橈骨筋を狙いたいときはしっかりとバーベルやダンベルを握ると良い。
力学的観点からの鍛え分け
力学的観点からの鍛え分けは、負荷に対して垂直な筋繊維を変えることで行われる。
手関節を中間位に持ってくると、腕橈骨筋が刺激されやすい。手関節回外位で脇を開くと上腕二頭筋長頭が刺激されやすい。手関節回外位で脇を閉めると上腕二頭筋短頭が刺激されやすい。これはワンハンドで行うとやりやすい。
トレーニング種目①バーベルカール
ここからは上腕屈筋群各部位を狙う代表的な種目を解説する。各種目で触れるテクニックは類似種目で応用可能だ。まずは上腕二頭筋を狙う種目としてのバーベルカールを解説する。
バーベルカールは、前腕と地面が水平になる位置で最も負荷が発生する種目で、カール種目の中でも大きな力発揮ができる。
EZバーとストレートバーの使い分け
EZバーかストレートバーのどちらを選ぶかは、高重量での負荷を上腕二頭筋に与えたいか、低重量若しくは中重量で丁寧に上腕二頭筋に負荷を与えたいかによって変わる。両方にメリットがあるが、なぜこのような判断基準になるかを解説する。
ヒトには個体差が存在するが、何も重りを持たない状態で何も考えずにカール動作を行ってみると、おそらく多くのヒトの手は平行にならず逆ハの字で少し開いた状態になるはずだ。ストレートバーではなくEZバーで行う方が手にとって自然であり、高重量を扱う場合には安全と考えられる。
それだけではなく、手関節が回内すると、肩関節が内旋しやすくなり肩関節にとって高重量を扱いやすいポジションになる。肩関節が過度に外旋した状態は肩関節にとっては不安定な状態であり、この状態で高重量を扱うとケガをしやすい。これは肩関節外旋状態で行うペックフライで高負荷をかけにくいことを想像するとわかる。
ストレートバーと比較してEZバーの方が手関節が回内しており、それに伴って肩関節がストレートバーの際と比較して内旋していること、手にとって自然であることから、EZバーは高重量を扱うことができる。またEZバーで行うバーベルカールは、チーティングで上腕二頭筋から負荷が逃げにくいというメリットがある。これは肩関節が内旋しており肋骨が開きにくいからである。以上のことから、チーティングも駆使しつつ高重量で上腕二頭筋に負荷を与える際にはEZバーがストレートバーより効果的である。
ストレートバーでのバーベルカールは、手関節がEZバーより回外しており、それに伴い肩関節がEZバーを扱う際より外旋しているため、高重量を扱うと手首や肩をケガする可能性が高い。一方で上腕二頭筋の作用である手関節回外は、EZバーよりストレートバーの方が強くなるため、チーティングなどを使わずに軽い重量で丁寧に動作を行う際にはストレートバーは効果的である。上腕二頭筋、特に短頭に負荷がのっている感覚はストレートバーの方がEZバーより得やすい。
ストレートバーでは手関節がEZバーより回外位にあるため肩関節が外旋位にあり、チーティングを行うと肋骨が開きやすく上腕二頭筋から負荷が逃げやすい。ストレートバーでのバーベルカールは、チーティングを極力使わず、丁寧な動作で上腕二頭筋に負荷を与える際に有効であるといえる。
バーベルカールの身体の形
バーベルカールで上腕二頭筋を特に狙う際は、肋骨と骨盤を閉じ胸郭は開かない形をつくる。目線はやや下にして肩はすぼめ、脚幅を腰幅程度にしてつま先はまっすぐにする。
握りについて、バーベルカールでは基本的に上腕二頭筋長頭と短頭の両頭に負荷がのるが、神経伝達の観点から、小指側で握ると上腕二頭筋短頭、親指側で握ると上腕二頭筋長頭の動員率が高くなると考えられる。ストレートバーではより小指側で握りやすいため短頭を狙いやすい。バーを握る位置は手の真ん中で掌に載せる感覚で握る。手首は返さずまっすぐ握る。そして過度に握りこまない方が良い。
カール種目とチーティング
効果的なチーティングとは、自力では上げることができない重量のコンセントリック収縮の局面を省略し、通常では扱えないエキセントリック収縮を骨格筋に与えるテクニックであり、正しく利用すればとても有効なテクニックである。
