SHBGの生理学
SHBGとは
SHBGとは、肝臓で合成されるタンパク質で、血中で性ホルモンと結合する。主にテストステロン、ジヒドロテストステロン、エストラジオールと結合する。
SHBGが性ホルモンと結合する理由は、遊離性ホルモン濃度を調整するためである。SHBGと結合した性ホルモンは不活性状態となり、受容体に結合することができなくなる。このようにして血中性ホルモン濃度を調整している。
https://juntendo-urology.jp/examination/mens_health/より引用。総テストステロンの内遊離テストステロンは1~2%で、アルブミン結合テストステロンが25~65%、SHBGテストステロンが35~75%といわれている。
血中のホルモンは結合型と遊離型に分類され、受容体と結合し作用を発揮するのは遊離型である。SHBGは標的細胞に到るまでに性ホルモンが遊離型にならないようにするという運搬機能を持つともいえる。
人体への影響
SHBGが増えすぎると、遊離テストステロンが減少することで、低アンドロゲン症、不妊症、骨密度低下などが懸念される。一方でSHBGが減りすぎると、メタボリックシンドロームや前立腺がんリスクが向上する。
筋トレへの影響
遊離テストステロン濃度を高めることが、テストステロンを最適化する戦略の一つであるが、施策は複数存在する。例えばテストステロン分泌を高める施策、コルチゾールへの変換を抑える施策、アロマターゼを阻害する施策等。そしてSHBGを抑制することもそれら施策の一つである。
以下では、SHBGを抑制することで遊離テストステロンを高める施策として採用される、ボロン(ホウ素)、イラクサ根、トンカットアリについて、研究論文を考察していく。
ボロン
ボロン(ホウ素)とは
ボロンとは、元素記号B、元素番号5のミネラルで、水や食材等に含まれている。
1微量栄養素としてのボロンに期待される効果は、カルシウム、マグネシウム、ビタミンDの代謝亢進、SHBG抑制による遊離テストステロン濃度の増加とコルチゾール軽減、抗炎症作用などがある。
ボロンを含む食材として、レーズン(4.51㎎/100g)、アーモンド(2.82㎎/100g)、アボカド(1.07㎎/100g)などがある。
SHBG抑制効果と摂取量
ボロンの作用は複数あるが、筋肥大において高い効果を発揮するのは遊離テストステロン濃度の増加である。この効果について調べた研究を示す。
ボディビルダーを被験者とし、一日2.5㎎のボロンを摂取する群とプラセボ群に分け、総テストステロン、除脂肪体重、筋力を比較した結果、有意差は見られなかった。
一日2.5㎎のボロン摂取では、ボロンの持つ作用を享受できる可能性は低い。
健康な18人の男性を被験者とし、一日10㎎のボロンを4週間にわたり摂取させ、尿中ボロン排出量、尿中ボロン排出量、血漿リポタンパクコレステロール(脂質代謝)、LDL酸化耐性(酸化ストレス)、血漿ステロイドホルモン(エストラジオール、テストステロン)が測定された。
結果として、摂取したボロンの84%が尿中に排出され、エストラジオール濃度が51.9 ± 21.4 pmol/Lから73.9 ± 22.2 pmol/Lに有意に増加、一方でテストステロンは増加したが有意差ではなかった。
8人の健康な男性を被験者として、7日間毎朝10㎎のボロンを摂取させ、0日目、1日目、7日目に血液を採取した。0日目はプラセボ摂取で、1日目、7日目はボロン摂取で同様の手順で採決した。
結果として、摂取6時間後のSHBGのレベルは優位に減少した。また7日後の血液サンプルでは遊離テストステロン濃度が有意に増加しており、エストラジオールが有意に減少していた。また炎症を把握するマーカーであるhsCRP、TNF-α、CRPの濃度が減少した。
上記の研究から、ボロンの持つSHBG抑制効果を享受したい場合は、一日10㎎以上の摂取が必要なことが分かる。遊離テストステロン濃度の上昇に有意差がないと報告する研究があるが、これは個体ごとの総テストステロン量に左右された可能性がある。いずれにせよ、健康な男性では、一日10㎎のボロン摂取で摂取でSHBG抑制が起こることが理解できる。ちなみにボロンの致死量は成人で15000~20000㎎なので、過剰摂取の危険性はほとんどない。
