中殿筋の解剖学とトレーニングを解説。

はじめに

「くびれをつくりたい!」「脚を長く見せたい!」「お尻を鍛えたい!」身体を鍛える人であるならこのような願望を持つ人は多いだろう。この願望をかなえるのが中殿筋である。

この記事では人の見た目に大きな影響を持つ中殿筋の解剖学や役割、トレーニング方法を解説する。

まず中殿筋の解剖学と中殿筋が存在する意義を解説する。次に中殿筋が見た目に及ぼす影響を明らかにし、最後に中殿筋を鍛える種目を解説する。

中殿筋の解剖学

ネッター解剖学アトラス原著第4版より筆者編集。

中殿筋の意義、起始停止と機能

中殿筋の存在意義は、片脚立位の保持や歩行立位時に骨盤を支持して骨盤が傾きすぎることを制御することにある。ヒトは運動する時に骨盤が傾くが、この時に過度な骨盤の傾きが起こらないように骨盤の動きを制御するために中殿筋が存在する。

片脚立位時に骨盤を水平に保つことができずに脚が浮いている方の骨盤が傾いている姿勢及びそのような徴候をトレンデレンブルグ姿勢及びトレンデレンブルグ徴候という。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2013/0/2013_1181/_pdf/-char/ja参照。

トレンデレンブルグの発生の原因は内転筋群や中殿筋と同じく股関節外転の作用を持つ大腿筋膜張筋の過緊張なども考えられるが、主な原因は中殿筋の筋力不足である。中殿筋の意義がトレンデレンブルグからも理解できる。

https://orphe.io/column/post/duchenne-limp-abnormal-walking-hip-motionより引用。片脚立位時に浮いている脚側の骨盤が傾くのがトレンデレンブルグ歩行(左)で、立位脚側の骨盤が傾くのはデュシェンヌ歩行(右)という。

中殿筋は腸骨稜のすぐ下の腸骨外側に起始も持ち、大腿骨の大転子の後外側に停止する。中殿筋は股関節の外転という機能を主に持つ。そのほか股関節屈曲位と伸展時での骨盤側面の支持の機能を持つ。

中殿筋の細分化

中殿筋の筋繊維は、前面繊維と後面繊維に分けることができる。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/25/0/25_151/_pdfを基に筆者編集。

中殿筋を前面と後面に細分化した場合、股関節伸展位では中殿筋前面繊維が、股関節屈曲位では中殿筋後面繊維の運動への貢献度が高いことが報告されている。

中殿筋を鍛える種目としてアブダクションがあるが、身体を前傾させて行った場合股関節が屈曲した状態で股関節外転するので中殿筋の中でも後面繊維が動員されやすく、背もたれを倒して行った場合中殿筋の中でも前面繊維が動員されやすい。

ただこの寄与割合の変化はものすごく大きいものとは言えない。中殿筋の特定の繊維が使われやすい局面であって、そこ以外の筋繊維が使われなくなるわけではない。どんな動作でも中殿筋の両繊維共同して運動に動員される。

中殿筋は羽状筋?

中殿筋は構成する筋繊維が扇状に配列されており、起始部から停止部の大転子へと収束する形で付着する。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/25/0/25_151/_pdf参照。

形態的特徴から中殿筋を羽状筋と分類する文献も存在する。

確かにこの構造は筋断面積が増加するが、中殿筋は三角筋や大腿直筋のように、筋束の真ん中を腱が走行するような形ではない。また中殿筋のように広い範囲に起始部を持ち停止部に筋繊維が収束するタイプの骨格筋として大胸筋があげられる。このことから紡錘状筋の一種であると考える方が無難であると筆者は考える。

中殿筋を鍛えるメリット

中殿筋が見た目に耐える影響

中殿筋トレーニングについて解説する前に、中殿筋をトレーニングするメリットを解説する。

中殿筋が身体の見た目に与える影響は他の骨格筋と比較しても大きい。中殿筋の発達はくびれをつくることと、脚を長く見せることに貢献する。

正面と後面から見たくびれは中殿筋と広背筋によってつくられる。また中殿筋が発達することで脚として見られる範囲が大きくなる。これによって脚が長く見える。ボディビル競技では身体のXフレームの大きさと美しさが評価されるが、中殿筋の発達することでXの下部分を構成する下半身の範囲が大きくなるというメリットがある。

https://www.reddit.com/r/bodybuilding/comments/8ar9p2/lee_vs_dorian_1991_mr_o/?tl=it&rdt=62001より筆者編集。