ヒトの骨格筋はコンセントリック収縮よりもエキセントリック収縮の方が大きい力を発揮することができ、コンセントリック収縮ができない重量であっても、エキセントリック収縮であれば扱うことができる。ストリクトにバーベルカールを行って、コンセントリック収縮ができなくなったところで、コンセントリック収縮できない範囲を反動やほかの骨格筋の力を利用して省略し、エキセントリック収縮を耐えることで、より強い負荷を上腕二頭筋に与えることができる。
ただバーベルカールでのチーティングはうまく利用しなければ、負荷をただ少なくし、さらに腰やほかの部位のケガを誘発するだけなので、上級者向けのテクニックである。
カール種目での肩関節の動き
上腕二頭筋の二関節筋という特徴から、肩関節屈曲の動作に占める割合が多くなりすぎると上腕二頭筋への刺激は減る。二関節筋はゴムに例えるとわかりやすい。ゴムは片方が固定されることでもう片方が進展した場合張力が発生し収縮する。しかしゴムの両端を真ん中に移動させた際には、ゴムはたわんでしまい張力は発生せずゴムに傷はつかない。
肩関節屈曲と肘関節屈曲が同時に行われると、骨格筋の両端から筋繊維が収縮することになり、このような状況では骨格筋は力を発揮しにくい。
だからといって肩関節を全く動かさないでカールを行うと動作のほとんどが上腕筋で行われる。上腕二頭筋を収縮するためには肩関節が少し屈曲する必要があるのだ。肘関節屈曲の結果として肩関節が屈曲すると良い。力こぶをつくるイメージでカールを行うのがおすすめである。こうすると肩関節は屈曲する必要があるし、全体に占めるそれの割合は小さい。
上腕二頭筋を狙うときは力こぶをつくる。上腕筋を狙うときは純粋に肘を曲げる。この感覚は上腕二頭筋と上腕筋を鍛える際に意識しておくと良い。
トレーニング種目②チンアップ
上腕筋を鍛える際にお勧めな種目がチンアップである。チンアップはプルアップのバリエーションの一つで順手ではなく逆手でプルアップを行うのでリバースグリッププルアップだとか、逆手懸垂とも呼ばれる。
出典:フレデリック・ドラヴィエ|目で見る筋力トレーニングの解剖学 p60
チンアップは広背筋狙いの種目として筋トレで採用されることもあるが、この記事では背中ではなく腕の種目としてのチンアップを解説する。
上腕屈筋群のためのチンアップ
バーベルカールやコンセントレーションカール、プリーチャーカールといった上腕二頭筋のトレーニングを比較した研究では、チンアップはバーベルカールに勝るとも劣らない上腕二頭筋の種目であると結論付けられた。
背中の様々な種目での上腕二頭筋、広背筋、僧帽筋中部下部の筋活動を比較した調査では、チンアップで加重を行うと、広背筋よりも上腕二頭筋の筋活動の増加幅が大きかった。
https://t-nation.com/t/inside-the-muscles-best-back-and-biceps-exercises/284621参照。
これらの研究から、チンアップが上腕屈筋群の筋肥大に効果的であり、重量オーバーロードに適していると考えられる。
後者の調査では自重でのチンアップ、ワイドグリッププルアップ、順手プルアップと、40㎏チンアップ、30㎏のパラレルプルアップ、20㎏順手プルアップが行われている。自重の場合、この3種類の懸垂の筋活動に大きな差は見られないが、加重した際にチンアップとパラレルプルアップは順手プルアップよりも上腕屈筋群の活動が増加しやすく、順手プルアップは2つの懸垂よりも広背筋の活動が増加しやすかった。
以上のことから、チンアップとプルアップは動作に占める肘関節屈曲の割合が順手プルアップよりも多く、逆に順手プルアップは動作に占める肩関節伸展及び内転動作が多いこと、この違いは加重した際の筋活動の違いとして明らかになることが考えられる。腕を鍛えるチンアップと加重は相性が良いと考えることもできる。
チンアップは上腕二頭筋狙い?上腕筋狙い?