SHBG抑制を通して、遊離テストステロン濃度を高めるためには、ボロンを一日10㎎以上の摂取すると良い。
イラクサ根
SHBG抑制効果
イラクサ根はSHBGがテストステロンと結合することを抑制して、遊離テストステロン濃度を高めるといわれている。イラクサ根がSHBGを抑制する作用機序について調べた研究を考察する。
イラクサ根に含まれる成分の内、(−)3,4-divanillyltetrahydrofuran (DVT)と3-(1H-imidazol-1-ylmethyl)-2phenyl-1H-indole (IPI)が、SHBGと結合することで遊離テストステロン濃度を高める。
SHBGとの親和性はIPIの方がDVTよりも高く、IPIのSHBGへの親和性はテストステロンやエストラジオールと同等と評価された。
亜鉛元素の濃度が高い際に、DVTはSHBGと全く結合せず、IPIの結合は20倍減少した。
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(17)49880-2/fulltext参照。
この研究から、イラクサ根に含まれるDVTとIPIが、SHBG抑制という観点で遊離テストステロン濃度を高めることに貢献することが分かる。SHBGに成分が結合することで作用が発揮するが、これはSHBGの合成を抑制することで遊離テストステロン濃度を高めるボロン(ホウ素)と作用機序が異なる。
また亜鉛元素の濃度が高い際は成分による作用は発揮されないことが分かる。亜鉛はテストステロン合成やインスリン安定化、抗酸化作用といった効果があり、イラクサ根よりも筋肥大に対する恩恵が高い。
DVTとIPIをどれだけ摂取することで、作用を発揮できるかについては研究では明らかになっていない。
イラクサ根に含まれる特定の成分がSHBGと結合することで、遊離テストステロン濃度を高めることは分かったが、この研究は試験管実験で、ヒトでの報告は私が探した限り存在しなかった。また成分をどれくらいとれば作用が発揮されるか明確ではないし、亜鉛濃度が高い時は成分の作用が鈍化すること、亜鉛は筋肥大においてイラクサ根よりも優先度が高いため、イラクサ根摂取の優先度は低い。
トンカットアリ
研究
男性ホルモン欠乏がみられる男性の被験者76名に、200mgのトンカットアリを1か月摂取させたところ、90.8%の患者の血中テストステロン濃度が正常値を示した。
一日200㎎のトンカットアリ摂取は、男性ホルモン欠乏症に効果が見込める。ただ健康なヒト、つまり遊離テストステロン濃度が正常なヒトに対してトンカットアリが効果があるかはこの研究からはわからない。
2トンカットアリの摂取と総テストステロン量の関係を調べたメタアナリシスを考察する。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9415500/より選ばれた研究の内、健康なヒトを被験者とする研究5件を抽出。
こちらの研究を考察する。まず600㎎のトンカットアリを2週摂取した群では、有意差とは言えないが摂取後総テストステロン量が増加した研究と、優位に増加した研究が報告されている。この2つの研究で注意したいことは、被験者の総テストステロン量が高いということだ。一般的な男性の総テストステロン量は300~1000ng/dlであり、先の研究の被験者は実験前から800ng/dlと高い。
200㎎12週の摂取と、100㎎12週の摂取で優位に総テストステロン量が増加したと報告されているが、彼らの実験前の総テストステロン量は200ng/dlと低い。日本泌尿器学会はLOH(男性ホルモン欠乏症)の診断基準を、「総テストステロン値が 250ng/dL 以下または血清フリーテストステロン値が7.5pg/mL」としており、この基準からすると彼らは男性ホルモン欠乏症である。なぜ彼らが「健康なヒト」と判断されたかはわからないが、先のLOH患者に対する効果を補強する結果となる。