上は1991年ミスターオリンピアでのドリアンイェーツとリーヘイニ―の比較。見せ方や身長及び手足の個体差もあるが、中殿筋の発達しているリーヘイニ―の方が脚が長く見えることが分かる。

中殿筋のトレーニング

中殿筋のトレーニング方法は、中殿筋の意義である骨盤の安定という役割を通して中殿筋に負荷を与える方法と、股関節外転の動作に負荷を与える方法が考えられる。前者のトレーニングとしてはブルガリアンスクワットとヒップヒンジ系種目が、後者のトレーニングとしてはアブダクションが代表的である。

ブルガリアンスクワット

ブルガリアンスクワットは片足で行うスクワットであり、骨盤が不安定な状態にある。そのため両脚で行うスクワットよりも不安定な骨盤を水平に保つための中殿筋や内転筋群といった骨格筋が動員されやすい。特に両手ではなく片手でダンベルを持つタイプのブルガリアンスクワットの方が、骨盤が不安定になるため中殿筋が動員されやすい。

ブルガリアンスクワットはヒップヒンジ系種目よりも股関節が屈曲した位置で股関節伸展動作が行われるため、中殿筋の中でも後面繊維が動員されやすいと推定される。

ブルガリアンスクワットで対象筋に負荷を乗せるコツは、しゃがむ方の脚に重心を移動させることである。これができていないからブルガリアンスクワットでふらつくという事態が発生する。

まずベンチの前に立ち、前方へ前進する。前進する距離によってしゃがんだ際の足の位置が変わるが、足の位置よりも重心を対象の脚に置く方が中殿筋と大殿筋へ負荷を乗せる点で重要である。

次に重心をしゃがむ方の脚に移動させる。少しだけ身体を対象とする脚の方へ傾けると良い。こうして重心の位置を移動させたうえで、別の脚をベンチに乗せる。

これでブルガリアンスクワットのスタンスが固まったので、あとはしゃがまない方の脚をベンチにかけて深くしゃがむ。

脚の位置について、膝関節がつま先よりも出ない程度に脚を開いた場合は、動作に占めるヒップヒンジの割合が大きくなるためハムストリングスの近位を刺激しやすい。一方で膝関節がつま先がよりも出る程度の脚の開き具合だと、動作に占めるプレスの割合が大きくなるので内転筋群やだ合いたい四頭筋に刺激が入りやすい。中殿筋や大殿筋に関しては膝関節をまたいでいないので脚の開き具合はたいして影響しないと考えられる。

ヒップヒンジ

デッドリフトの代表されるヒップヒンジ系種目では、動作中の骨盤を支持する役割で中殿筋が使用される。

殿筋群は股関節伸展に近づくにつれて活動が高まることが示唆されており、このことを踏まえるとヒップヒンジ系種目の中でもバックエクステンションが収縮位で負荷が抜けないため中殿筋や大殿筋に刺激を入れるのに有効と思われる。

ヒップヒンジ系種目ではつま先を30度ほど開き腰幅と肩幅の間程度に脚を開くと、重力に対して中殿筋の走行が合致するのでハムストリングスよりも中殿筋及び大殿筋を狙いやすくなる。

アブダクション

中殿筋の筋繊維に対して直接刺激を入れる種目としてアダクションが有効である。

アブダクションマシンでは、上体前に倒して行うと、中殿筋後面繊維及び大腿筋膜張筋が動員されやすく、背もたれを倒して行うと中殿筋前面繊維が動員されやすい。ただ寄与割合が変わるだけで前筋繊維が使われないわけではないので、最もケガせず高出力をかけることができるフォームであれば考えすぎる必要もない。

まとめ

今回は中殿筋の解剖学とトレーニング方法について解説した。中殿筋は骨盤を水平に保つために存在している。中殿筋は腸骨の外側に広く起始を持ち大転子に停止する。中殿筋は前面と後面に細分化することができ、両繊維が動員されやすい局面がある。

中殿筋を発達させることでくびれがつくられたり、脚が長く見える効果がある。

中殿筋を発達させるには、ヒップヒンジやブルガリアンスクワット、アブダクションが有効である。

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