上記の研究のように、チンアップが上腕屈筋群の筋肥大に有効であることは理解できるが、解剖学の観点から考えると、チンアップは上腕二頭筋の種目ではなく上腕筋の種目と認識するほうが妥当である。チンアップで力こぶが大きくなったことは、上腕二頭筋ではなく上腕筋の肥大に起因する可能性が高い。これは二関節筋という上腕二頭筋の持つ特徴から考えられる。
チンアップは主に肩関節の伸展と肘関節の屈曲が同時に行われる複合関節種目である。チンアップでは上腕筋と共に肩関節伸展の作用を持つ広背筋と大円筋も鍛えることができる。
チンアップで肩関節伸展動作が起こっているときは肩関節側の上腕二頭筋が引き延ばされ、肘関節屈曲時には肘関節側の上腕二頭筋は縮まる。肘関節屈曲と肩関節伸展が同時に発生するチンアップでは二関節筋である上腕二頭筋への張力があまり発生しない。これは教科書通のスクワットで大腿直筋とハムストリングスが刺激されにくいことと同じである。
ではチンアップの肘関節屈曲動作はどの骨格筋がメインで担当しているのか。それは上腕筋と腕橈骨筋である。これらの骨格筋は肩関節をまたいでおらず、純粋に肘を曲げるときに作用する。特にチンアップは手関節が回外した状態で行うので上腕筋が使われやすいと考えられる。チンアップの動作では上腕二頭筋ではなく上腕筋が鍛えられやすく、チンアップによる力こぶの発達は主に上腕筋によるものである。
上腕筋のためのチンアップのコツ
理論上は胸郭を開き肩甲骨を挙げて行うと広背筋の動きが制限されるが、このフォームで高負荷をかけるとケガしやすい。チンアップでは胸郭は閉じすぎない程度で良い。
小指側で握り上腕筋への刺激を高める。バーを握る位置は手の真ん中で掌に載せる感覚で握り手首は返さない。上腕筋狙いと割り切るならバーをしっかりと握りこんだ方が良い。
意識できる余裕があるなら目線をやや上にして肩を広げ、つま先をやや外転させる。
上記の調査で高重量になるほど上腕屈筋群が活性化したこと、チンアップは複合関節種目であることから、チンアップは重量オーバーロードと相性が良い。具体的には自重で8回以上できるようになれば、加重してオーバーロードしていくと良い。6~10回できる範囲が相性が良い。
リバースカール
上腕筋を鍛える種目としてチンアップのほかにお勧めしたい種目がリバースカールである。
概要
リバースカールは、上腕二頭筋ではなく腕橈骨筋と上腕筋を刺激する種目である。
リバースカールでは上腕筋若しくは腕橈骨筋を動員させるため、胸郭少し開く、若しくは背筋を立てる身体の形をつくる。脚幅は肩幅程度に開きつま先を外に向ける。
小指側で握ると上腕筋が動員されるが、親指側、人差し指側で握ると腕橈骨筋が動員しやすくなる。
上腕筋を鍛える際には、EZバーがもっとも効果的であるといえる。次いでダンベルが効果的で、EZバーもダンベルもない場合にストレートバーを利用することを検討する。ストレートバーの方が手関節がより回外するので効果的であると思えるが、手が痛くなりやりにくいのだ。
腕の位置について、上腕二頭筋の持つ二関節筋の性質から考えると、あえて上腕二頭筋の動員率を少なくするために、腕を体幹よりやや後ろの位置にするとより上腕筋を効果的に鍛えることができると考えられる。体幹より腕を後ろに位置した状態で行うか、肘関節屈強時に腕を少し後ろに引くと、肩関節伸展が起こり上腕二頭筋への張力が減少するため、上腕筋をよりアイソレートできる。この種目はドラッグ(drag)カールと呼ばれる。
プリーチャー台を使うかどうか
リバースカールのバリエーションの一つに、リバースプリーチャーカールがある。リバースプリーチャーカールとリバースカールの違いはプリーチャー台を使うかどうかである。
プリーチャー台を使用することで、上腕二頭筋の作用である肩関節屈曲の動作をプリーチャー台が担うことになり、他のカールより肘関節屈曲動作がアイソレートされる。これにより上腕筋と腕橈骨筋を狙いやすくなる。
リバースカールは腕を後ろに引くことで上腕筋と腕橈骨筋に負荷を集中させることができ、リバースプリーチャーカールは肩関節屈曲をプリーチャー台が担うことで上腕筋と腕橈骨筋に負荷を集中させることができる。どちらの方が上腕筋若しくは腕橈骨筋に負荷を感じやすいかはヒトによるので自分の感覚に頼ろう。
ハンマーカール
概要
腕橈骨筋は手関節が中間位にある状態で肘関節を屈曲させるときに最も動員されやすい。この状況下で負荷を与える種目がハンマーカールであり、腕橈骨筋を効果的に狙うことができる。
ハンマーカールでは腕橈骨筋をフォーカスして動員させるため、胸郭をやや開く身体の形をつくると良い。ただ腰椎は進展させず外腹斜筋を収縮させ体幹の安定を図る。
ハンマーカールでは親指と人差し指側でバーを握ろう。こうすることで腕橈骨筋を含む橈骨神経に支配されている骨格筋群を動員しやすくなる。
まとめ
この記事では上腕屈筋群の解剖学とトレーニング種目を解説した。上腕屈筋群は上腕二頭筋狙いか腕橈骨筋及び上腕筋狙いかでフォームが異なり、肋骨や脚幅、握り方といった違いが出てくる。
上腕屈筋群を狙う種目は多く存在するが、その種目がどこを狙う上で効果的なのか、どのようなフォームで行うべきなのかが理解できたはずだ。環境や目的に合わせてこの記事の情報を取捨選択してほしい。
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