最後に300㎎12週の摂取で有意差無しとする研究の被験者の総テストステロン量は平均的である。
この研究に基づくと、健康なヒトがトンカットアリによる遊離テストステロン濃度及び総テストステロン量を増加させる作用を享受したいなら、一日600㎎以上の摂取が推奨される。
トンカットアリのメカニズム
トンカットアリが遊離テストステロン増加に寄与するメカニズムを解説する。
クアッシノイド(Quassinoids)に含まれるユーリコマノンは、0.1、1.0、10.0μMの濃度で用量依存的にテストステロン算出を優位に増加させた。ユーリコマノンは、アロマターゼ阻害薬と同様の作用で、テストステロンのアロマターゼを抑制することで作用を発揮した。
上記の研究はラット実験なので、ヒトで同様の効果が発揮されるかは不明であるが、トンカットアリによる遊離テストステロン濃度増加作用の一つと考えられる。
64名(男性32名、女性32名)の被験者を、トンカットアリ(Physta™)一日200㎎を摂取する群とコントロール群に32名ずつランダムに割り当てた。期間は4週間で、0週目と4週目の朝、午後、夜の3回の時間帯に唾液サンプルを用いて遊離テストステロン濃度と遊離コルチゾール濃度を分析した。
結果として遊離コルチゾールへの暴露は16%減少し、遊離テストステロン濃度は37%増加した。
こちらの研究では、コルチゾールが減少してテストステロン濃度が増加したことが報告されている。ユーリペプチドには、CYT17酵素を活性化させる作用があるといわれている。これによって、テストステロンのコルチゾールへの変換が抑制され結果として遊離テストステロン濃度が増加したと考えられる。
3一応600㎎8週のトンカットアリ摂取で、SHBGが低下したことを報告する研究は存在するが、トンカットアリはコルチゾールへの変換抑制、アロマターゼ抑制の観点から遊離テストステロン濃度増加に寄与する可能性が高い。
Physta®(LJ100®)
トンカットアリはテストステロン濃度を高めるといわれているが、実際はトンカットアリに含まれる成分がテストステロン濃度を高めるのだ。これはイラクサ根でも同じだ。
クアッシノイドに関してはわからないが、ユーリペプチドを多く含む抽出物としてPhysta®(LJ100®)がある。先に挙げた研究の多くでも使用されているトンカットアリ抽出物である。
Physta®(LJ100®)は、Biotropics Malaysia Berhad社が特許開発したトンカットアリ抽出エキスである。通常のトンカットアリから有効成分を抽出することで、効率的にトンカットアリの作用を得ることを目的としている。
内容物は、グリコサポニン 40%、ポリサッカライド 20%、ユーリペプチド 22%である。
トンカットアリサプリメントを選ぶ際は、Physta®(LJ100®)何㎎と表記のあるものを選ぼう。
まとめると、トンカットアリに含まれる成分によってコルチゾールへの変換とアロマターゼが抑制されることで、遊離テストステロン濃度が増加すると考えられる。健康なヒトがこれらの効果を享受したい場合は一日600㎎以上のPhysta®(LJ100®)摂取が推奨される。
まとめ
SHBGは性ホルモンと結合することで、それらの作用を調整する役割を持つ。テストステロンを最適化するうえで、SHBGを抑制するという戦略が考えられる。
SHBG抑制作用を持つといわれる成分としてボロン、イラクサ根、トンカットアリが存在するが、イラクサ根に関しては優先度が低く、トンカットアリに関してはSHBG抑制ではない方面から効果を発揮すると推測できる。ボロンは一日10㎎以上摂取することで求める作用を発揮してくれる。トンカットアリによる遊離テストステロン濃度増加作用を享受したい場合はPhysta®(LJ100®)600㎎以上の摂取が必要になる。
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参考文献
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