パワーリフティングとボディビルディングのトレーニングの違いを解説。

はじめに

トレーニングに限った話でなく、物事は目的が変わればそのための方法が異なってくる。

筋トレをしていると、ボディビルディングとパワーリフティングという競技の存在を知るだろう。両方ともパワーリフターもボディビルダーも、ともにジムに行き競技のためにトレーニングをしているので違いが分かりにくい。

今回はパワーリフティングとボディビルディングの目的の違いとトレーニングの違い解説する

両者の違いと、トレーニングの目的の違い

パワーリフティングとボディビルディングの目的

パワーリフティングとは、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスの1RMの総重量の合計を競う競技である。

ボディビルディングとは、筋肥大と除脂肪を行い、ステージ上での身体の美しさを競う営みである。ボディビルディングは競技というよりショービジネスに近い。ボディビルディングでの美しさは、主にバルク(筋肥大)、カット(筋肥大と除脂肪)、プロポーション(ボディビルに求められる骨格)の3つの総合力で判断される。

ボディビルディングの細かいルールは団体によって異なるが、基本的にボディビルディングもコンテスト時の体重によって階級が分けられるという特徴を持つ。

トレーニングの違い

目的が変わればそのためのトレーニング方法が異なってくる。競技特性から考えて、パワーリフティングの目的は、絶対的重量を持つことである。この絶対的重量というのが重要でこれがボディビルディングとの違いである。パワーリフティングにとって筋肥大は副次的なものになる。

一方でボディビルディングでは筋肥大と除脂肪が目的となり、除脂肪は主に栄養戦略という方法をとる。ボディビルディングのトレーニングの目的は一言でいうと筋肥大であり、トレーニングボリュームの増加が重要になる。

仕事率からわかるテンポとレンジの違い

トレーニングボリューム=セット数×レップ数×負荷(=仕事率)であり、仕事率=絶対的質量×移動距離÷時間となる。詳細は筆者の「漸進的オーバーロードを解説。」を見てほしい。

ボディビルの場合、移動距離を高くするためフルレンジ、時間を短くするため爆発的挙上が求められるが、パワーリフティングの場合移動距離は限りなく短くし、ゆっくりと挙上していく。

パワーリフティングとは絶対的重量を持つことである。このことから、パワーリフティングでは同等の仕事量であっても距離が短い方が良いとされる。なぜならその方が力に占める重量の割合が大きくなるからだ。

ベンチプレスはパワーリフティング種目の一つだが、パワーリフティングでは高いアーチを組む選手がほとんどである。パワーリフティングではバーと胸が接触するというルールがあるが、アーチを高く組んだ方が接触するまでの距離が短くなるからである。

一方ボディビルディングで過度なアーチをベンチプレスで組む人ははほとんどない。というのもボディビルディングにとっては可動域を縮めることは基本的にデメリットだからだ。

https://www.youtube.com/watch?v=FOq5hqqSkQ0より引用。絶対的重量を追求したベンチプレスでは、移動距離は限りなくゼロに近くなる。

筋腱複合体に基づく力発揮の違い

ヒトの力発揮は、腱と骨格筋が連動して行われる。腱には弾性力という力があり、腱と骨格筋の二つの性質を合わせて筋腱複合作用といい、腱と骨格筋を一つの構造とみる考え方を筋腱複合体という。

筋腱複合体の詳細は筆者の記事「トレーニングで多くの筋繊維を動員する方法を解説」で触れているのでここでは述べないが、腱の力を使わない方が骨格筋の動員は増えると思ってもらって構わない。

パワーリフティングの場合、腱の弾性力も利用して絶対的重量を挙げていくことになる。これはレンジ中にアイソトニック収縮を行い、腱を骨格筋の収縮で伸ばして弾性力で挙げるといったことを表す。そしてこのようなテクニックを使うと挙上速度が遅くなる。

ボディビルディングでは力発揮が腱で行われては意味がない。ボディビルディングでは腱の弾性力を消失させて骨格筋のみで力発揮をするように心がける。ポジティブとネガティブで0.5秒ほど止めて爆発的挙上を行うといったテクニックが考えられる。

ベンチプレスを例に違いを見てみよう。

以上でパワーリフティングとボディビルディングの目的の違いと、トレーニングの違いを解説してきた。以下ではパワーリフティング種目の一つであるベンチプレスを例に、パワーフォームとボディビルフォームの違いを解説していく。

手首

パワーリフティングでは手首を寝かせる場合が多い。というのも、手首を寝かせた方が手首を立てた場合と比較して可動域が狭くなるからだ。ただ手首を寝かせた状態で高重量を持つと手の関節に大きな負荷がかかりケガの可能性が高くなるので、ボディビルベンチプレスには向いていない。

アーチ

パワーリフティングでは、アーチを組むことが好まれる。これは可動域を狭くすることができるからである。ただ柔軟性がない場合過度なアーチを組むと腰椎や脊椎へ大きな負担がかかりケガの可能性が高くなるのでボディビルフォームのベンチプレスには向いていない。肩甲骨を固めた状態で、ストレスない位置にケツをベンチに、脚を床につけると、自然とブリッジが組めているはずだ。ボディビルフォームでは肩甲骨を固定した際にできる自然なアーチ若しくは自分にとってストレスのないアーチで十分である。

押す位置

ヒトの基本動作の一つに押す動作、つまりプレス動作があるが、これは上に押す上プレスと、下に押す下プレスが存在する。下プレスの方が大胸筋が動き、上プレスだと肩と上腕三頭筋が主に動く。代表的なプレスを、下プレスの順に列挙すると以下のようになる。

ディップス→デクラインプレス→ベンチプレス(下プレス)→ベンチプレス(上プレス)→インクラインプレス→ショルダープレス→バックプレス

ベンチプレスは床に寝てバーを押すという特徴から、下プレスにも上プレスにもなりうる。そしてパワーリフティングのフォームでは基本的に上プレスが、大胸筋を狙うボディビルフォームのベンチプレスでは下プレスが採用されることが多い。なぜなら上プレスの方が下プレスよりも動員できる骨格筋の体積が大きく、重い重量を挙げやすいからである。

ただベンチプレスで大胸筋よりも肩と上腕三頭筋を筋肥大させたいといった目的がある場合は、ボディビルフォームでも上プレスのベンチプレスが採用される。この際押す位置以外の要素をボディビルフォームにすればよい。

レッグドライブ

レッグドライブは主にパワーリフティングで使われるフォームである。脚の力も使ってボトムを切り返すというテクニックである。ベンチプレスはボトムで骨格筋と腱への負荷がも最ものり、トップに近づくにつれ負荷が少なくなっていく。ハーフくらいまでしか肩腕胸の筋肉で耐えることができないとしても、ボトムでレッグドライブを使えば、本来持てない重量を持つことができる。

レッグドライブはボディビルフォームでは基本的には使わない。というのもボトムの負荷を対象筋から逃がす必要はないからである。ただヒップドライブをチーティングのテクニックとして扱うこともできる。しかし同じことをするなら補助者についてもらう方がはるかにケガの可能性が低くなるし、レッグドライブではそれを前提としたフォームになるため、現実的ではない。

まとめ

この記事では、パワーリフティングとボディビルディングの違いを解説し、両者のトレーニングの違いを解説した。

パワーリフティングは絶対的重量を持つことを目的とし、ボディビルでは筋肥大を目的としたトレーニングをする。目的の違いで可動域やフォームの違いが出てくる。

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